15.対遠藤戦

 3秒ほど続いた銃撃がやんだところでビルの影に移動した。
「これからどうします」
「そうだな……」
 後藤さんが軽くフッと深呼吸をする。
「俺は娘を守るために行動を起こした。まずは狙撃班を全員殺す。幸い狙撃班の防御要員は遠藤一人だけ。そいつ以外はスナイパーライフルだけだから接近戦には弱いはずだ」
 よくわからんが真面目な考察だな。とりあえず俺ははここに待避しときますよっと。
「逃がさねぇ!」
 おいおい何だ何だ。早速ここに待避してたら死ぬフラグですか。
「糞、遠藤のやつ防御のこと忘れて突っ込んできやがるのか、仕方ねぇ、一旦隠れて不意打ちしよう」
 そうして後藤さんが俺の腕を掴んで走り出した。俺が不意をつかれた。完全に転びそうになった。
「とっと、とっ、あの、えと、ここからどこに」
 なるべく声をひそめたが最初の方は素の音量がでた。
「殺しやすい所だ」
 ……、俺氏キチガイに挟まれる。

 そうしてやってきた殺しやすい所はビルとビルの隙間を抜けた先のビルの影だ。
 狙撃班の射線はビルが阻み、追ってきている遠藤からは死角。不意を突けば遠藤を確実に殺せるという訳だ。

 ただ、何でこうなったかはわからん。今俺は後藤さんと一緒にハンドガンを構えて待機している。俺はまだ死にたくないぞ。そもそも後藤さんが逃げる時に俺を連れて行かなければこうはなってないし、俺を連れてきた理由は気にしたら負けらしい。
 結果負けるどころか死にそうなんですが。いや、でも学校前の方が危ないかもな。今もまだ爆発音が小さい音ながら聞こえる。テロリストの本体プラス戦闘機とSATが銃撃戦を展開し続けているはずだ。そもそも戦闘機が旋回するときにこっちまで来るから音がうるさい。
 それにしても足音すら聞こえないな。逃がさねぇの声量からすれば立ち止まることが許されないレベルの近さだったと思うが。まぁビルの影に隠れてたから遠藤がどれくらい離れていたかを見た訳じゃないしな。そもそも遠藤とやらの顔もまだ見てない。

 後藤さんの顔をチラッと見てみると後藤さんも遠藤が来るのが遅いことを気にしているようだった。ハンドガンのグリップを持つ指をリズムを刻むように絶えず動かしている。
 緊張を通り越して暇になりそうだった。
 だがその瞬間だ。予め遠藤が来ると予想していたビルとビルの隙間からではなく、むしろその逆方向から銃声が一発なり、後藤さんの頭の真後ろのビルの壁に銃弾がめり込んだ。
「な!? 伏せろシマリス!」
 奇襲のつもりが奇襲されたのか? 弾が外れたのは恐らく運だろう。無風なら後藤さんは死んでいたかもしれない。
「くっ、ここじゃ伏せても意味がないか、移動するぞ!」
 再び後藤さんが俺の腕を掴んで走り出す。今度は不意を突かれなかった。
「遠藤はアサルトライフルを持っている。それを単発発射したくらいだ。距離はあるはずだ。近づかれる前に撒こう」
 撒くといってもここら辺は今隠れていたビルくらいしか大きな遮蔽物がない。このままだと隠れる前に遠藤に捉えられてしまう。
「無駄無駄無駄無駄ァ!」
 その声に驚いて後ろを振り返ると、いつそこに現れたのかはわからん。遠藤の目がアサルトライフルに取り付けられた大きな狙撃用スコープ越しに俺達を捉えていた。
「そんな近くにいたのか!?」
 流石の後藤さんも驚愕の表情を隠せなかった。
 遠藤の不敵な笑みがはっきり見える。トリガーが引かれる……。

「舐めるなああああ!」
 叫んだが今回も無意識だった。俺は右手に持ったハンドガンを遠藤に向けて発砲していた。
「痛っ」
 発砲の衝撃でハンドガンを落としてしまった。しかし、同時に目を見開いて驚いている遠藤が視界の先にいた。
 俺が撃った弾は遠藤のアサルトライフルに当たったらしい。銃口部分がひしゃげてほぼ折れているアサルトライフルが宙を舞っていた。
 そのアサルトライフルから遠藤に視線を戻すと遠藤の目は驚きに満ちていたのから打って変わって怒りや苛つき、要は殺意に満ちており、俺をしっかりと捉えていた。多分。

最終更新:2014年09月20日 23:43