13.生きるためのチェイサー

 熱弁、なんてそれっぽい言葉を並べてみたが正直そんなんどうでもいいわ、SATの野郎共撃ってきやがった。
「伏せてろ」
 タイヤが擦れる急加速する音と、後ろの窓が銃撃で割れる甲高い音が同時になって車は発進した。まだ耳鳴りするのに耳のダメージを増やさないでくれ。
「て、ていうかこの車って軽じゃないですか」
「そうだ、それがどうかしたか」
「いや、軽でカーチェイスって無謀という……うおっ」
急カーブで吹っ飛びそうになり慌ててドアのとってを掴む。
「ああ、無謀かもしれんが技術で何とかする」
 何とかなるのかよ。
 サイレンが聞こえ始めた。この車より少し遅れて警察がスタートだ。
「だから、そうだな、そのままそこに掴まってふんばってろ」
 今度こそ俺死ぬんじゃないかな。
 後ろからタイヤの音が聞こえた。窓ガラスがないのでしっかりと聞き取れる。サイドミラーを見てみるとパトカーが3台ドリフトしながら追いかけてきていた。あいつらも危ない運転か。
「流石に俺を捕まえるのに数的な全力はだせないか。好都合だ」
 ふとスピードメーターを見てみると120km/hあたりをさしていた。こんなの軽の速さじゃねぇよ。ヤバい、これマジで死ぬわ。だからかな、なんか気付いたら変なこと聞いてた。
「そ、そういえばお名前……」
 おい、今聞くことかよ俺。
「ん、後藤だ。後藤おっと大樹」
 おっとだいきなんて名前初めてだな。いや、わかってるけどさ。
 だがおっとに秘められた恐ろしい力を俺は知っている。まず、「おっと」と声に出る事態というのは本人が予測していなかったことが起き、それをなんとか回避できた時に出る言葉だ。つまり裏を返せば本人が予測していなかったことがさっき起きたということだ。何かにぶつかりそうになったのか、はたまた死にそうになったのかは知らんが危ないことに変わりはない。
「んにしても奇遇だな、あんたシマリスだろ」
 ん? なぜ俺の名前、ではなくあだ名を……?
「え、そうです……けど……」
「娘があんたのことたまに話してるんだよ。ちょっと前に君の写真を見せられたばっかりでね」
 お? 娘ですと?
 いや待てよ、待たなくても校内の知人かつ女性の後藤は1人しかいないが。まぁつまりその人がこの後藤さんの娘ってことか。
 まとめてみると、後藤娘が俺と同じ部活の人で、後藤父が右にいる裏切ったテロリストということだな。何この展開。
「なるほど理解しました」
 理解はできたがちょっとこの後藤家、主に父の現状の立場がカオスすぎてにわかには信じられんな。だが俺のあだ名を知っていることが何よりも証拠だろう。
 またドリフトでタイヤの音が鳴り響く。その音で今何が起きてる最中か思い出した。そうだったな。話してる内容と現状がズレすぎてて一瞬ボケてた。
 生死が問われる中でRPGを誰が撃ったのかが一番気になるし、次はカーチェイス中に運転手のことが気になる、と……。ミサイルで吹っ飛んだとき頭のネジが壊れたかして外れたのかな。

 だがちゃんと1つ気付いていることがある。それは警察がさっきから発砲してこないことだ。車に乗る前は問答無用……、問答はしてたか。とりあえずいきなり撃ってきた。だが今はほぼ直線道路が続いているのにも関わらず撃ってこない。
 これは俺の見解だが、恐らくいきなり撃ってきたのはSATで、今追ってきているのは普通の警察なのだろう。普通の警察なら発砲許可が降りても殺傷能力が抑えられたリボルバー5発しか撃てない。逆にSATは学校前の戦線を離れる訳にはいかないはずだ。おお、俺ってば名推理。

 ドヤ顔してたらドリフトの時ドアの窓に頭直撃した件。
「大丈夫か」
「え、ええ」

最終更新:2014年09月20日 23:38