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 ――暑いな……。

 俺は事に至る前に設定した暖房の温度に汗をかきながら、眼下にいる女に
抽迭を繰り返していた。ベッドのシーツは俺と彼女の汗と淫らな液体で、所々
にしみを作っている。
 うっすらと日焼けした彼女――最近付き合いだした俺の彼女・玲菜も全身を
興奮と悦楽で紅く染め、俺が突き上げるたびに快楽の声を放ち、霧のような
汗を飛び散らせている。
「あぁん……! 浩一郎っ……! す、すっごく熱いよぉ! あ、あたし……、
も、もう……んはっ!」
 玲菜が俺の背中に長く整えた爪をつきたてる。そろそろ玲菜は達するらしい。

 ……後で背中に引っかき傷ができていないか、鏡で確認しないとな。
 俺はそんな事を頭の隅で考えつつ、まずは玲菜を達しさせる事に専念する。
 俺も早く玲菜の中に全てを解き放ちたかった。
 両肩に抱えた玲菜の脚をさらに高く、もっと股が広がるように持ち上げる。
 俺と玲菜の結合部分から、白っぽい泡のような液体が ぬらぬらと艶かしく
光を放っているのがよく見えた。
 脚を広げた事により、いくらか締め付けが緩くなった玲菜のそこに、俺は力
いっぱい猛り立った俺自身を突き上げる。
「……っっ! んぁああっ! 浩一郎! あ……たし……イ、イくぅっっ!」

 玲菜の身体が小刻みに痙攣し、一瞬硬直した後、全身から力が抜けて行く
のがわかる。達したのだ。
 では、今度は俺の番だ。ぐったりとした玲菜の上に押しかぶさり、玲菜の奥
深くまで、何度も何度も俺自身を力任せに打ち付ける。
 かすれた玲菜の小さな喘ぎを、湿った肌同士がぶつかり合う音が打ち消し
てゆく。淫らな水音と、互いの肌が奏で合う音が部屋の中を満たしていた。
 玲菜の秘所の奥深くにある 少しざらついた天井を、熱く滾った俺自身の先
端で突き上げる度に、半分朦朧としながら玲菜自身も腰を動かし、小さな悲
鳴に近い歓喜の声をあげる。
「……玲菜。俺もイくぞ!」
 ガクガクと玲菜の体を揺さぶりながら、俺は最後の抽迭を急がせる。
 湿ったリズムの速度と音量がぐんぐん上がり、ついに俺も頂点迄上り詰めた。
 一瞬、頭の中がスパークし、俺は痺れるような感覚で玲菜の中に熱い性欲
を解き放つ。
 精を解き放った瞬間、玲菜の脚に力が篭り、背中に回した腕と絡めた足で
俺を締め付けてきた。玲菜の秘所は、結合部をより深く咥えこみ、離そうとし
ない。まるで俺の全てを喰らい尽くそうとする、別の生き物のようだ。
 俺はそんな性に淫らで貪欲さを示す玲菜の反応が気に入っている。体の相
性がいいのだろう。

 一滴残らず射精した後、俺は一息つくと玲菜の上からゆっくり横に寝転がる。
 そして、まずは手探りで暖房のリモコンの電源を切る。
 きちんとベッドメイクされていたシーツはもうぐしゃぐしゃだ。汗と俺達の液で
乱れており、マットの下に織り込んだ部分までベッドの上にずり上がっている。
 俺はそのマットから外れたシーツの端を無造作につかむと、汗まみれにな
った顔を拭った。
 しわになったシーツは、今まで俺達がセックスをしていた証の淫らな匂いが
染みついていた。

 しばらく脱力していた玲菜が、のろのろと上半身を起こし、ベッドスタンドに置
かれたバージンスリムという煙草に手を伸ばす。
 細い煙草を咥えると、整った爪先でライターから煙草に点火する。
「玲菜、お前煙草吸うんだっけ?」
 玲菜は煙草を吸う、というよりは吹かしつつ、悪戯っぽく笑う。
「えへっ……。この間見た映画の真似。なんだか大人っぽい雰囲気でしょ?」
 俺は無言で玲菜から煙草を奪い取り、灰皿の上で火を消した。
「玲菜には似合わないよ。少なくとも俺は、愛し合った後に女が煙草を吸うの
はあんまり好きじゃない」
 ……ちょっと格好付けすぎたか? 一瞬俺は思ったが、玲菜の方はしゅんと
して、俺を上目遣いに見上げている。
「……ごめん。浩一郎が嫌ならやめるよ。もう煙草なんか吸わない。美味しく
なかったしね」

 一見、今風の割り切った女性のように見えるが、そんなしおらしさが玲那に
はある。付き合い始めて半年、俺はそんな玲菜に惹かれ続けている。
「浩一郎? あたしの事、嫌いになる?」
 玲菜が再び俺に抱きついてきた。
 普段なら、ここで第二ラウンド開始なのだが、残念ながら今日はスキンの残
りがもうない。

 それに、今日俺はこれからちょっとした用事があるんだ。

「嫌いになんかならないさ。でも今日はこれでおしまい。スキンも在庫切れ。
 残念だけど、続きはまた今度な。それと、夕方からちょっとした用事があるん
だよ。悪いけど、シャワー浴びたら今日は帰ってくれないか?」
 『帰れ』という言葉に玲菜がぴくんと反応する。
「用事って何? まさか女じゃないでしょうね!?」

 割と鋭いなと苦笑するが、そんな色気のある話じゃない。
「一応、来るのは女だけどさ。ただの従妹だよ。今度うちの大学に入学するん
で、同じマンションに部屋を借りるから、面倒見てやらなきゃいけないんだ。
 そのうち、玲菜にも紹介するよ」
 玲菜は不審そうに俺を見つめるが、諦めたように裸のままベッドから降りる。
「ちゃんと紹介してよ? 美人なの、その子って?」
「さぁなぁ……。俺ももう何年も会ってないし。色白の日本人形みたいな記憶
はあるが、女は年月で変わるからな。さぁ、急いだ、急いだ!」
 俺は裸のまま振り向いている玲菜の尻を軽く叩いた。玲菜はやや不機嫌そ
うに肩をすくめ、浴室へと消えて行く。

 とりあえず従妹が駅に着くのは17:45予定。
 それまでにこの乱れたシーツだけでも洗濯機に放り込んでおかないとな。
 自分も起き上がると、まだ己自身にスキンがへばりついているのに気づき、
無造作にそれを外すと ティッシュに包んでゴミ箱に投げ込んだ。
 そして、淫欲で汚れたシーツを換えるべく、ベッドからやや乱暴に剥ぎ取った。

