16.侮蔑
そして間髪入れず、もう一発の銃声が俺の後ろから聞こえた。
今度こそ遠藤の目は驚きに満ちた。
呻き声を上げながら仰向けに倒れた遠藤は目を見開いたままで、ピクリとも動かなかった。
「許せ遠藤」
そう小さく呟いた後藤さんは銃口から煙が出ている拳銃を下ろし、地面に落ちた熱いはずの空薬莢をヒョイと拾い上げズボンのポケットにしまい込んだ。
「せめてこいつが形見だ」
形見……、ということは後藤さんと遠藤の間には何かしらの交友関係があったのか。双方キチガイだと思ったことが悔やまれるね。
まぁ実際キチガイまがいな言動や発想だった訳だが。
そのまま動かないで何分経っただろうか。静寂をひたすら守った。こういう空気は苦手だ。
そして、突如として後藤さんの無線がその静寂を破った。
「元気かな? 後藤大樹ィ。なぁ、テメェのしたことはわかってんだろうなぁ?」
リタルダンドかけながら喋るな。
「ああ、お前らを殺すってことだ」
無線機を手に取った後藤さんの話し方は鼻で笑ったようだった。
「ほっほう、そいつぁいいこったぁ、正義のヒーローってか。じゃあこっちも殺させてもらうか、いや、もう殺してんだがな、あ?」
後藤さんの表情が凍りついた。ついでに言うと俺も凍りついた。
「あんたの可愛い可愛い娘さ……」
後藤さんが無線機を落とし、目線を向けずにそれに発砲した。俺が発砲音に驚きつつ下を見てみると無線機がバラバラになっていた。これが後藤さんの気持ちということだ。だが同時に俺の気持ちでもある。後藤はクラスは違うが部活は同じだ。これはクラスが同じなのとほぼ同義だろう。そしてその後藤がテロリスト共の言い方からして殺された。黙っていられる訳がない。
「後藤さん……、俺……」
「ああ、殺す。全員殺す」
後藤さんが学校へ向かって全力疾走し始めた。俺の腕は引っ張らなかったが、引っ張る必要もない。俺も落とした拳銃を拾い、後藤さんの後を追って全力疾走した。
「殺してやる糞野郎共が!」
結論:距離ありすぎました。
そもそも120km/h越えのスピードでしばらく走った先の場所から全力疾走して体力がもつ訳ない。
だが、途中カーブとかがあったから絶望的に離れている訳じゃない。全力疾走こそしていないが、走り続けている。徐々に学校が近づくのが目で見てわかる。
後藤さんはひたすら無言で走り続けていた。俺もそれにならってひたすら無言で走り続ける。
だが敵もそう簡単に学校へ向かわせてはくれなかった。突然進行方向の先に黒い人が現れ、そいつらが銃口をこちらに向けた。真っ正面に1人、電柱の影に1人。2人か。と、数えている途中のあっという間だった。しっかり構えないと銃弾がかすりもしなさそうな距離にも関わらず後藤さんが2発発砲。テロリスト2人の頭を正確に撃ち抜いた。
「凄い……」
後藤さんが凄すぎて完全に呆気にとられていた。再び後藤さんが発砲したと思ったら後藤さんの肩から血が吹き出て倒れそうになった。
「後藤さん!」
慌てて後藤さんの背中を支える。ぐったりとして重い。これじゃ避難できそうにない。
「逃げろシマリス君! 肩程度何でもない!」
「で、でも……」
再び銃声が聞こえたと思ったら左頬に痛みが走った。
「痛っ」
条件反射的に左頬を手で押さえる。どうやら弾がかすったようだ。それに敵が連射してこないことからしてスナイパーライフルだろう。かすっただけでも痛みがかなりくる。
「早く! シマリス君!」
「くっ……」
咄嗟にしゃがみ込む。銃声が聞こえ、真後ろの木の枝か何かが折れる音がした。その瞬間、敵の姿が見えた。アパートの非常用階段の2、3階の間の上でライフルをコッキングしていた。
即座に俺は拳銃をそいつに向けて撃った。勿論訓練も何もしたことがない俺に、プロがライフルを使うような距離で当てれるとは思ってないが、堂々と撃てば威嚇射撃になるはずだと判断したからだ。
と思ったら威嚇射撃どころか致命弾となったようだ。テロリストはまるで殴られたみたいに後ろに軽く後ずさりし、そのまま階段から落ちた。
「マジか」
最終更新:2014年09月20日 23:44