(06)836 『夢から醒めて』

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「あなたと私は、高校時代チア部だった同級生。
 私は慶応大学に進学、あなたは急死した両親の喫茶店を継いだ。
 そして二人は今日、偶然出会い思い出話などしている・・・。
 よし、321で目を覚ませ。はい、3,2,1・・・・」




『夢から醒めて』




「いやあコンちゃん!ひっさしぶりやねえ~」
「ほんとね、2年ぶりかな・・・」

OK、完璧に暗示にかかっている。
ここはダークネス東京支部。
その中でも外部とは完全に遮断された私の研究室だ。


「なんや、大人っぽぉなったなあ」
「愛ちゃんこそ超髪切ったね、似合う~」
「アヒャヒャ~」

照れ笑いするI914。
まったく、さっきまでの殺意は何だったのだろう・・・。



914が買出しに行くところを待ち伏せて襲い、激しい戦闘の末になんとかここに運び込んだ。
目的は現在のリゾナンターの状況を聞きだすこと。
暗示はそのために掛けたものだ。

「しっかし思い出すね、三田コーチきつかったなあ」
「ははは、本当。マジヒステリーだったよね、あの人」

過去の物語も完全に彼女の脳内に叩き込んだ。
どこからボロが出るか解らないし、完璧主義が私のモットー。
ストーリーは、こうだ。

名門女子高、朝比奈学園で私達は出会った。
そして麻琴、里沙と共に学園の花形チアリーディング部『朝比奈Angel Hearts』に入部する。
高橋愛は入部直後からメキメキと頭角を現し、一躍学園中の人気者となる。
それ故に嫉妬もされ、部内は分裂し廃部の危機にまで至った。
しかし私達は結束してそれを乗り越えたのだ。
引退直前のチア大会では優勝こそ逃したものの、素晴らしい演技を成し遂げた。
そして愛は実家の喫茶店を継ぎ、私は慶応に合格。
麻琴はアメリカに留学、里沙はアパレル系の企業に就職した。
嗚呼、朝比奈Angel Hearts!! 私達の青春よ!!

・・・我ながらベタだなあ。
でもまあこの単細胞を騙すならこんなものだろう。



「でね、愛ちゃん、最近里沙ちゃんどうしてる?」

ここからが本題。
あの娘は本当に馬鹿。
スパイが敵チームのリーダーに入れ込むなんて、飛んだお笑い草だ。
私は、あんな風に自分の首を絞めるようなマネはしたくなかった。
だから、自らダークネスに志願し、彼女たちの敵となった。
あまつさえ、第一線で戦うことを願い出た。
毒を食らわば皿まで、全てを捨てなきゃ前には進めない。

「あ~ガキさん?そういやこないだ呑みいったでぇ・・・」

酔ったI914を介抱した里沙ちゃんは、そのまま彼女を自分の部屋に泊めたそうだ。
・・・ああもう、そんなに好きか。リゾナンターが、高橋愛が。
馬鹿、里沙のバーカ!!
いつだってそうだ。
私達が戦闘組織Mだった頃から、I914は注目の的だった。
高い戦闘能力、優れた直感力・・・。そして何よりメンバーを率いるカリスマ性。
他のM五期メンバーは、いつだってI914の背中を見ていたんだ。
里沙、あんたは悔しくないの!?



他のリゾナンターの情報も聞き出してみる。
あまり変化はないようだ。
亀井の体調も割りと良いようで、今は退院しているらしい。
・・・なんだかほっとしている自分が情けなかった。

「ああそういや、あたし彼氏と別れたんよ」

おやおや。
サラッとした言い方に、私は少し驚いた。
メンバー内の風紀を正すため、リゾナンターは恋愛禁止のはずだ。
M時代からの規律ではあるが、殆どのメンバーが陰でよろしくやっていた。
今もまあそうなんだろう。
しかしあの高橋愛が規律違反ねぇ、変わったもんだ。

