(06)354 『モーニング戦隊リゾナンター 決意の少女』

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新垣里沙は、夜の道を歩いていた。辺りは深い闇に覆われている。
新垣は子供の頃、夜が嫌いだった。
闇の中では全てが見えなくなり、この世界に一人だけ取り残される。
孤独。
だが、いつからかそれに慣れた。
闇は全てを覆い、包み隠す。目を背けたくなる過去でさえ。
闇は心地がいいと、そう思うようになった。

そんな彼女の心にも、かつて光があった。
伝説の少女戦隊アサ=ヤン。彼女はその熱狂的なファンだった。
彼女だけではない。日本中が、伝説のヒロイン達の虜となっていた。
誰もが彼女達を尊敬し、愛していた。新垣もそんな人間の一人だった。

新垣は彼女達のようになりたいと、日々腕を磨いた。
彼女の熱意は実り、彼女は少女戦隊の一員となった。
新入りの新垣に任される仕事は雑用まがいのものも多かったが、彼女にはそれで十分だった。
憧れの人たちの側にいられたのだから。
だがそんな日々にもやがて終わりが訪れる。


闇の支配者であるダークネスが仕掛けた戦術は、危険で残酷だった。
闇は光のない夜に種をまく。その種は水も肥料も必要としない。
その種を育てるのは、人間の心。そのことをダークネスは誰よりも理解している。
その種が芽吹いた後には、光さえ糧となる。
そうして闇は全てを手に入れる。それが闇の戦い方だ。
ある者は卑怯な罠によって死に、ある者は闇の底知れぬ力に魅せられ、堕ちた。
次第に光の戦士達は敗戦の色が濃くなっていった。

アサ=ヤンのリーダーであり人々の希望であった安倍は、状況を打開すべく、攻勢に打って出た。
その安倍を補佐したのは、新垣と同期のメンバーであり、同時に大親友であった高橋愛という少女だった。
世間には名前こそ知られていなかったが、その力は安倍に並ぶほどだった。そのことは新垣自身が良く知っている。
新垣は2人の勝利を信じて疑わなかった。
実際2人の力は凄まじく、次々と劣勢を覆し、ついにはダークネスの城塞へ攻め入った。
2人は、新垣が子供の頃から夢見てきたヒロインそのものだった。
そのヒロインはいつだって負けない。
そう、光はいつだって無敵なのだ。

だが、子供達は大人になるにつれ、現実はそう上手くいかないことを知る。
新垣も同様だった。光は、闇に呑まれた。安部の死。

その瞬間、新垣の心に光はなくなった。
唯一の光が消えてなくなり、彼女の心には闇だけが残った。

それでも、彼女の戦いは終わらなかった。
ダークネスに、闇に仕え、その闇の力で光を取り戻す。
光を蘇らせるために、彼女は闇となった。
それが破滅への道だと知りながら。


新垣は途中で拾ったタクシーへ乗り込み、行き先を告げる。

彼女はこれから昔の大親友であり、今は最大の敵となった女に会わなければならない。
女の名は高橋愛。

精神感応と、瞬間移動。それがその女の能力。新垣はそう思い出す。
攻撃にも防御にも適したその力は、かつてダークネス様を追い詰めたほどだ。
だがその力は元々、ダークネス様によって与えられたもの。

i914。それが高橋愛の、もう一つの名前だった。
そのことを新垣が知ったのは、ダークネスに所属してからのことだった。
ダークネスの能力研究開発機関の実験により生み出された唯一の成功例。それがi914。
生まれたての赤ん坊に能力を与え、殺戮者としての人格を作り上げる。
コンコン、いや・・・ドクターマルシェがそう言っていた。

先日そのドクターマルシェから、高橋愛がリゾナンターと名乗り仲間を集めているという報告がなされた。
我が主ダークネス様を倒すために。

そんなことは絶対にさせない。リゾナンターなど、認めない。
アサ=ヤンこそが私の全てだ。

新垣に与えられた役目、それはリゾナンターを監視し、行動を組織に報告すること。
つまり、スパイ。
そして最後は高橋愛を裏切り、殺す。その役目は誰にも譲ることは出来ない。

罪を背負い汚れるのは私だけでいい。新垣はそう決心する。
全ては安部さんを蘇らせ、アサ=ヤンを再び結成するため。
国民に愛された、光り輝く少女戦隊の姿を、もう一度・・・。


ありがとうございましたー!」

喫茶リゾナント。店長である高橋愛は、客に挨拶をする。今日訪れた最後の客だった。

「みんな、お疲れ様。絵里もさゆも手伝ってくれてありがとう。
あとは私がやるから。今日はもう上がって」

「はーい、お疲れ様でした」

「明日も来ますね。検査の結果次第ですけど」

「あ、無理しないでね。絵里はさ、ほら、体のこともあるし」

「大丈夫ですって。最近は発作もないですから」

絵里は高橋にそう答えた。絵里は心臓の病気で入院中なのだった。

絵里の担当医と相談した結果、体調が安定している、外泊許可の出た日だけ、店を手伝ってもらうことになった。
その医者は、絵里の誰かの役に立ちたいという意思を汲み取ったのだ。
生まれついての病により、彼女自身諦めていたこともあったのだろう。
店を手伝う彼女の姿は、本当に嬉しそうだった。