 ――上京してくる従妹。確か、名前は藤堂美佳。
 子供の頃は、何度か彼女のお屋敷で遊んだ記憶がある。
 俺の家は藤堂の分家だが、彼女は藤堂本家の一人娘だ。確か最初は兄貴
もいて、一緒に遊んだ記憶はあるが、俺達がまだ幼い頃に不慮の事故か病
で亡くなっている。当時、悲しくてわんわん泣いた記憶はあるが、何故死んだ
のかについては記憶が曖昧で覚えてはいない。
 つまり美佳は唯一残された、藤堂本家を継ぐ娘なのだが、その大事な跡取
りをよく四年も娘一人で上京させる事を許したな……とやや不思議ではある。
 その位、藤堂家は由緒ある古い家柄なのだ。

 まぁ、俺には関係ないさ。分家の親父達の言いつけで、しばらく兄貴として
お嬢様が都会に慣れるまでのお守りをするだけだ。

 俺は新しいシーツでベッドマットを包みながら、これからやってくる従妹につ
いて反芻していた。

 玲菜は相変わらず不満そうにブツブツ言いながら、ストッキングが伝線した
だのとグズグズしている。作業を続けながら、ご機嫌取りの会話をし、なんと
か部屋の玄関まで追い立てる事に成功した。
「夜、きっと電話してね。浩一郎。忘れたら、直接ここに来ちゃうからね!」
「わかった、わかったって。謝るからさ、玲菜」
「じゃ、約束のキスして!」
 部屋の玄関口でとんでもない要求をしてくる。外国じゃあるまいし、そんな所
をご近所に見られたらどうするんだ!? 俺はやや狼狽した。
 しかし、要求に応じてやらないと素直に帰ってくれそうにもない。俺は軽く辺
りを見回すと、玲菜を抱き寄せて唇を重ねた。その途端、玲菜は俺の頭に腕
を絡ませ、ねっとりと舌を絡ませてきた。
 これじゃ挨拶代わりのフレンチ・キスどころかディープ・キスだ。
 しばらくの間俺の口内をむしゃぶった玲菜は、やっと納得してエレベーター
に乗り込んだ。玲菜を見送った後、口の周りについた彼女のルージュに気づ
き、慌ててシャツの袖で拭う。
 ――やれやれ。女の嫉妬は可愛いだけでもないんだな……。

 俺は紅く染まった自分の袖口を見下ろしつつ苦笑すると、性の臭いが篭っ
た部屋の換気作業と掃除機をかける為に部屋に戻った。
 少し急がないと、お嬢様をお待たせしてしまう事になる。


「……間もなく、○○線が当駅に到着いたします」

 無機質な駅のアナウンスが流れてくる。さて、会ったら呼び名はどうしよう?
美佳ちゃん、でいいのかな。年下にさん付けも変だしな。
 俺はそんなどうでもいい事を考えながら、ホームに入ってくる新幹線を見つ
めていた。
 確か6番線のグリーン車から降りてくるはずだ。
「6番線、6番線……っと。この辺か」
 下を見ながら歩いていると、新幹線の扉が開く。さぁ、数年ぶりの再会だ。
 十年以上前の写真を握り締め、俺は降りてくる乗客の顔を眺めていた。

「浩ちゃん! 浩ちゃんでしょう!?」
 突然、鈴を転がすように澄んだ声が、昔懐かしい呼び名で俺に呼びかける。
 声の主の方を振り向いて、俺は一瞬硬直する。

 昔から日本人形みたいな顔立ちだったと記憶していたが、陶磁器のように
真っ白な肌、艶やかで真っ直ぐと伸びた長い黒髪、黒曜石の瞳が赤い唇を際
立たせている。紛れもない美少女が、俺に向かって駆け寄ってきた。

 群青色のツーピースに白い手袋をしていた彼女は、俺のそばまで駆け寄る
と、真っ白な手袋を惜しげもなく投げ捨て、俺に抱きついてきた。
「ああ、浩ちゃんだ! すごく会いたかった! 私の事、覚えてますか?」
 俺の首に飛びついた彼女は、背丈が足りないせいか脚が宙に浮いている。
 それでも不思議と体重を感じなかった。こんなに再会を喜ばれるとも思って
いなかった俺は当惑し、間抜けなセリフしか出てこなかった。
「えっと……。美佳ちゃん……? 大きくなったねぇ」
 少女は俺に抱きついたまま、顔を俺に近づける。
「嫌。浩ちゃんったら、そんな他人行儀な呼び方して! 私の事は美佳って呼
んでくれてたでしょう?」
 今にも紅い唇が触れ合いそうな距離だ。俺は益々どぎまぎした。

「そ、そうだっけ……?じ、じゃあ。美佳。よく来たね。迷わなかったか?」
 美佳は相変わらず唇が触れ合いそうな距離でくすりと笑う。甘い吐息が俺
の顔にかかっているのに気がつかないのだろうか?
「嫌やわ。浩ちゃんったら。美佳はもう大人です! 浩ちゃんのお嫁さんにだっ
てなれるんよ?」

 ――へっ!? いきなり冗談か? 俺はとりあえず聞き逃しておく事にした。
 すると、美佳は俺のとぼけぶりに 形のよい眉を片方吊り上げた。
「……忘れちゃったの? 大人になったら、美佳をお嫁さんにしてくれるって。
 浩ちゃん、美佳と約束したでしょう? 私、ずっと楽しみにしてたんよ!?」

 そんな昔の事を持ち出されてもなぁ……。きっと久しぶりの再会で、はしゃい
だ美佳が、俺をからかっているだけだろう。たまに方言っぽい発音が混じって
いるのも、きっとはしゃいで気がついていないんだろうな。
 いきなり先手を取られっぱなしだが、いつまでも抱き合っているのも気まず
い。俺は美佳を降ろすと、投げ捨てた手袋を拾ってやり、彼女に渡した。
「さ、さぁ。じゃ、いつまでもここにいるのもなんだし、美佳の部屋に行こうか。
 荷物は他にあるのかい?」
 小さな(多分)ブランド物のバッグと、ちょっと少女趣味な小ぶりのトランクケ
ース。美佳の所持品はそれだけだった。
 降ろされた美佳は、ちょっと物足りなさそうだったが、荷物は他にはない、と
答えると、今度は俺の腕に彼女の腕を絡ませてきた。

 いきなり腕を組んでくる美佳の大胆さに、俺はまたも居心地が悪くなって、
思わず周囲を見回してしまう。
「おいおい。美佳はもう大人なんだろ? 従妹同士で腕組むか? 普通?」
「誰も従妹とかなんて知らないでしょ。浩ちゃんたら相変わらず照れ屋さんな
のねぇ。でもね、美佳は浩ちゃんとずっとこうして歩きたかったの! ダメ?」
 黒い瞳が、俺を吸い込みそうに見つめる。まだ、あどけなさを残す瞳に、俺
はなんだか拒む理由がない気がしてきたので、美佳の思うようにさせる事に
した。
 美佳は嬉しそうに俺の片腕に体を押し付け、ぴったりと寄り添う。
 俺は残った方の手で、小ぶりなトランクケースを持ってやる事にした。
「ふふ……。こうしてたら、私と浩ちゃんって、恋人同士に見えるかな? 見え
るよね? 早速、最初の夢が叶っちゃったぁ~」
 美佳は嬉しそうに、俺の腕に頬ずりをしながら小声で囁く。
 俺は相槌を打つように笑いながら、美佳を連れてタクシー乗り場に急いだ。