「・・・まあそれがしょうもない男でやあ。
 方言直せとか、しゃべり方汚いとか色々うざかったんやでえ。
 やから、あたしから振ったったんよお・・・」

嘘だ。
話の端々から、いかにその男に惚れ込んでいたのかが伝わってくる。
あの頃から、あんたはそうだったね。
馬鹿で、乱暴で、空気読めなくて、強がりで・・・。




「嘘やよー・・・」

突然泣き出したI914。

「あーし、アホやし乱暴やから、振られてもうたんよ。
 アハハ・・あっかんなぁ、ええ人やったんやでぇ・・・」

ほらやっぱり。
嘘が下手なのも、そのまま。
おおかた悪い男に本気になって、捨てられたんだろう。
昔からMのメンバーには碌でもない男ばかりが寄り付いた。
まあそんな風だからこそ、女同士でやっていけるのかもしれない。

「しっかりしなよ、愛ちゃんならすぐ良い人見つかるって!!」
「そっかなあ・・・あーしな、あの人まだ好きなんよぉ。
 あの人よりええ人なんておるかなぁ・・・」
「もう、愛ちゃんは学校中のアイドルだったんだよ。
 大丈夫。ほら、鼻かみな」
「うぇええ、コンちゃあん・・・大好きやよ~!!」

私はしがみついてくるI914をどうしようも無く抱きしめた。
そして、こんな事を考えていた。
もしかしたら、私達は本当は普通の人間で、夢を見ているだけなんじゃないか。
この催眠術のための虚構の思い出こそが真実で、大学生の私が奇妙な夢を見ているのかもしれない・・・。



まぁ、どちらにしても同じ事。
私はこの女を憎んでいる。
愛している。
尊敬し、畏怖しながら軽蔑している。
ねぇマコ、マコはこの子と私、どっちが好きだった・・・?

はい、遊びはお終い。
私はI914の耳に囁きかけた。

「今から小一時間ほど眠りなさい。
 今日私と話したことは全て忘れるように・・・いいわね。
 3,2,1」

とたんに、泣き叫んでいたI914が、スッと黙りこんだ。
よし、実験は成功。
あとは部下にリゾナントの近所にでも送らせよう。
じゃあね、『愛ちゃん』。

研究室のドアを開けると、雨が降っていた。
ちょうどいい、散歩でもしよう。
今日の私はどうかしている。
この雨がやむ頃には、この下らない涙も枯れているだろう・・・。



「いらっしゃいませーっ、て愛ちゃんどげんしたとー!?」

「アッヒャー、遅おなってごめん。
 八百屋で稲葉さんとこの奥さんに捕まってもうて、離してくれんかったんよー」

「びしょ濡れやん!!ええけんシャワー浴びてきー」

「そうするわ、れいなごめん!!」

「まあ雨でお客さんもおらんけん、ゆっくり浴びてきぃよ」




ふぅー・・・。
思いきり熱いシャワーを、あたしは頭からかぶる。

「元気そうやったな、コンちゃん・・・」

敵の暗示にまんまと引っかかる程このリゾナントイエロー、甘くない。
あたしは敵状視察のために、気絶するふりをした。
そして、計算どおりにコンちゃんの研究室に入り込んだのだ。
もちろん、話した内容も嘘。
5年近くもいっしょにいたのだ。
心なんて読まなくても大体コンちゃんの考えは想像がつく。

でも、一つだけ、あたしは彼女に本当の事を話した。
付き合ってた彼に振られたこと。
規律をやぶって恋愛してたなんて、絶対にメンバーには言えない。
それに、そんな事を話せる友達もいない。
あたしは誰かに、この事を言いたかったんだ。
嘘でも良いから、優しい言葉が欲しかった。



「チキショウ・・・」

我ながら情けなくて涙が出てくる。

シャワーの水温をぐっと上げる。

あの頃・・・何年か前まではみんなで、同じ未来や希望をみとったはずやのになぁ。
過去に戻れるなら、時を越えてゆきたい。
でも、いつのどこへ?

あの人との別れ・・・ゆっくりと悪化してゆく絵里の心臓・・・崩壊寸前のガキさんの心・・・
藤本さんやコンちゃんが行ってしまう前・・・
考えれば切りがない。
でも、もうどうしようもない。

あたしはシャワーを止める。

どんなに辛くとも、新しい朝を迎えるしかない。
そして、立ち向かって行こう・・・己の生に!!




从;` ロ´)愛ちゃーん、団体様20名ご来店じゃーーー!!




川*’∀’)アッヒャー!すぐ行くやよー!!

                          終




















最終更新:2012年11月24日 10:20