絵里とさゆみは私服に着替え終わると、店を出て行った。

しばらくして、少女が一人、店に入ってくる。

「愛ちゃん、夜食買ってきたっちゃよ。ああ、もうドラマ始まってるけん!
お店の片付け、後でもいいと?」


この少女は、田中れいな。
高橋がれいなと出会ってから二度、ダークネスの能力者と戦った。
1人目は氷の魔女ヘケート。目的はれいなのチカラ。
共鳴増幅。リゾナント・アンプリファイア。高橋は彼女の不思議な能力をそう呼ぶことにした。
他の能力者と共鳴することで、そのチカラを増大させる能力。

れいなはそのチカラのせいでダークネスに狙われた。

2人目は、ドクターマルシェ。
彼女の目的は絵里の能力、傷の共有。
このチカラは・・・、れいなの場合とは違い、どこか異質なものを感じる。
つまり、イレギュラー。
おそらく、彼女が持って生まれた病気のせいだろう。

イレギュラー。自分も同じだ、と高橋は思った。
i914。
それはダークネスの研究により生み出された異質な能力者の名前。
それは自分のことだ。
ダークネスが2人のチカラを利用して何をするつもりかはわからないが、必ず守ってみせる。

「ごめんなさい・・・れいなが間違ってたけん・・・片付け先に決まっとうよね・・・」

突然、れいなが謝ってきた。
ダークネスについて考えているうちに、自分でも想像がつかないほど恐ろしい顔になっていたのかもしれない。

(れいな、居候なのに生意気だったっちゃ・・・)

れいなの心の声が、高橋の意識に流れ込む。

「違うってば!怒ってないって!」


結局、高橋の許可を得て、れいなはドラマを見ることが出来た。
(どうしても見たかったけん、仕方なかとよ)
(愛ちゃん怒らせると怖いっちゃ。これからはきっちり録画しとかんと・・・)
そんなことを考えながら、れいなは1階へ降りた。
高橋は一人で掃除を終え、疲れ切ってしまったのだろう。テーブルに伏せて寝てしまっていた。

入り口には、女が立っていた。そんな高橋をじっと見つめている。

こんな時間に来客なんてあるはずはない。
怪しげな風貌。気配を感じさせない立ち振る舞い。ダークネス。

れいなはすぐさま女に殴りかかった。
能力は使わせない。先手必勝。それが能力の使えない、れいなの戦い方だった。

しかしれいなの拳は女の頬を少しかすめただけで、奥の壁に音を立ててめり込んだ。

「ちょ、ちょっといきなり何すんのよ!私は・・・」
「黙れダークネスの女!れいなの目は誤魔化せんと!」
「えええぇ!?な、なにを言ってるのよ!?」

女は全身で驚く振りをした。その動きは、昭和だ。
昭和で、能力者だ。れいなはそう確信した。

れいなは続けて蹴りを放つ。女は避け切れないとみたか、それを両手でガードする。
3撃目は、完全に空を切った。れいなの狙いは少しずつずらされている。
女の能力によって。

「れいな、ストップ!!」
2人の間に、目を覚ました高橋が瞬間移動で割って入った。2人とも動きが止まる。

「里沙ちゃん!」
高橋はそう言うなり、女に抱き付いた。


それから1階に残ったのは高橋愛と新垣里沙の2人だけになった。

「愛ちゃん、久しぶりだね。もう、何泣いてんのよ」

「だってー里沙ちゃん、死んじゃったと思ってたから」

「そう・・・ね。皆死んでしまったわ」

安倍さんも死んだ。新垣はそう言いかけて、口をつぐんだ。
その事実を口にして、心が乱れては危険だ。
目の前にいる女・・・高橋愛は、心を読むことができるのだから。
だが今のところそのチカラを使っている気配はない。

「里沙ちゃん。私もう一度戦う。ダークネスと」

新垣が数日前に聞いていたドクターマルシェの報告の通りに、高橋はそう口にした。

「・・・愛ちゃん、本気なの?安倍さん達でさえ敵わなかったのに、私達の力じゃ・・・」

「それはまあ、そうかもしれないけど。でも、昔とは違うから。昔を知っているから、出来ることがある。
昔を知る私達がやらなくちゃいけない。私達が新しい少女戦隊を作るの」

過去の戦いをもう一度繰り返すわけじゃない。これは未来への戦い。
皆が幸せになった未来で、皆と一緒に朝を迎えたい。
そのための少女戦隊。それがモーニング戦隊リゾナンター。高橋愛は、そう言った。