 先にタクシーから降りた美佳は、俺達のマンションを嬉しそうに見上げた。
「浩ちゃんのお部屋は406号室だよね? 美佳は506号だから……浩ちゃ
んのお部屋の真上になるのかな?」
 まだ住人不在のマンションには、明かりが灯っていない。
 暗い部屋の窓を、美佳は指差しながら探していた。

 確か506号室は私立の医大に通う学生が先月まで借りていたのだが、い
つの間にか空室になり、美佳が借りる事になったのだ。
 藤堂家の力が動いたのか、他だの偶然か。それもどうでもいい事だった。
「美佳、オートロックの使い方とかは読んできたのか?」
「ううん。浩ちゃんが教えてくれるだろうと思って。暗証番号だけはメモしてきた」
 美佳は笑いながらバッグの中に入れていたメモを手渡してくる。

 やれやれ……。大変なお守りを任されちゃったなぁ。
 メモを見ながら、美佳の郵便受けをまずチェックする。実家から手紙やら届
いているかもしれない。
「いいか、美佳。郵便受けはこうやってロック解除するんだぞ?」
「はぁ~い!」
 俺はなんとなく家庭教師気分で、美佳の郵便受けの扉を開いた。

 DMが数通と、茶色い袋に入った封筒が1通。
 DMは屑篭に捨てると、茶色い封筒を美佳に手渡した。
 美佳は封筒を受け取って、差出人を見ると、興味なさそうに破ろうとする。
 俺は差出人の名前がちらりと見えて、慌ててその手を引きとめた。
「ちょっと待った! 美佳! それ……T大の通知じゃないのか!?」
 思わず美佳から封筒をひったくる。
「いいんだってば。浩ちゃん! そんなの受けてみただけなんだから。
 私は浩ちゃんと同じ大学に行きたいの!」
 美佳が迷惑そうに封筒を取り返そうとする。俺は悪い事だと自覚しつつ、そ
の封筒を勝手に開けてしまった。

 ――藤堂美佳。右の者、T大理Ⅲに合格とする。2***年*月*日……――

 ……T大合格!? それも理Ⅲ!? 俺の通ってるのは平凡な私大だぞ!?
「返してっ! 浩ちゃんのバカッ! 実家にばれないようにって、ここの住所書
いておいたんよ!」
 呆然としている俺から便箋を奪い取ると、美佳は急いで破り捨てた。
「お、おい! 勿体無い事するなって! 親に黙って大学決めたのか?」
 修復不能なほど紙を細かくちぎった後、美佳は真っ直ぐ俺を見つめて言う。
「だから言ったでしょ! 私は浩ちゃんと一緒にいたいの! そこは義理で受
けただけなんだってば! 行く気なんか最初からなかったんだもん!」
「……」
 T大といえば、誰しも憧れる難門なのに、平然と合格を蹴る美佳。
 離れていた年月の間に、美佳に何があったのだろう?
「もういいでしょ。浩ちゃん、寒いよ!早く中に入ろ? ドア開けてよぉ~」
「あ、ああ……」
 いわれて見れば、受かったのは美佳であって俺じゃない。美佳の意思が決
まっているなら、俺には何も言う権利はない。
 しかし、なんだか美佳に対する敗北感が陰鬱に俺を襲っていた……。
 俺はのろのろとオートロックを開け、エレベーター呼び出しボタンを押した。

 なんだかいつもよりエレベーターの動きが遅い気がした。
 やっと五階に着くと、506号室の前で立ち止まる。
「美佳、鍵は?」
「え~と……。ちょっと待って。あ、これこれ」
 やはりブランド品らしいキーケースごと俺に手渡す。
「鍵くらい、自分で開けろよ。美佳」
「だって~。なんだか緊張するんだもん。じゃぁ、浩ちゃん、一緒に開けよ?」
 ……はぁ? 俺は意味がわからず、美佳を見つめた。
「ほら~! ウェディング・ケーキの執刀みたいにやろうよ! これもやってみ
たかったんだぁ~。私」
 美佳はキーケースから部屋の鍵をえり分けると、俺に握らせ、その手の上
に、自分の小さな手を添えた。
 なんだか馬鹿馬鹿しい茶番を演じているようで、俺はさっさと事を済ませてし
まいたかった。
「じゃ~ん! これから美佳と浩ちゃんのお城の門を開けま~す!」
 はしゃいでいる美佳に、ややげんなりしながら部屋の扉をあける。
「……当たり前だけど、真っ暗だね……。浩ちゃん、電気のスィッチはどこ?」
「へいへい……。お前も早く覚えろよ? 毎回呼ばれるんじゃかなわないぞ?」
 すっかり主導権を握られている。俺はめんどくさそうに、俺の部屋のスィッチ
と同じ位置をまさぐった。

 ぱっと室内が明るくなる。
 そして次の瞬間、二人共思わず絶句した。2LDKの部屋一杯に詰まれたダ
ンボールの山、山、山……。トイレや洗面所のドアさえ開けられない程の荷物
で部屋が埋め尽くされていた。
「――ど~すんだよ? これじゃ座るどころか、寝る場所もないぞ。美佳!」
 俺は呆れてしまう。どうして女ってのは、こんなに荷物が多いんだ?
「う~ん……。明日にでもハウスキーパーを手配して、なんとかするしかない
よね。この時間じゃさすがにねぇ……」
 言葉と裏腹に、美佳の表情には 全く困った素振りがない。
 そして、ふと過ぎった悪い予感が的中した。
「そういう訳だから、ね? 浩ちゃん。今夜は浩ちゃんの部屋に泊まっていい
でしょ? 子供の頃はよく一緒に昼寝したよね。懐かしいわぁ……!」
 ――やっぱりか。今はもう、お互い子供じゃないんだぞ?
 俺の表情と無返答を察してか、美佳が悲しそうに小首をかしげて俺を見上
げてくる。
「浩ちゃん? まさか、今夜は一人でホテルに泊まれとか言わないわよね?
 浩ちゃんのお父様は、困ったら何でも浩ちゃんに言えって仰ったのよ?」

