17.セカンドカミング
「運とはいえよくやった」
後藤さんが俺の頭をポンと軽く叩いた。
人殺しがよくやったと言われる事かは疑問が残るが、人を殺すことによって自分を含めた2人の命を助けたことは事実だ。
「さあ、このまま学校に直行だ」
無言で首を縦に振って俺達は再び走り出した。
だが後藤さんのスピードが明らかに落ちていた。恐らく被弾した痛みのせいだろう。何しろライフル弾だ。肉が円状に丸ごとえぐり取られていても不思議ではない。
「大丈夫ですか、後藤さん」
「大丈夫だ。さっきも言った通り肩だ。命とは別に関係ない」
声が大丈夫そうでは無かったが、俺は言葉を続けることができなかった。
それからしばらくして、走り続けていく中である不安が現れた。いや、元々あった不安だが無視していただけだな。まず、俺と後藤さんの装備は双方拳銃一丁のみで俺に至っては訓練も予備弾倉も皆無だ。このまま学校に突撃しても一瞬で撃ち殺されるだろう。では学校の突撃をやめるのか、否、後藤の仇は撃ち取る。それは譲れない。後藤さんもそのはずだ。
死なずして仇を撃つ。そのためには多少なりとも頭を使う必要があるだろう。その1つがさっきもやろうとした不意打ちだ。学校は角や遮蔽物が多い。不意打ちは容易なはず……
「うおっ!?」
突撃顔面に衝撃が走り、目の前にあるものが後藤さんから空に変わった。
「大丈夫か!? シマリ……」
銃声が後藤さんの声を遮った。そしてショートカットの髪が振り返りざまになびくのが視界に入る。まさかこいつが上から落ちてきて俺を蹴り倒したというのか。隣に建物の非常用階段が見えるし恐らくそうだろう。いや、それよりこいつは……、
「遠藤……!?」
「あ、た、り(ハート」
どう見ても最悪なことに遠藤の顔が視界に入った時には既に狂気に満ちた目が俺を捉えていた。その次に、正に遠藤が右手に持った銀の巨大なハンドガンの銃口が俺を捉えようとしていた。
「うっ」
背中が地面にぶつかる。だがそんなことはもはやどうでもいいだろう。この距離、この速さ、間に合う訳がない。
スローモーションに見える。ゆっくりと銃口が向けられる。死がゆっくり近づく。
耐えられない。目をつぶる。
女性の喘ぎ声が聞こえた。何と卑猥な声だろうか。
まだ撃たれない。目をつぶっていてもスローモーションに感じ……、ちょっと待とうか。
なんかさっき死がどうのこうのの次に卑猥って単語が現れたよな。ありゃ何だ。
「ハァ、へへ、糞共全員ぶっ殺してやあがはっ……」
流石にビビって目を見開く。視界から遠藤が消え去り空が視界を埋め尽くしていた。その空を2機の戦闘機が横切る。変だな、1機だけだったはずだ。ひょっとして本当に俺は死んだのかもしれないな……。
「校外へ逃走したと思われる生徒を確保。またテロリスト2人の死亡を確認。……。了解。……、立てるか」
何だ……、誰だ……。テロリスト以上に全身黒の集団……、そうか、SATか。SATが俺に手をさしのべていた。俺はその手を掴み、ゆっくりと立ちあがった。
下を見ると死体が2つ転がっていた。
「ご、後藤さん……」
「こいつは後藤というのか」
「はい……」
後藤さんから目を離せなくなってしまった。さっきまで一緒に走っていたのに、志同じく学校へ向かっていたのに、俺のことを守ろうとしていたのに、何より娘の後藤を守るためにここまできたのに……。
「君、その拳銃を渡してくれ」
遠藤は半分笑っているような顔をして絶命していた。どうしてこいつはこんな……。
今気付いたがこいつ左肩に包帯を巻いていたのか。恐らく後藤さんに撃たれた所だろう。そこまでして何故……。
「君、聞いているのか?」
「糞共全員ぶっ殺してやる!」
無意識なんかじゃない。わざとだ。俺はSATを振り払い学校へ向かって全力疾走をした。
そうか、これだ。これが遠藤が感じていた感情だ。後藤の仇、もはやそんなのでは理由として足りない。ぶち殺す。1人残らずテロリスト共をぶち殺す。
もうすでに学校は近い。SAT共の制止など知ったものか。
「待つんだ! 止まらなければ撃つぞ!」
「撃てるもんなら撃ってみやがれ腰抜け共!」
「っ……! 舐めるな!」
「生徒が逃走しました。……。はい、拳銃一丁を持っています」
角を曲がる。これで少なくともマジで撃ってきてもSAT達が追いつくまでは大丈夫だ。
後は正面に見えるコンビニの所で左に曲がれば学校正面だ。そのコンビニまで後200mといった所か。
「帰ってきてやるよ、糞テロリスト共」
最終更新:2014年09月20日 23:46