彼女の説明下手なところは昔と少しも変わっていなかった。
だが新垣は彼女の言っていることが理解出来る。
ずっと一緒にいたのだから。

だが。新垣は思う。
そんなことは無理だ。彼女の考え方の甘さも昔と変わっていない。
安倍さんの代わりになることは誰にも出来ない。
だからこそ・・・闇に染まったのだ。

新垣は答えた。今更何を言われても、新垣の出す答えは変わらない。
そう、答えはもう決まっているのだ。光が闇に敗れた、その日から。

「わかったよ、愛ちゃん。一緒に戦おう」

「・・・ありがとう、里沙ちゃん。里沙ちゃんなら、絶対そう言ってくれると思ってた」

「愛ちゃんってば、また泣いてる。そうやって泣き虫なところは昔と変わらないね」

「里沙ちゃんだって、涙目になってるがし」

高橋愛と新垣里沙。かつて少女戦隊に憧れた2人。
運命は走り出す。
同じ過去を知る2人が描く、違う未来へ。


新垣は喫茶リゾナントを出た。

「・・・以上です」
これから定期的に行うことになる、組織への報告。新垣はその第一回目を今、終えた。

「あ、すみません、ちょっといいですか?」
返事はない。通信の相手は、ダークネス創立時からその闇のオーダーに名を連ねる、『オリジナルメンバー』の一人。
その能力は未来予知。常に未来へ意識を漂わせているため会話が成立しないことは多い。

「今日遭遇した人物は2人。田中れいなと高橋愛。このことは確かにあなたの予知通り」
『・・・私の予知が完璧ではないと?』
「いいえ、ただ・・・2人の力は予想を上回っています。私は田中れいなに精神干渉を仕掛けましたが、
彼女の身体の自由を奪うことすら、簡単にはいきませんでした」

返事はない。新垣は躊躇わず続ける。

「しかし今なら殺せる。彼女はまだ未熟。リゾナンター達が力を付ける前に、全勢力をもって片付けるべきです」
『・・・駄目だ。ダークネス様の意思ではない。時が来るまで待て』

通信は唐突に途切れた。そう、それは闇の戦い方ではないのだ。
 ・・・全ては彼女の予知通りに進んでいるということだろうか。
今日の潜入が上手くいったのも、彼女の予知通りにシミュレーションしておいたおかげだ。


しかし全てが予知出来たわけではない。今日見た2人の能力者のこと。

高橋愛。彼女が昔と変わった点が1つだけある。
彼女の親友だからこそ、気付く変化。
彼女には、強い意志が備わっていた。戦う目的。昔の彼女からは感じられなかったそれが。

そして田中れいな。私をいきなりダークネスと決め付け、殴りかかってきた。
彼女も高橋愛と似て少し・・・いや、色々と足りていないかもしれない。
だが、高橋愛と決定的な違いがあった。
彼女の勘は当たっている、ということだ。

不安要素は少なからずあった。それでも、必ずやり遂げてみせる。
見ててください、安倍さん。
新垣は再び、闇に覆われた道を歩き出した。


その数日後。都内の撮影所にて。大勢の人間が、慌しく動き回る。
少し離れた場所に女がいた。撮影の合間の、休憩時間なのだろう。
その女は高級そうなブランドもののバッグからデジカメを取り出し、それを強く握る。
念を送っているのだ。
といっても、念を送るという行為がどういうものか、それは誰にもわからない。
彼女だけが知っている。

女は、写し出された映像を眺めた。デジカメを操作し、映像を切り替えていく。
その映像はもちろん、そのデジカメで実際に撮影されたものではない。
その映像が未来のものか過去のものか、今実際に起こっているのか。
それは彼女にもわからない。
ただ、真実だけがそこには写る。彼女は能力者だった。

しかし女はその写真に心を留めることはない。
写ったものの半数以上が、彼女にとってはどうでもいいもの。
(今日はないかな・・・でも・・・!!あった!!)
女の目的は、その中のいくつかの画像。

「きらりちゃん、何見てるの~?」
女は唐突に話しかけられ、振り向く。女よりももっと幼い、小さな少女がそこにいた。

撮影スタッフの子供だ。本来は出入り禁止だが、どうしても娘が会いたがっていると言われ、許可した。
女は子供達の憧れの的だった。
女も子供が好きだった。薄汚い大人と違って、純粋な存在だから。

「じゃあ、特別に見せてあげよっか。誰にも言っちゃダメだよ。きらりとの約束ね」

女は少女と目線を合わせるように屈み込み、そう言った。
少女は嬉しそうに目を輝かせながら、うんうんと頷く。
少女はデジカメを覗き込んだ。

そこには、組織と連絡を取る新垣里沙の姿が写っていた。























最終更新:2012年11月24日 08:54