 親父もまさか、こんな事態までは想定しなかっただろうさ。
 しかし、さすがに今日上京したばかりの少女をホテルに置いてくる訳にも行
かないだろう。
「今夜だけだぞ? それと、俺の部屋には何も食うもんなんかないからな!」
 美佳は嬉しそうに笑うと、またも俺に抱きついてきた。
「心配しないで! どっちにしろ、今夜は浩ちゃんのお部屋で再会のパーティ
ーするつもりだったから、ケータリングの手配はしてあるの!」
 ……やられた! こいつは高級ホテルなんて泊まり慣れてるお嬢様だった
んだ!
「さ、浩ちゃん。お部屋に連れてって。男の人のお部屋なんてはじめて!」
 俺は美佳に引っ張られながら、部屋はきちんと片付けていたかを気にしつ
つ、俺の部屋へと足取りも重く歩き出した。

 俺の部屋の前には、既に某有名ホテルのケータリングサービスが待ち構え
ていた。
「藤堂様ですね。ケータリングサービスをお持ちいたしました。お手数ですが、
 お部屋に通していただけますでしょうか? セッティングさせていただきます」
 いかにもホテルマンらしいサービス営業口調だ。
「浩ちゃん。はよ、お部屋開けてあげて!」
 俺はむすっとしながら、自室の鍵を開ける。
 サービスマン達は素早く部屋に侵入すると、手際よくテーブルセッティングを
開始した。
「お待ちの間に、コーヒーなどはいかがでしょうか?藤堂様」
「そうやね……。私はロシアン・ティーでいいわ。浩ちゃんは?」
「……ビール!」
 不機嫌そうに言ってみると、高級なグラスに盛られたビールが差し出された
のには閉口した。
「ワインくらいしか用意してないと思ったのに……」
 精一杯の我儘だったのだが、美佳は事もなく笑う。
「いやねぇ……、浩ちゃん。彼らだってプロなんよ? 芋焼酎だってあるわよね
ぇ?」
「い、いえ……。さすがにそこまで今回は……。次回からはご用意させていた
だきます! 藤堂様!」
 このホテルにも、藤堂の名前は知れ渡っているという事か。

「では、失礼いたします。藤堂様、またのご用命をお待ちしております!」
 手馴れた手つきで美佳が請求書にサインをし、サービスマン達は去って行
った。
「浩ちゃん。これでやっと二人きりになれたね。あ、鴨のロースト切り分ける?」
 いそいそと小皿に盛り付けてくれている美佳を、俺はやはり不思議そうに見
つめていた。

 そこに、いきなり俺の携帯が鳴り響く。
 着信通知を見る迄もない。この着メロは、いつも俺からの電話を待ちきれず
、電話してくる玲菜だった。

「なぁに? 浩ちゃん。それ、何のメロディやの?」
 ナプキンの上に小皿を置いた美佳が、俺の胸ポケットで鳴っている携帯音
に訝しそうに首をかしげる。
「ん? ああ、携帯が鳴ってるみたいだ。……ちょっとごめん、美佳」
 俺はなんだか美佳の傍で携帯に出る事に対して、なぜか俺の中でシグナル
が鳴り響いていた。
「へぇぇ……。最近の携帯はいろんな音楽が出るんやねぇ」
 背後で美佳が不思議そうに言う。美佳は一体いつの携帯を使っているんだ?
 旧家の育ちだから、新機種などは興味ないのかもしれない。いや、そもそも
携帯など持ち歩いていないのか。何しろ旧家のお嬢様だ、直接電話になんか
出る事も少ないだろう。
 実家では送り迎えのSPが付き添って息が詰まると報告してきていた、毎年
何度か来ていた他愛のない挨拶葉書にも、写メール画像はおろか、携帯番
号やメルアドさえ書いてなかった事を思い出す。

 だが今はそれ所じゃなかった。
 胸ポケットを押さえたまま、洗面所へと場所を移して携帯を取り出す。
 電話の向うで玲菜の不機嫌そうな顔が浮かんでくるようだった。
「もしもし!? 浩一郎? なんですぐ出てくれないのよ! 電話するって言っ
たじゃない!」
 ……やっぱりな。留守電機能をセットしておくほうがいいかもしれない。
「あ、ああ、ごめん。ちょっと電波状態が悪くてさ。こっちから電話するって言っ
ただろう?」
 一瞬、玲菜が黙り込む。しかし、そのまま黙ったままでいないのが玲菜だ。
「だって、いくら待ってもかかってこないんだもん! 従妹さんとは会えたわけ?
 あんまり可愛い子なんで、あたしの事なんて忘れてたんじゃないの?」
 ――そう来たか。
「ああ、さっき駅まで迎えに行って、部屋に送り届けたよ。なんでそういう話に
なるんだ? ちゃんと紹介するって言っただろ。変な邪推はよしてくれよ……」
 俺を挑発しては怒らせ、すぐに玲菜が謝っては、甘い会話に持ち込む。
 これがいつもの玲菜と俺の電話のやり取りだった。
 だが、今日は少し事情が違う。あまり長電話をしていると、美佳が見に来そ
うな気がしていた。
 うぬぼれかも知れないが、今日の美佳の態度を見た限りでは、いきなり玲
菜の存在を知らせるのはまずい、と俺は感じている。
 玲菜が俺のご機嫌取りを始める前に、俺はシャワーのコックを捻って水音
が玲菜に聞こえるようにすると、手短に玲菜に言った。
「ごめん、本当にごめん。今日はもう疲れてるんでまた明日な。風呂の中だか
らもう切るぞ。明日、いつものところでまたな」
「え……?ちょ、ちょっとぉ! 浩一ろ……」
 プツッ。ツー……ツー……。

 一方的に携帯をオフにした。明日にでも謝ってご機嫌を取ろうと決めた。
  明日は大量にスキンを買い込んで、玲菜を満足させてやればいい。
 口やかましく我儘な事も多いが、玲菜の体は正直だ。

 俺はそのまま携帯の電源を切ると、胸ポケットにしまって洗面所から出よう
としてぎょっとした。洗面所の入り口に、美佳が立っていたのだ。
「な、なんだよ、美佳……! びっくりするじゃないか!」
 美佳は手に自分のタオルを握り締めて伏目がちに俺を見上げた。
「だって……。食事の用意ができてるのにシャワーの音がしたんやもん……。
 浩ちゃん、シャワー浴びるんなら、タオル使うかなぁ、って思って……」
 瞬きをすれば、音が出るんじゃないかと思える程 黒くて長い睫毛が美佳の
瞳を隠している。一瞬、泣いているのかと思って、なぜか俺の胸は痛んだ。
「ああ、ごめん。電話してたら風呂場の汚れが目に付いてさ。話ながらシャワ
ーで洗い流してたんだ。風呂は美佳の後でいいんだ。今日はお客様だもんな。
さぁ、食事にしようか」
 我ながら驚くほどさらりと嘘が口から出る。そして俺は美佳の背中に手を当
てて、ケータリングの食卓へと促そうとした。が、美佳は顔を紅く染めたまま動
こうとしない。

