あれから一週間が経った。
彼女への気持ち、貫いていた愛
全ての自信が崩れてしまってからというもの、
私は、気を張っていないと立っていることもできなくなりそうだった。
「今日も、疲れたね…。」
ふたりでいても、ぎこちなさは隠せなくなっていた。
新曲のリリースを控え、目の前のことに追われる毎日。
体はクタクタになりながらも、余計なことを考えなくて済む分、私には好都合だった。
『先にシャワー浴びてくるね。』
あの日ムリヤリ玄関で私の体を奪った後、静かに涙を流す私に
彼女はその涙を拭うわけでも優しく抱きしめるわけでもなく
ごめん…と呟いて私から離れた。
彼女も私の変化に気づいていることに間違いない。
だけど彼女は私を問い詰めない。
私を求めない。
忙しいせい?
疲れているから?
結局、こうして一緒にいられたのは、私が彼女を縛りつけていたからなのではないだろうか。
あの日…
一年前のあの日から、彼女は私を傷つけたことに責任を感じ、
ただ、そばにいてくれているだけなのかもしれない。
私はお風呂場から聞こえるシャワーの音を聞きながら、考えを巡らせた。
明日は久しぶりに仕事が夕方からだ。
こんな状態で、彼女と二人きりの時間は私には耐えられそうにない。
どうすれば…、
そう思った時、シャワーの音が止まり、お風呂場のドアが開くがした。
髪をくしゃくしゃ、と拭きながら出てくる彼女。
「友達から、連絡があって…」
思わずでた言葉に、自分でも驚く。
『…分かった。気をつけてね?』
やっぱり彼女は、
私を問い詰めない。
涙ぐむのが自分で分かり、私は彼女に背を向け、玄関に行く。
扉を開けようと手をかけたその瞬間、
!!!
…彼女に、抱きしめられた。
一週間振りの感触。
私の大好きな…彼女の感触。
彼女は今、どんな顔をしているのだろう。
「ちゃんと、連絡するから。」
私は振り返ることなく、扉を開けた。
パタリ、
扉が閉まり、私と彼女の間に壁が出来る。
その瞬間、私はその場にしゃがみこんだ。
私には、彼女に触れてもらう権利など、ない。
愛してもらう、資格は、ない。
まばたきをすると、涙が落ちてしまいそうだった。
ガチャリ、
彼女が鍵をかける音が聞こえ、私は立ち上がった。
屋上に上がり空を見上げる。
冬は、もうそこまできていた。
寒くなると赤くなる私の鼻を見て、バカにして笑ってくるキミは、もういない。
下を見下ろすと、あの日の公園が広がっていた。
私の足は、自然とそこへと向かっていた。
ブランコに座り、ゆらゆら揺れてみる。
ゆらゆら
ゆらゆら
考えなければいけないことはきっとたくさんあるのに
何から考えればいいのか、何が正しくて何が間違いなのか
今の私にはそれすら分からなかった。
真っ暗闇の中、外灯がぼんやりと私を照らす。
ガサッ、と後ろで音がして私は思わずビクッとする。
私を守ってくれる、彼女はいない。
のっち、のっちぃ…
私の目からは、遂に涙がこぼれ落ちた。
その時だった。
『…何しとん。』
静かな中に響いた声に思わず顔をあげた。
だけど彼女は触れてはくれない。
ぎゅっと捕まえていてはくれない。
「のっちのこと、好きなのか…分からん…。」
私は、言葉を吐き出した。
「ゆかはっ、の…っち、こと…っ…、」
溢れてくる感情に、涙に、
うまく言葉が追いつかない。
そんな私を、彼女はただ黙ってじっと見つめていた。
『もう、いいから…。』
彼女は私の言葉をさえぎる。
『だからお母さんとこ帰んなよ。』
ゆかはただ、のっちのそばにいたいだけなのに…
私はのっちの胸に飛び込む。
やっぱり抱きしめてはくれないその腕に、胸が張り裂けそうになり、
私はすべてを吐き出した。
‘それは愛じゃないよ’
じゃあ、私の胸を独占する彼女へのこの想いは一体何なの?
これが、愛ではないというのなら、
一体…
一体、何が本当の愛だというの…?
「分か、っないよっ…!」
私の想いとは反対に、彼女は私を離した。
ジャリ、と足に伝わるひんやりとした砂の感覚に、
あの日のことが重なる。
あの日私はこの場所で、彼女に別れを告げられ、意識を失った。
‘結局、一年前と何も変わってないんだね’
あ〜ちゃんの言葉がループする。
今私がこのまま立ち上がれなければ、きっと彼女はもう戻ってこない。
彼女が私の中から抜けていく感覚に
心が、
足が、
唇が、
ガタガタと震える。
嫌だ、嫌だよのっち…
ゆかを、おいてかないで…
『私がさ、他の人に、こんなことしていいの?』
彼女に後ろから抱きしめられ、
深く、深く唇を塞がれる。
『独占、しててよ。』
『それがゆかちゃんの…愛し方、なんだから。』
彼女の強い瞳。
『のっちの中、ずっとゆかちゃんでいっぱいにしてて。』
その瞳は、
私を、
私だけを映していた…
「ゆかの…、のっち…?」
私は確かめるように、彼女の背中に腕を回した。
『そうだよ。ゆかちゃんの、のっち…。』
その言葉に、私の心は何か心地よい感覚に支配され、思わず口元が緩むのが自分で分かる。
「ゆかの、のっち…。」
私たちは、まともに愛し合うことなど、きっと永遠にない。
だけど、これが私たちの
愛のカタチ。
私は彼女に深くキスを落とした。
もう絶対に離さない…
最終更新:2009年03月29日 22:40