1.You can (not) enjoy school day(s).

 撃てません!



「はっ」
「うて? わかりませんのね。はい、じゃあ授業中に寝てた残念な人の代わりに柏崎君答えてあげて」
「3x-8」
「そうだね」
 え、マジで?
 夢……、今までのは夢……。そうか。なら後藤さんも死んでない。よかった……、んだが、黒板を見た瞬間不安が再び湧き上がってきた。何だ、この問題。寝る前のと全然単元が違うぞ。なんだCって……。それに、何でみんな冬服のブレザーを着てるんだ? 今は6月だからもう夏服だろ?

 ま、まってくれ、何で、何で俺までブレザーを着てる?

 第一みんなのこの視線は何だ? ただ寝てただけだろ? 何でそんな哀れむような目で俺を見る。
「悪夢見てたのか、まぁ気にすんな」
 先生の質問に答えた柏崎が話しかけてきた。眼鏡をかけていてパッと見は完全理系だ。
「え……、悪夢……、あ……、うん」
 悪夢? 確かに死にそうになったから悪夢だ。だが……。

 悪い予感がする。
 柏崎に悪い予感が当たってるかどうかを聞くことにしよう。
「なあ、かっしー。今っていつなんだ……?」
「は?」
 柏崎の顔が疑問でパッと見文系になる。我ながら意味のわからない例えだが意味わからん状況の方が問題だな。
「真面目な質問なんだ。頼む」
「この程度で頼むっていう単語使われるんならお前をこき使えそうだな。まぁ一応答えるけど今は11/13だぜ?」
「は……?」
 11月? あの北海道で初雪降る辺りの月か?
「いや、は? とか言われてもお前から質問されたことだし……」
「俺は今6/21だと思っていた」
「は……? ああ、え? そ、それってうちの学校がテロリストに襲撃された日だろ?」
 襲撃された? 言ってる意味がわかんねぇ。いや、確かに6/21にテロリストに襲われる夢は見た。まさか夢が現実になったとか言うんじゃねぇだろうな。
 だが、少なくともこれだけはわかる。噛み合わない会話、飛んだ時間。この2つから得られる答えは悪い予感を的中させるのに十分すぎるものだということを。

「ひょっとしてお前、記憶喪失か何かか……?」
 かっしーがさっきの話題を中断して苦い物食ってるみたいな顔して聞いてきた。
「記憶喪失……、それなら一応、俺の今の状況に説明がつくな……。でも、そんなことが……」
「信じられないことが起きることによっても物事は進むんだろ。記憶喪失と断定して今日は早退して事実を知った方がいいんじゃないか?」
 何でこんな自信ありげな言い方なんだろうか。いや、だとしても早退はしたいな。記憶喪失でもなんでもなくても早退はしたい。

 結論:早退できんかった。
 そもそも記憶喪失だから早退させろとか言っても相手にされる訳ないし熱もないから無理だった。
 幸い数学の後は昼休みだったのでそこでかっしーと話をすることにした。

「じゃ、じゃあまず6/21の時のことを教えてくれ」
 置物と化すことを悟ったような弁当さんを2名挟んだ状態でまず俺から口を開いた。柏崎は眼鏡が太陽光を反射しててなんか怖い。
「んー、漠然としてるけど、まぁ、そうだな、まずテロリストが来て、それを君が拳銃を奪って撃っただろ?」
 柏崎が指を鉄砲の形にしてジェスチャーをする。そんな軽々しいような出来事じゃないと思うが。だが夢の内容と合ってはいるな。マジで夢が現実になったのか?
 俺はそう考えながら首を縦に振った。
「それから君がこの教室から逃げて、その後は俺らはずっとここにいたからよくわからない。爆発音とか銃声とかくらいしか聞こえてないな。気付いたらテロリストが全滅してた感じだ」
「そう……か……」
 俺が学校から逃げてからはテロリスト対SATで銃撃戦になったはずだからやはり夢の内容と合っていると断言できるな。