「……美佳? どうした?」
「浩ちゃんより先にお風呂入るなんて、恥ずかしい……。男の人を差し置いて
なんて、私、入った事ないんよ。浩ちゃん……」
 抱きついてきた時の大胆さの微塵もない。古風な家で育った少女は皆こうな
んだろうか? そりゃ、お嬢様は専用風呂をお持ちだろうから、後から他人が
使う事もないだろう。
 俺は美佳の謙虚なのか天然なのかも不明な言葉に、奇妙な新鮮さを感じた。
「そ、そっか……。恥ずかしいか。じゃ、いっそ一緒に入るか? 美佳?」
 つい冗談めいた言葉を発してしまう。その言葉で美佳がもっと紅くなるのが、
なんだかとても可愛らしかった。白い肌を耳まで紅く染めて俯いている。
「……」
「じょ、冗談だって! さあ、せっかくのご馳走が冷めちゃうから食べようぜ?」
 頬を染めて無言のままの美佳の肩を抱くと、美佳はピクリと震えながら頷き、
益々顔を上気させながら、俺と一緒に食卓に戻った。

 さすがに有名ホテルのケータリングは美味なもので、量もかなり多かった。
 美佳は先程より口数は減ったが、甲斐甲斐しく俺の皿に料理を取り分けてく
れる。さすがにもう満腹だ、と言いそうになると、黙ってコーヒーを注いでくれた。
 こちらの腹具合を見抜いた、さりげない気配りだ。やはり育ちがよいのだろう。
「は~、旨かった。久しぶりにまともな食事をした気分だよ」
 俺はコーヒーを一口すすると、足を崩してくつろいだ。玲菜には止めろと言っ
たものの、俺自身は元から喫煙者だ。やはり食後の一服がしたくなる。
 ポケットから無意識に煙草を取り出して咥えると、静かに煙を吐き出した。
「……浩ちゃん」
 急に美佳が口を開く。やばい、お嬢様の前では禁煙だったか!?
 慌てて灰皿で煙草をもみ消そうとした俺の手を、美佳が笑いながら制した。
「あ、いいんよ。煙草は吸ってて。浩ちゃん、いつもはちゃんと食事してないの?
 って、聞こうと思っただけなんよ」

 ――あ、さっきの発言か。ちょっと俺と美佳とは会話のタイムラグが合わな
いようで、どうもピントが狂ってしまう。
 そういえば、玲菜はあまり料理が上手くないからなぁ。一緒にいてもコンビニ
か弁当か外食だけど、正直に言うのも変だろう。
「はは……。男の一人暮らしだからな。食事はどうしても適当になるさ」
 適当に答えるが、美佳は真面目な顔で言う。
「駄目やよ。男の人はきちんと食事食べなきゃ! 長生きできなくなるんよ?
 元気な赤ちゃんだって、男の人も健康じゃないと授かれなくなるんよ!?
 ええわ。私が来たからには、浩ちゃんには今後ちゃんと栄養とって貰う!」
 ……は? なんで どうしてそうなるんだ?

「い、いいよ。別に……。毎日こんな贅沢してたら、藤堂の家だって怒るぞ?」
 俺は美佳が毎日ケータリングを頼むのかと思ってどぎまぎした。少なくとも
一回の注文で、両手以上もの諭吉が消えて行く値段だろう。
 そんな浪費の共犯者になれば、それこそ俺が実家から文句を言われちまう。
 美佳は俺の内心を見抜いたのか、可笑しそうに笑い出した。
「嫌やわ! 誰も毎日ホテルに宅配させるなんて言うてへんよ。私だって料理
くらいできるんよ? 明日はスーパーとかにも案内してね? 浩ちゃん」
 そうか……。美佳の手料理か。――って、それはもっとやばいじゃないか!
 俺には一応、玲菜という彼女がいるんだぞ!?

 俺はせっかくの好意だが……と言いかけたが、美佳の言葉に遮られた。
「浩ちゃんのお父様にも、浩ちゃんの生活管理は頼むって言われてたんよ。
私も一人より浩ちゃんと二人で食べたほうが楽しいし、困る理由でもあるん?」
「う……う~ん……。ほら、俺にも大学の付き合いとか色々あるしさ。毎日作っ
てもらっても、無駄になる事が多いと思うんだ。だからさ、気持ちだけ貰っとく
よ。ありがとうな、美佳」
 俺はなんとか理由をつけて辞退しようと試みた。しかし、美佳はもう勝手に
決めてしまっているようだ。
「無駄なんて事はないんよ。食べてもらえなくても、浩ちゃんに作るって事が、
私には嬉しい事なんやもん。浩ちゃんが食べれなくても勝手に作る。これは私
の勝手。それならいいでしょ?」
「それじゃ食材が勿体無いだろ……」
「勿体無いと思うなら、食べてくれる努力をしてくれればいいんやけど。私が
好きでやる事だから、浩ちゃんは何も気にしないでいいんよ?」

 どうもまたややこしくなってきそうだなぁ……。俺の周りは気の強い女性が多
いのか? とりあえず、この話題はもう避けたほうがよさそうだ。
「さ、さて。腹も膨れたし、風呂にでも入るか! 美佳、どうしても先に入るのは
嫌か?」
 美佳はまた耳まで顔を赤らめ、恥ずかしそうに頷く。小声で何か囁くが、よく
聞き取れなかったので、俺はそのまま風呂に湯をはろうと立ち上がった。
 この時、ちゃんと聞き返していればよかったと、俺は後から後悔する。

 風呂場から戻ると、美佳はテレビのリモコンを手に、テレビの前に座り場所
を変えていた。
「都会には、いろんな番組があるんやねぇ……。一杯あって迷わないん?」
 美佳の家ではN○Kか、ローカル局しか契約してないのだろう。しきりと感心
しながら次々とチャンネルを変えている。
 デジタル放送のアダルト番組を見つけなきゃいいが……。
「美佳。本当に先に風呂に入らなくていいのか? 俺、入っちゃうぞ?」
 テレビに夢中になっている美佳に声をかける。
「う、うん……。ええよ。浩ちゃん、先に入ってて」
 振り向かないが、後姿からも耳が紅く染まるのが見える。
 大人ぶっていてもまだ子供なんだな……と俺は思わずにやけながら、先に
風呂に入る事にした。

 脱衣所で胸ポケットから携帯を取り出し、脱いだ服を洗濯機に放り込む。
 新しい着替えの上に携帯を放り投げ、湯気の立つ風呂へと足を踏み入れる。
 頭から何度かお湯を被り、まずは湯船につかる事にした。
 広いとはいえない浴槽の中で、できるだけ手足を伸ばして肩までつかる。
「ふぅ……。なんだかんだ言って、さすがに今日は疲れたな……」
 ――昨夜から今日の昼過ぎまで玲菜の体を何度も貪り、玲菜も俺を貪った。
 その後シーツを換え掃除をして、美佳を駅まで迎えに行った。
 お嬢様の我儘に振り回されたが、豪華な食事でエネルギーは補給できた。
 俺にしては年に何度もない、膨大なスケジュールをこなした事になる。
「まぁ、あんな美少女が従妹だなんて、ラッキーと言えばラッキーだよなぁ」
 俺は大学の連中が羨ましがる顔を想像して、一人ニヤニヤ笑いをしてしまう。
 湯船のお湯でザバッと顔を洗ったときだった。

「浩ちゃん……。入るよ?」
 白い湯気越しに、美佳の声が浴室の中にエコーした。
 俺は思わず浴槽の中で滑ってバランスを崩しつつ、声の主に向かって目を
凝らした。狭い浴室の中に、白と黒のコントラストが浮き上がる。
「ど、どうした!? 美佳。テレビの調子が悪くなったか?」
 またも調子はずれな言葉しか出てこなかった。

 一糸纏わぬ姿になった美佳が浴室に入ってきてるのに、何がテレビだよ!?

