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「ごめん…今回ばっかは、ゆかも何とも言えんわ…。」

その言葉に、私はガクッと首を下げた。
すぐ目の前では、私たちの会話の主人公が、コロコロと巧みに表情を変えながら、撮影をしている。

「信じれんよ…。何で、何で…。」

カシャカシャ響くシャッター音。
目線は下げているのに、シャッターの音がする度に
彼女のいろんな表情が頭に浮かぶ。
思わず涙が出そうになり、呼び止めるゆかちゃんの声を無視し
私は立ち上がりトイレに向かった。

のっちと正式に恋人同士になって、半年が経とうとしている。
本当は、もっと前から、惹かれ合い、互いの気持ちに気づいてはいたのだけれど。
何となくそれから逃げていた私に、真正面からぶつかってくれたのは、のっちだった。
いざという時、のっちは本当に頼りになるんだ…。
傷つくことを恐れず、自分の気持ちを真っ直ぐに伝えてくれた。
私は、今この不安でどうしようもないモヤモヤやイライラでさえも伝えられず、ゆかちゃんに相談して逃げているというのに。
私の目からは、遂に涙が零れた。

…昨日、見てしまった。
のっちが、某バンドのギタリストの男の人と、二人で歩いているところを。

…ねぇ、何で?
昨日は、家でゲームしたいって、
ゆかちゃんと三人でご飯行くの断ったじゃん。
人見知りのくせに、私とゆかちゃんがいないと、何も出来んくせに…
何であんなに…昨日は笑顔だったの?

のっちはモテる。
フェスの時、一番アドレスを聞かれるのも、のっちだ。
…そんなこと、知ってる。分かってる。

「あ〜ちゃん…。」

ゆかちゃんが追いかけてトイレにやってきた。

「みんな、何も知らんくせにっ…。のっちのこと、何も、知らんくせにっ…!」

唇を噛んだ私を、ゆかちゃんは困ったように少し笑って、抱きしめた。

「のっちは、あんなキレイな顔して、でも中身は…、あ〜ちゃんいないと、何も、何もっ…!」

「…うん。」

涙がとまらなくなった私を、ゆかちゃんは黙って、ずっと抱きしめた。

「ゆかちゃん…。」
「…ん?」
「別れようかな。」
「えっ…。」

私の言葉に、ゆかちゃんは体を離し、じっと顔を見つめてくる。
そんなゆかちゃんの視線をすり抜け、私はスタジオに戻った。


撮影が終わり、次は会社で雑誌の取材がある。
私だけがのっちのこと、いっぱい好きなんじゃないかって、前から感じていた不安。
のっちは、私がいなくても、笑えるんだ。
私の心はぼんやりと、だけどどこかスッキリしていた。

会社に到着し、その中の一室のドアを開ける。
その時だった。

パァ〜ン!!!

「あ〜ちゃん!お誕生日、おめでと〜!!!」

私はびっくりして固まった。
来週は、私の20歳の誕生日だ。
入った部屋は、いつもの殺風景さはなく、キラキラと飾り付けられていた。

「あ、ありがとうございます…。」

私をとりまく、たくさんの人の笑顔。
毎年のことなのに、いつもいつも、驚かされてしまう。
スタッフさん達からのプレゼントに、自然と涙が溢れた。

「あ〜ちゃん、おめでとう!」

のっちはニコニコしていて、何だか私よりも幸せそうな表情をしていた。

「…ありがとう。」

だけど…今の私には、その笑顔さえも、何だか苦しくて切なくて…
うまくのっちと目を合わせられずにいた。
一通り、パーティーが終わったころ。

「ここで!もうひとつ、あ〜ちゃんにプレゼントがありま〜す!」

そう言うゆかちゃんに、背中を押されるのっち。
その手には、一本のアコースティックギター…?

「あ、あのね…。練習したけぇ、聴いて…?」

真っ赤な顔をしたのっちが、ギターを抱え、私の前のイスに腰掛けた。
私は、わけが分からず、ぽかんとしていた。

「のっちね、あ〜ちゃんのために、ずっとずっと練習してたんよ。」

いつの間にか私の隣に座ったゆかちゃんが、コッソリ囁く。

「昨日見たあの人。あの人にギター、教わって。」

えっ…。

「一生懸命、練習したから、聴いてあげて。」

ゆかちゃんは優しく微笑んだ。

ばかのっち…
私の目からは、すでに涙が溢れ出していた。


♪今まで あたしがしてきたこと♪

真っ赤な顔をしたのっちが歌い始めたのは、私の大好きなaikoさんの『桜の時』だった。
いつ、練習したん?
お休み、全然なかったじゃん…
♪あなたと逢えたことで 全て報われた気がするよ♪

そうか…
最近ずっと大好きなネイルに行かなかったのは、
爪を短く切っていたのは、
このためだったんだね…。

♪幸せなキスをするのが あなたであるように♪

タコみたいに真っ赤な顔して…
まゆ毛をハの字に下げて…。
コードチェンジする度に途切れるメロディー。
だけど…私にとって、その歌声、演奏は、世界一の甘いものだった。

「あ〜ちゃん…お誕生日、おめでとう。ずっとずっと、一緒に、いようね。」

のっちは、タコさんのまま、私の目の前にやってきた。

「ばか…。」

私は大泣きしながら、胸に飛び込んだ。

「ばか、言わんとってよ。」
「ほんっまに、ばか…。」
「もぉ…。」
「ありがとう…大好きだよ。」

のっち…誕生日当日は、二人で一緒に過ごそうね。

  • END-





最終更新:2009年03月17日 17:37