 それに最後は戦闘機をこの学校に落とすためにテロリスト全員外出て……、そうだ!
「後藤は!? 2組の後藤はどうなったんだ!?」

 声を荒らげすぎたのだろう。その瞬間教室の空気が凍るのを俺ははっきりと感じ取った。
 何故みんな友達と話してたのに突然黙る。答えろ。せめてかっしー、お前は答えろ。おい、なんでかっしーもそんな目で俺を見る……。
「シマリス……、お前やっぱり記憶がないんだな……。11/1、お前がこの学校に、このクラスに復帰した時、後藤が死んだこと聞かされて泣いてたじゃないか……!」
 は……? 知らない。んなこた知らねぇ。11/1に俺が学校に復帰? 案外今のこの時間より近いじゃねぇか。何が答えなんだよ……!?

 恐怖によって無意識にほとんど閉じられた喉をなんとか開いて小さいながら声をひねり出す。真相は何としてでも知りたい。知らなくてはならない。
「後藤、後藤は、何で死んだんだ……?」
 かっしーがうつむいて眼鏡が太陽光を反射しなくなった。
「……、流れ弾だと、包み隠さず答えると、SATの人から説明があった……」
 流れ弾……? ふざけてるのか? んなアホな死に方があるか。
「SATとテロリストが会敵して、テロリストが後藤を人質にとってたからSATの人達は防御に徹してたそうだ。その時の威嚇射撃が、あー、威嚇射撃だから全然関係ない方に撃ったら、全然関係ない方にいた後藤に当たったらしい……」
「そ、そ、その撃ったSATの奴の名前は……?」
 意識してなかったから気付かなかったが俺の声は今にも泣きそうな声だった。

「佐藤光聖」

 鳥肌が立ちすぎて皮が剥けるのかと錯覚するほどの衝撃が俺の体の中を走った。

「そうだ、俺と同じ名前。偶然だろとあいつは言ったが偶然なのはそりゃ当たり前だ。当たり前の事をあいつはわざわざ偶然だと言ったんだ」
 同じクラス、俺の席の2つ前の席の佐藤光聖が話に入ってきた。なんだこいつみたいな目を俺に向けている。
 ていうか鳥肌が立ったのが馬鹿らしくなった。そだよな、当たり前だよな。そもそもお前は学生でSATじゃないもんな。俺が馬鹿だった。この点では安心してやる。
 とは言え佐藤もといちょくえの言う通りだ。偶然なのは当たり前で、それをわざわざ偶然だと言う? 意味がある発言だとすれば何を示唆する言葉だ。もしくは単に大げさに言っただけか?
 糞、また考えるだけ無駄だと思わせる問題だな。この手の問題はそもそも解きたくなんかない。俺も寄らないから問題の方からも寄ってくんな。

 しかしこれで最低限納得できるだけの情報は揃った。納得できないのは状況と後藤の死だけだ。

「わかった、わかった。ありがとう、こんな馬鹿みたいな質問する俺にちゃんと答えてくれてありがとう。俺は記憶を取り戻したい。そのヒントになるようなこと知らないか? ほら、あれだよ、俺が記憶失ってる期間に俺がやったこととかさ」
 だいぶ落ち着きを取り戻したつもりだったがあまりそうでもなかったらしいな。完全にキョドった言い方で喋ってるその途中で落ち着いてないことを大体察せた。
 そのキョドりに引いてるのかわからんがワンテンポおいてからかっしーが口を開く。
「シマリス、お前はあの時テロリストに頭を撃たれて病院に入院してたんだ。俺達で見舞いにも行った。その病院がそのヒントなんじゃないか?」
 太陽が移動したのかかっしーが顔を動かしたのかはしらないが眼鏡は太陽光を反射していなかったのでかっしーのまっすぐ俺を見つめる、というより貫いてる視線を放つ目を見ることができた。

 明日にでもその病院で殺人起こすレベルの覚悟で凸ってやるか。記憶喪失の非日常性も病院なら低くなるだろ。

最終更新:2014年10月30日 23:24