「浩ちゃん、さっき言ったでしょ……。『一緒に入るか?』って。だから私、来た
んよ」
 震えるようなか細い声でそういうと、全裸の美佳が浴槽に近づいてきた。
「ばっ……! あんなの冗談に決ま……って……」
 俺は冗談を真に受けた美佳を叱りつける前に、その肢体に目を奪われてし
まっていた。

 白くほっそりとした肢体に、十八の少女にしては整った曲線が艶のある黒髪
の間から垣間見える。やや上向きで弾力のありそうな胸、S字カーブを描くよ
うにくっきりとしまったウエスト。そしてその下から豊かに実った腰と、ほっそり
と長い脚が見事といえるほど人体のラインバランスを造り上げている。

小さな手で局所を隠してはいるが、緊張で震えている為なのか、薄い桃色の
先端がピンと尖って揺れている。局所を隠す丘には、薄い漆黒の草むらがま
るで誘うようにうごめいていた。

 まるで俺の目を意識しているように、陶磁器のような白い肌がピンク色に染
まってゆく。

「浩ちゃん……。私、もう子供じゃないでしょ?」
 俯いた長い睫毛の下から、黒曜石の瞳がゆっくりと俺の視線と絡み合う。
 無言で見とれていた俺を尻目に、美佳はかけ湯をして浴槽に近づいてきた。
「……ちょっと狭いね。浩ちゃん、少し場所を開けてくれる?」
 ほっそりとした片足を俺の入っている浴槽に入れようとしてくる。
 ここでようやく俺は我に帰った。見とれていた体から、勢いを付け過ぎた程
視線を外し、急に首を捻った反動で軽い眩暈を起こしながら美佳に怒鳴った。

「ば、馬鹿な真似するなよ! もう子供じゃないんだ! 男と女が一緒に風呂
に入るなんて、常識的にもおかしいだろ!? お、俺はもう出る!」
 勢いよく浴槽から立ち上がると、小さな浴槽の全体湯が激しく波立つ。
 その波動で、浴槽に片足を入れてようとしていた美佳の身体が、急にバラン
スを崩して倒れそうになる。
「きゃっ……!?」
 美佳の身体がスローモーションのように、背後に向かって倒れ掛かる。
「危ない!」
 俺は思わず倒れ掛かった美佳を、この腕で抱きとめてしまった。
 やわらかい感触が、俺の腕と胸から伝わってくる。互いの鼓動が早まってい
るのが伝わってきた。
「ごめん……、大丈夫か?美佳?」
 美佳は一瞬強張っていたが、俺の声を聞くと首に腕を絡めてきた。
 濡れた黒髪と、白く柔らかい乳房が、支えていた俺の胸と腹部に密着し、艶
かしい感触に俺の奥底から厚いものが滾り始める。俺は必死にその感情を
押し殺そうと、自分自身と戦う羽目になった。
 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、美佳は俺の首筋に頬ずりをする。
「う、うん……。びっくりしたけど大丈夫。浩ちゃんの胸って、服の上から見るよ
りも、広くて大きかったんだね。それにとっても逞しくなったぁ……」
 心ならずも抱き合う形になっている俺の胸に、美佳は紅い唇をそっとなぞら
せてきた。
「ば、馬鹿! 何やってんだよ! 俺とお前は男と女なんだぞ!」
 唇のやわらかい感触に、電気が走るような快感を覚えつつ、俺は美佳を引
き剥がそうとした。
 しかし、美佳はうっとりしたような表情で、歌うように意味深な言葉を囁く。
「知ってる……。浩ちゃんが男の子で、私は女の子。ずっと前から知ってるよ。
浩ちゃんが、もう立派な男の人になったって事もわかってた。
 ……だってここがこんなになってるもん。私だってそのくらい知ってるよ……」
 美佳は俺に抱きついたまま、俺の股間がどす黒い欲望に目覚め始めてい
るのを、はっきりと見下ろしていた。
「わ、わかってるなら馬鹿な真似するなよ! お、男ってのはな、生理現象で
こうなっちまう事もあるんだ! だ、だからもう離れろって!」
 俺が美佳を引き離そうとすれば、今以上に美佳の体に触れなくてはならな
い。
 そして、触れてしまったらもう、俺は欲望を抑える自信はなかった。

 そんな俺の心を見抜いているのだろうか。美佳は更に力を込めて俺にしが
みつき、己の魅惑的な体を俺にこすり付けてくる。
「み、美佳……。頼むよ……! 俺達は従妹で幼馴染なんだぞ?」
 俺は情けなく美佳に哀願した。美佳はまだ処女のはずだ。手を出すなんて、
とんでもない事だ。しかし、美佳ははっきりと言った。
「わかってる。浩ちゃんは私の幼馴染。そして私をお嫁さんにするって言った。
 だから、私はこうして来たんよ。私は浩ちゃん以外の男なんて嫌!絶対嫌!」
 ――昼間言ってたのは冗談じゃなかったのか?
 驚いている俺の唇に、美佳はおどおどと赤い唇を重ねてきた。

 不慣れで唇を重ねるだけの、幼いキスだ。
 だが、今の俺にはそれだけでもう、激情を押さえる堰は崩壊してしまった。
「……知らないぞ。美佳が悪いんだからな!」
「きゃっ!?」
 俺は美佳を抱き上げると、浴室から体も拭わぬまま歩き出す。
 そして、そのままベッドに向かうと、シーツもはがさないままに、美佳をベッド
に投げ下ろした。
 美佳の身体が、スプリングの上で小さくバウンドする。ちいさな悲鳴を上げ、
体勢を整えようとする美佳を、俺は体重を込めて押し倒した。
 ――美佳が、美佳が悪いんだぞ! 俺を挑発するからだ!

