8.思考の乗っ取り

 だが、俺は警察に期待してもよかったようだ。
 俺達がただただ呆然と戦車を見つめていると装甲車が視界に入ってきた。見間違いでなければその装甲車は真っ直ぐ戦車に突っ込むコースで走ってきている。そして戦車にぶつかる直前にドリフトをして真横から戦車と衝突。中から何かを手に持った警察(のようには見えない気がするが恐らくSATか何かだろう)が出てきて素早く戦車の上に乗ると、手に持った何かを砲身の根元に当てた。
 すると何ということだ、砲身が折れた。しかも完全に切り落とさないことによって、砲弾を撃つと折れた砲身に着弾して自爆することになる。
 カッコいいぜあいつ。そしてカッコいいあいつが戦車を降りるや否やビルの陰などから武装した人達が飛び出してあっという間に戦車を取り囲んだ。抵抗不可能と判断したのだろう、戦車から武装解除した敵が3人でてきた。手を頭の後ろにやって戦車の前で跪く。シュールだな。
 と、次の瞬間バンッと大きな音をたてて教室のドアが開かれ、その音で意識が教室内に戻った。
「どけ! ガキ共!」
 振り返ると見回りしてた丸っこい奴だった。しかしそいつの手には見回りの時持っていたアサルトライフルではなくスナイパーライフルが持たれていた。
 ズカズカと大股で窓(だったとこ)まで倒れてる奴を踏みつけながら歩いてくると、ライフルのスコープの蓋を外してそれを構えた。狙いは戦車を制圧した多分SATだろう。だろうつかそうだった。マジで撃ちやがった。撃った瞬間耳に重い衝撃でも加わったかのような痛みが走り、女子の悲鳴が更に耳のダメージを加速させる。
「うっせーぞ! 糞アマ!」
 すまん、今はマジでそれに同意だわ。
 そして丸っこい奴はライフルをコッキングして再びトリガーに指をかける。
 その時、俺は何を思ったのだろう、丸っこい奴の腰のホルダーに収まっているハンドガンが目に入った。この展開、大体察しがつくだろう。そうだ。気がついたら俺はハンドガンを持ってて、俺の前には胸に穴が開いた丸っこい奴が倒れてた。
 何をしたかを自覚したとき、同時に教室内の体感温度-10度くらいの冷ややかな空気も感じ取った。周りの奴らのまるで狂気に満ちたような目。実際は軽蔑と恐怖と驚きが混ざってるのだろう。
 銃の反動で痛む右腕を抑えた。
 何も変わらない。
 死体を再度確認する。
 何も変わらない。

 仕方ないから逃げた。

最終更新:2014年09月20日 23:26