14.速度差最大値
「お、警察も強硬手段に移る気か」
え? 強硬手段? 何する気?
咄嗟にサイドミラーを見てみる。パトカーが一台、元から速いのに更に急加速して近づいていた。本来なら安全優先で追跡を断念しそうな速さだが。
「よし、跳ね返すか。シマリス君、しっかり掴まって!」
後藤さんがそう言った途端急ブレーキをかけた。みるみるスピードメーターの針が下がって法定速度近くまで落ちる。本来はこの速さで走るんですよ。と思った途端後ろから凄い衝撃と音がした。さっきのパトカーが追突したのだ。無理もない。だがそれによって俺達の乗ってる車は再度加速、パトカーは一台失速。見事に後藤さんが狙った通り(多分)になった。
だが今の衝撃によるシートベルトの事故防止のロックの衝撃も凄かった。シートベルトが体にめり込んだんじゃないかと錯覚したほどだ。ひょっとしたら錯覚じゃないかも。
「うぉ……、肋骨折れてても不思議じゃないかも……」
「安心しろ、本当に折れてたら喋れるような状態じゃない。なんなら後で肋骨にチタン仕込めばいい」
腐った海の匂いがする防御方法だな。
「それにしても警察しつこいな。もう追跡をやめてもおかしうおっ」
しんにゅぐえっ、おっとだいき、おかしうおっ。最近のトレンドは最後まで言い切らないことなのかな。だが何だ。今度は何が起きた。
「勝手にカーブしやがる、タイヤが撃たれたか!? いや、そうじゃない、この道は!」
結局何だ。
「だ、大丈夫で……」
「伏せろ!」
後藤さんがブレーキを踏みながら俺を頭から押さえつけた。その途端フロントガラスが割れ、車体に銃弾が当たる乾いた音が連続して聞こえた。そして電柱か何かにぶつかったのだろう、幸いブレーキをかけていたので大した衝撃ではなかったがドンと衝撃が走って車は止まった。
「何が起き……」
「まだ伏せて!」
後藤さんが俺の頭をまた押さえた後、今度は後ろから爆発音が聞こえた。しかも3度。
頭が押さえつけられていたので何が起きたかわからなかったが、それから何秒後だろうか。体感では単位は分だが実際は秒だろう。爆発音がやんだので後藤さんと一瞬に頭を上げ状況を確認する。
まず後ろの爆発で何があったかを確認したが、その光景は何があったかが一目瞭然。榴弾によってパトカーが3台ともひっくり返っていた。パトカー近くの地面が円状にめり込んでいる。
「マジかよ」
「大丈夫だ、狙撃班でグレネードランチャーを装備してるのは遠藤だけで支給されたのは3発だけだ」
誰だよ遠藤って。つか後藤さんに続いてまた藤かよ。んにしても藤って凄いな。なんでこんなに名字にありふれてんだ。
「とはいえRPGが飛んでくる可能性がある。車も動かんしひとまず出よう」
無言で首を縦に振りドアノブを引き、屈みながら外に出た。
「車を盾にするのは不安がある。さっさと移動だ」
俺の後に続いて車から出てきた後藤さんがビルとビルの間を指差した。
「こそこそ隠れてんじゃねぇ! とっとと出てきてぶち殺されろ!」
「?」
突如女性の叫ぶ声がしたと思ったら銃撃が再開された。それと同時に大体察しがついた。
「ひょっとして遠藤って人女ですか、それとあっちのビルから撃ってきてるんですか?」
後藤さんが車によしかかりながらハンドガンのスライドを引き、キリッとした表情で俺を見た。
「ああ」
何だ今の言い方。
最終更新:2014年09月20日 23:41