「こ、浩ちゃ……んんっ……!」
 互いに濡れた体のまま、俺は美佳に覆いかぶさり、小さな赤い唇をこじ開け、
猛獣が獲物を捕食するような貪欲さで、俺の口で美佳の口を塞いだ。
 片手で美佳の両頬をつかむと、美佳の唇が開かれる。開かれた口内に、俺
は無理やり舌をねじ込み、美佳の舌に絡ませ 貪り始めた。
「んっ……んぐぅっ……!」
 さっきの幼いキスとは違う、雄と雌が交じりあうためのキスを俺は美佳に教
え込んでやる。
 美佳は苦しそうに形のよい眉をしかめるが、再びおずおずと俺の首に腕を
絡ませ、脅えながらも俺の行為に一所懸命合わせようとしていた。
 濡れた黒髪を掻き分け、形のよい乳房に手を這わせる。
「んん……っ!」
 美佳の瞳が驚きで見開かれ、身体がびくんと強張る。しかし、俺の舌で絡め
取られた美佳の唇は、話す事さえ許されない。
 美佳の口内を貪り、互いの唾液が混じりあい、口角から光る線となって溢れ
続ける。片手で美佳の頬を押さえつけ、もう片方の手で美佳の乳房を弄び、
ピンク色に尖った先端をつまんでは捻り、揉み解しつつ刺激を与え続ける。
「……っ!……んんん~っ……!」
 いやいやと首を振り、俺の唇から逃れようとする、美佳の目尻から涙が伝い
落ちた。それでも美佳は腕を振りほどいて逃げようとはしない。

 俺はようやく美佳の唇を少し開放してやる事にした。離れた唇と唇から、透
明な、とろりとした液体が 俺の口から美佳の唇へと伝い落ちる。
 うっすらと開いたままの赤い唇に伝った、光る液を、俺は舌先で舐め取った。
 美佳の唾液は甘く、それは美佳の秘所の味への期待感をも高める。
 つかみあげてぴんと尖ったピンク色の先端が、小刻みに震え光っていた。
 俺はその先端を舌先で転がし、舌全体で舐め汚すと、思い切り吸いあげた。
「……あぁ……っ! い、痛っ……!」
 ようやく しゃべれるようになった美佳が、苦痛を訴える。
 思い切り吸い上げた後、いきなり乳首から口を離すと、吸盤が勢いよくはが
れるような、いやらしい水音が響いた。美佳がびくんと反り返る。
「どうだ? 美佳。怖いだろう? これがお前の期待していた事なんだぞ!?」
 俺はどこか嗜虐的な快感に唆されつつ、あくまでこれは美佳が招いた事だ
と自分自身にも言い聞かせていた。
 もう、俺の股間はかつてない程猛り立っている。今更『やめて』といわれても、
もう止めるつもりはなかった。いや、もう止めたくても止められないところまで、
俺の欲望は追い立てられていた。

 だが、今も抱きついている美佳の反応は予想外のものだった。
「浩ちゃん……。好き……! 大好き! 美佳はずっと前から浩ちゃんのもの
なの。だ、だから……。浩ちゃんの好きなように……して いいんよ!」
 黒曜石の瞳から珠のような涙を流し、美佳は俺に全てを委ねてくる。
「馬鹿だな……。美佳は……」
 俺はそうひと事だけ言うと、美佳の胸に顔をうずめ、乳房を、乳首をまさぐっ
た。形よく、弾力のある尻を揉み解しながら、片手は美佳の中心部へと向かう。
「こ、浩ちゃん……! ……あぁっ! ……浩ちゃ……んっ……!」
 美佳が今感じているのが、恐怖なのか、快感なのか、欲望に支配された俺
にはもう、わからなかった。
 堪えつつも時たまあげる喘ぎ声は、苦痛を発しているのか、快感なのか。
 処女の美佳には多分前者だろう。しかしその声がまたも俺を欲情させた。
 美佳の整った乳房をつかんでは変形させ、美佳の体中を俺は己の唾液で
汚しつつ、美佳の体を支配してゆく。
 美佳は俺の髪に指を絡ませ、時折俺を体から遠ざけようとするが、俺はそ
れを許さない。
 貪欲に美佳の体中を俺の性欲で汚しながら 俺の舌先は、美佳の下半身
へと向かっていた。

 俺の鼻先が、美佳の淡い茂みに到達する。茂みに隠された秘所からは、う
っすらと甘い香りが漂っていた。
「なんだ、感じているのか。美佳。お前、初めてなんだろう?」
 美佳は一瞬羞恥で股を閉じようとするが、既に俺の体は美佳の足の間に入
り込んでいる。
「い、意地悪……っ! 浩ちゃん以外に……私の体は……誰にも……触れ…
…させ……なっ……っ!」
 俺は美佳の言葉を聞き終わる前に、美佳の茂みを指で掻き分け、うっすらと
充血した花びらを乱暴にこじ開けた。
「い、嫌……っ! 痛い……っ……! お願い……も、もう少し……優しくして
……っ! そ、それに……そんな所……っ、は、恥ずかしいよ……! 浩ちゃ
んっ!」

 こじ開けた花びらの中心は、うっすらと液が染み出している。その上の小さ
な蕾は、これから開花するのを待っていたように、小さく震えながら 光る顔を
花弁の中から浮かび始めていた。

「俺の好きなようにしていいんだろ? 美佳。お前も望んでいたことだ!」
 俺は美佳の秘所をすっぽり口で多い尽くすと、俺の口内に含まれている、美
佳の蕾や液の湧き出す場所を舌で乱暴に舐めしゃぶった。
「あぁぁ……っ! ……こ、浩ちゃん! 浩ちゃ……ん! 好……き……!」
 美佳は悲鳴のように俺を好きだと叫び続ける。
 蕾はすっかり固く、大きくなり、秘所からは泉のように甘い汁が溢れた。
 俺はその溢れる蜜を飽きることなく舐め取り、飲み下す。
 美佳の身体が仰け反り、痙攣のように震えても、舌の動きを止めなかった。

 ――もう、何も考えられない。玲菜とのセックスでも、ここまで興奮する事は
なかった。
 俺は全てを忘れ、美佳の脚を大きく広げて持ち上げると、痛いほどに猛り立
った俺自身を、まだ何も知らない美佳の内部に深々と刺し貫いた。
 誰も受け入れたことの無い、柔らかく狭い美佳の内部の襞が、俺の侵入を
阻むように締め付けてくる。まだ細く、未開発な美佳の秘部内部への道を、俺
は突き破り、絡みつく襞をなぎ倒すような勢いで、奥へ奥へと突き進ませた。
 いくつかの壁のように細くなっている道を、割り裂くように突き上げる。
「……! ……!!」
 俺の全てが美佳の内部に埋め込まれると、美佳は大きく瞳を見開き、声に
ならない悲鳴をあげた。
 反射的にずり上がり、俺から逃れようとする美佳の腰を押さえつけ、無我夢
中で美佳の中に抽迭を始める。俺の動きにあわせて、美佳の唇から押し殺し
た、悲鳴のような吐息が零れていた。
 先のみを残して引き抜くたび、美佳と俺の結合部から、うっすらと薄い紅色
に輝く液体が染みとなって滲み出し、点々とシーツに赤い印を刻んでゆく。

