12.幻想
立ちあがった瞬間に頭スレスレで銃弾がカスッた感覚がしたが無視する。とにかく学校から離れよう。戦闘機には太刀打ちできる訳がない。まぁ、そうなんだがことごとく俺の望みをぶっ壊していくよな、テロリスト共。
俺の進行方向の先にデッカいシャッターのガレージがあるビルがあるんだが、そのガレージから、というかガレージと壁からだな。そう、ガレージと壁をぶっ壊しながら再び戦車が現れた。
冗談キツいわ~。
主砲が俺に向けられる。だが流石にこの近さなら当てられまい。瞬時に真横に飛び込み前転の要領でジャンプする。
その瞬間だった。耳鳴りのせいではっきりとは聞こえなかったが、それでも真横を砲撃が通っていく、擬音語にはできそうもないとてつもなく恐ろしい音が飛び込んできた。そして次には真後ろの爆発音と悲鳴。
しかし戦車の中の奴らはそんな恐怖感じないのだろう。聞こえないだろうし。
誰しもが感じるはずの戦慄を無視してキャタピラの音を響かせながら主砲の標準を動かす。どうやら俺のことは諦めて無視したようだがあわよくばひき殺そうという魂胆らしい。こっちにつっこんできやがった。
だがスタート直後の加速途中の戦車程度簡単に避け……、足の痛みが……! 糞、タイミング神がかりすぎやで。
それでも無理に走ろうとしたのがダメだったのだろう。走ろうとしてその場で転んだ。
「糞、情けねぇ死に方だな」
小さく呟く。なぜか諦めてがついてしまうほど潔く死を認めれた。松岡修造がいたら諦めるな! とか熱い声援を送ってきそうだ。その程度にはまだ距離はあるが間に合う気がしなかった。
だがこれは生存フラグだった。
戦車の上からRPG弾が飛んできた。はっきりと見えた。RPG弾の後ろからの白い煙が軌跡を描いている。その軌跡はビルの非常階段から始まっていた。
だが何故SATがロケットランチャーを? そんな危ないもの警察が使うとは思えない。いや、非常階段から誰が撃ったのかは見えないからSATと決めつけるのは軽率かもしれないが。
つかこんな時に悠長にこんなことを考えて大丈夫なのだろうか。目の前ではロケットランチャーによって戦車が破壊されるという日本ではまず見ることができない光景が広がっている。
はて、何を最優先とすべきかの判断なんてこの状況下で素人の俺が瞬時にできるようなことじゃないな。本能というか、無意識に思った通りの優先度でしか判断できん。
ということは誰がロケットランチャーを撃ったかが俺の中で最優先ということか。生死が問われる中だと何か笑えるな。
ハァ、体がまた動かなくなった。仕方ないな。死体のフリして寝るか。元々俺は寝たかったんだ。
「起きろ」
いきなりなんだ、寝させろ。
「大丈夫か、生きてるか」
生きてますって、だから寝させて。
「脈はある、大丈夫か、起きれるか」
「はい、起きてますが」
「あ、え?」
間抜けな声だった。
「と、とりあえず立てるか?」
「いや、体が動か……、動いたし、立てます」
よっこらせという言葉を体で表しながら立ち上がって俺に声をかけた人を見る。
口元の黒いスカーフ、手にもつ警察が持ってなさそうな銀の拳銃、全身に一番黒いイメージを与えている防弾チョッキ。間違いねぇ、テロリストだ。
気付いたら未だに持っていた拳銃をその人に向けて構えていた。流石に今度はまだ引き金は引いてない。
「おいおい、落ち着け落ち着け、俺は君達の仲間だ。要は裏切った。だから戦車を破壊した」
予想外、いや、彼の風貌から判断するとあながち予想外でもないがまさかテロリストに裏切り者が。
「え、どうして」
俺は無意識に拳銃を降ろしていた。
「理由は簡単……」
「武装解除して人質を解放しろ!」
何だよ、誰か介入してくるのは理由を聞いてからにしてほしかったが。
ふと裏切ったテロリストさんの顔を見るとレーザーサイトの赤い点が彼の頭に集中していた。煙が酷くてはっきりしないがレーザーサイトの主は恐らくSATだろう。テロリスト以上に全身黒だし。
「勘違いされてますけど」
「だね、だが人の話を聞いてくれそうにはないな。逃げるか」
すると突然彼は俺の腕を掴んで走りだした。
「え、ちょ、それ誤解が深まるだけのような! つかなんで俺ごと!?」
「気にしたら負けだ!」
「負け認めるから!」
そういった途端本当に手を離してくれた。
しかし車の助手席に俺を投げ込むのに手を離したにすぎなかった。
呆気にとられていると右からドアが開く音がした。
「逃げるぜ!」
ブルルンとエンジンのかかる音が彼の気持ちを代弁してるに聞こえる。
最終更新:2014年09月20日 23:37