 ――やはり、というより当然だが、それは美佳が処女を失った証だった。
「美佳。……声を出してもいいんだぞ!」
 快楽より苦痛が勝るのだろう。美佳はぎゅっとつぶった瞳から涙を流し、悲
鳴をあげまいと、自分の指を噛み締めている。
 時折、噛み締めた指の間から、ごく微かな鼻声が、単発的に零れるだけだ。

 ベッドの軋む音と、淫らな水音のみがこだまする、静かな性行為だった。
 俺はまた汗まみれになりながら、夢中で美佳を揺さぶり、突き上げていた。
 美佳の内部はきつく、初めてだというのに、内部の襞が突き貫く俺自身を締
め付けるように絡みついてくる。
 もうそろそろ限界だ。俺は更に抽迭を早め、美佳の中で爆発したい気持ちで
一杯になった。

 ――待て! 駄目だ! 今日の玲菜との交わりで、スキンがもう無かった!
 さすがに処女、それも本家の後取り娘に避妊なしでフィニッシュするわけに
もいかない。俺は爆発したい衝動を抑えるのに必死になった。
「み、美佳! 駄目だ、抜くぞ! 今日は避妊の準備がないんだ!」
 俺は突き上げる衝動と欲望を抑え、美佳の外で放とうと、貫いている俺自身
を美佳の内部から引き抜こうとした。

 その時、俺の叫びを聞いた美佳の瞳が再び大きく開く。
 抱えていた足を振りほどくと、俺の腰に両脚を巻きつけ、引き抜こうとする俺
自身を、自分の体に引き戻してきた。美佳の体がしなり、俺は再び美佳の最
奥まで結合してしまう。
「ば、馬鹿! 何やってるんだ! 脚を解け! もう限界なんだ!」
 美佳はシーツを握り締めて更に脚に力を込める。
「いいの……! 美佳の中に出して……っ! 浩ちゃんの精子だしてぇっ!」
 引き抜こうとする俺と、引き戻そうとする美佳の絡みつく足がせめぎ合い、美
佳の腰がベッドから浮かんだ形で抽迭を繰り返してしまう。
「美佳! 駄目だったら……っ……くっ!」
 ――限界だった。
 俺は生まれて初めて、生で女の中に欲望を解き放ってしまった。

 それはスキンをつけている時とは、比べ物にならない快感だった。
 俺の欲望が美佳の天井にぶち当たり、俺自身に跳ね返ってくるのがわかる。
 そしてその熱い欲望は、美佳自身も感じていたのかもしれない。
 俺が精を放つ瞬間、美佳はかつてない程の力で、俺にしがみついていた。
 初めてあげる歓声と共に……。

 美佳と俺の結合部からは、うっすらと紅く染まった精液が、じわりじわりと溢
れてきていた。
 白いシーツが、性液で混じりあった液体となり、純白色が赤く汚されてゆく。
 それはまるで、今俺に汚された、美佳自身の象徴にも見えた。
 美佳は頬に涙を伝わせながら、上気した顔で俺にしがみつき、いつまでも離
れようとしない。息は乱れ、丁寧に整えられていた黒髪は、汗と淫液で俺と美
佳の身体にへばりついていた。

 全てを放ち終えた俺はやっと我に帰り、上気した顔に絡みつく髪を、ゆっくり
と美佳の顔から払い落とし、美佳の顔を掌で拭い清める。
「美佳……。今更だけどごめん。その……色々と……」
 俺は息を切らしながら、胸の中にいる美佳を抱きしめ、心から謝罪した。
 美佳は涙の跡を拭おうともせず、俺に抱きついたまま微笑む。
「いいんよ……。私は浩ちゃんのものなんやもん。最初から言ったでしょ……」
「でも、もしこれで妊娠でもしたら……!」
「いいんだってば。私、浩ちゃんの子供なら生みたいんよ。ずっと夢だったんや
もん」

 ――いや、待ってくれ! 美佳はよくても俺は困る! まだ父親になる気な
んかないぞ!?
 それに、今夜のは過ちとはいえ、玲菜にばれたらどうするんだ?
 俺の彼女は玲菜なんだぞ!? これは大学でも公認の関係だ。
 一夜限りで乗り換えました、なんて言葉が通る相手か!?

「浩ちゃん……? 何考えてるの?」
 腕の中にいる美佳が、訝しそうに俺を見上げる。
「い、いや別に……。なんでもない……。そう、美佳には関係ないんだ……」
 美佳の眉が不機嫌そうに攣り上がる。そうだな……無関係ではないな。
 俺は思い切って白状する事にした。
「あのさ、美佳……。黙ってて悪かったけど、俺、今彼女がいるんだ。
 こんな事になって本当に悪いと思ってる! でも、俺その子と……」
 勢いに任せて告白しようとする俺を、美佳の白い指先が制した。

「しっ……! 浩ちゃん、何言ってるの? 浩ちゃんだって男の人だもん。
 セックス・フレンドがいるくらい、私、気になんかせぇへんよ」
「美佳……? 何言ってるんだ? 俺はちゃんとその子と付き合ってる、って言
ってるんだぞ?」
 美佳は腕の中で俺を見上げた。何を考えてるかわからない瞳で。
「関係ないわ。今は浩ちゃんも遊びたい時なんよ。でも、ひとつだけ教えて。
 浩ちゃんは、美佳の事を好き? さっきは気持ちよかった?」

 俺はこの問いに戸惑った。美佳とのセックスは最高だったが、恋愛感情はあ
ったかと聞かれると、正直なかった……。俺が俺の欲望に負けただけだ。
 だが、初めての喪失に避妊もせず、中出ししてしまった罪悪感も含めると、
もう美佳に対して全く恋愛感情は持てない、などとはとても言えない。
 正直、俺自身にもわからなくなっていた。

「ねぇ、どうなの? 浩ちゃん!」
「美佳とはすごく気持ちよかった……。それは認める。嫌いでもない。
 だが、愛してるかって聞かれると、俺達って、今日再会したばかりだし……」
 美佳はそう聞くとにっこり笑った。
「今はそれでいいんよ。私も浩ちゃんに、もっと愛されるように頑張ればいいん
やもん。ね、そうでしょ? 先の事なんて、まだまだわからないじゃないの!」

 年下の美佳に諭されてしまった……。
 確かにこれからどうなって行くのか、それは誰にもわからない。

 俺は溜息をつくと煙草を一本咥えた。
 美佳がすかさずそれに火をつけてくれる。
 とりあえず今夜は眠ろう。明日の事は、また明日考えるしかなさそうだ。

最終更新:2008年03月22日 04:05