アットウィキロゴ
4.blood bullet

 遠藤は俺達が降りてきた階段の一番上に立っていた。両手に拳銃2丁を持ち、その片方をこちらに向けていた。
「警察に向かって発砲とは公務執行妨害ですむ話じゃないな」
 と、ヒョロッとした方の警察がリボルバーに手をかけようとしながら独り言を呟いた。まさかこいつ病院内で発砲するつもりか? 公務員のすることじゃないだろ。
「恐れがないならその手はもうリボルバーを構えているだろ」
 煽ってやった。その結果そのヒョロッとした警察に舌打ちをされ、その上本当にリボルバーを取り出し、俺に銃口を向けてきた。
 ん? 俺に? なんで?
「遠藤、銃をおろせ、シマリス君が人質だ」
「警察が犯人まがいのことしちゃダメでしょ」
「だから黙ってろ。殺すぞ」
 何なんだよこいつら……、ひょっとして警察に化けたテロリストの生き残りじゃないだろうな……。
 しかも遠藤が銃を下ろしてしまった。テロの日の、あの時の遠藤ならそんなこと構わず発砲してきたであろうが、やはり時間が経ったのか変わっている。遠藤の狂気を恐怖がむしばんでいる。

「いい娘だ、よし、逃げるぞ」
 ヒョロッとした奴が勝ち誇った笑みを浮かべ、遠藤から目を離さずに後退して病院から出る。一緒に連れられた俺も遠藤を見たが、殺意に満ちた目を警察に向けるだけで動こうとしていなかった。だが病院内で発砲したキチガイだ。そんだけの狂気があればまた必ず助けにきてくれるはずだ。

 という確信は一瞬にして証明された。
 何故なら、病院から脱出した俺らは、まず、俺はパトカーの後部座席に突っ込まれ、警察2人は運転席と助手席にほとんど突っ込んで乗り込む。そしてその瞬間遠藤の銃撃が再開されたのだ。助手席側の窓ガラスが割れ、とっさに警察が2人とも窓より上に頭を出さないように伏せる。更にその次はフロントガラスが木っ端微塵になる。これでこそ遠藤だ。
 そんな死と隣り合わせ(物理)な状況において運転席に座るマルっこい警察が流石にヤバいと判断したのか、伏せた状態のままアクセルをベタ踏みしてタイヤを滑らす甲高い音を思いっきり鳴らし、病院の駐車場から全力で逃げだした。

「あんなキチガイなんで放っておいた!?」
 安全が確保されたと思われるところで助手席のヒョロッとしたやつが叫ぶ。窓ガラスが割れてるからその声量がまんま外に漏れたはずだ。迷惑だな。ただ、まぁこのボロボロのパトカーも一般道を走るには目を惹きすぎる。
 助手席の窓とフロントガラスが割れ、右のサイドミラーが回転するところしか残ってない。それに右の後ろタイヤもパンクしているらしい。右も左もボロボロだな。
「さて、射線上からも逃れられたから聞こうか。テロリストの生き残りの名前」
 ヒョロッとしたやつが背もたれに腕をのせてこちらを向いて聞いてきた。
「言うから1つ聞かせろ」
「なんだ」
「俺を囮として使うつもりか」
「……、なるほど、お前は俺らを疑っていた訳だな。それでお前は最初から俺らに反抗した上間接的に殺そうとしたと」

「……、そんなところだ」
 ヒョロッとしたやつは鼻で笑い、ドサッと前を向いて椅子に座り直した。呆れたとでも言いたいのだろうか。
「俺らを誰だと思ってる? 警察だぜ? お前らの命を守るのが仕事だ。お前に銃を向けたのは謝るからさ。そりゃ、テロリストの生き残りを捕まえる為にお前を利用しようと思っていたが利用するのはお前から得られたら情報だ。お前を危険になんか晒さねぇよ」
 ああ……、そう、でも今更間違いだと認めるのはおっくうだ。それにまだ俺の判断が間違いだと確定した訳じゃない。表向きには間違いを認めておくか。
「そう、ですか。では言いますよ。遠藤から聞きました。えーと、何だったかな、……、ああ、そう、蛇王だ。それからDUST、闇路、えー、後みさくら。ですね」
「協力感謝するよ。まぁどうせ署についてからも質問の嵐だろうが頼むぜ」
 そうか……、確信や証拠を得ないと行動するのが恐ろしいこともあるのか……。1つ学んだ。直感は頼るべきところだけで頼るべきだし情報も1つじゃ足りない、か。

 そして署とやらについた。遠藤の姿は見えない。
 その代わりに見えてきた署から出てきた警察が俺らの乗るパトカーに走って近づいてくる。20代だろうか。見た目からして多分新人だな。
「報告は受けてるだろ、とりあえずこいつは廃車として処理した方が案外安くすむかもな」
 マルっこい方が走ってきた若い警察に話しかけた。その話し方が完全に目上の人に使うような口調じゃないからその若い警察は本当に新人だと見た。多分当たってるよな。
「はい、もう病院に一番近いここはあっち行ったりこっち行ったり大変な騒ぎでした。今は沈静化に多くの人が病院まで出動したのでだいぶ収まってますが」
「ご苦労だった。さ、シマリス君を連れて行ってくれ」
「わかりました」
 とりあえずなんでこいつら俺をあだ名で呼ぶんだろうか。ひょっとして本名だと思ってないよな。残念ながら俺はDQNネーム世代じゃないぜ。

 ガチャっとその若い警察が後部座席のドアを開け、俺に手を差し伸べてきた。白い綺麗な手だった。ということは射撃訓練もさほど積んでいないな。
「さ、降りてきて」
「はい」
 その手を掴みよっとと言いながらボロボロのパトカーを降りた。んにしても外から見るとやはり酷いもんだ。よくこんな状態で道路走れたな。
「じゃ、ちょっと話を聞かせてくださいね」
 声を出すのが面倒だったのでコクっと首を縦に振った。すると若い警察が歩き始め、無言ながらに付いてきてと言っているようだったので付いていく。
 そして付いて行った結果よくドラマとかで容疑者が尋問されてる部屋にたどり着き、若い警察がそこのドアを開け一言。
「入って待ってて」
 二言だったか。まぁとにかくとてつもないアウェイ感を絶賛感じているところだ。

 そういえば病院に母を残したままだったな。警察が連れてきてくれるか、それともその場で事情聴取されているか……。遠藤も気がかりだ。まさかここに乗り込んできたりはしないよな。
 ということを思い出したあたりで椅子に座った。the無機質といった感じのテーブルとテーブルと椅子と椅子と椅子とライト。花を一輪飾るだけでも天地の差が生まれるんじゃないだろうか。花瓶が武器になるとかそういうのはもちろん無視しているが。だが余りにも何もないな。後ろを振り返る。壁だ。だが窓があるな。ということはここは署の中で一番外側か。
 うん。それがわかってどうする。
 ということで正面を向き直す。いや、この部屋に正面も糞もないか。まぁ、言葉のあやということだが、だからと言って時間が潰れる訳でもない。緊張が長引くと退屈に変わるという経験を俺は以前してるからわかるが、これは退屈になるパターンだ。間違いない。警察の野郎来るなら早く来い。
「入るぞ」
 早く来たし。

 ノックもなしに入るぞとだけ言って入ってきた警察はどこかで見たことがあるような、だが既視感は強くない顔だった。遠くから見たときに知人と見間違えそうな程度の既視感だ。
「少しばかり特殊な事態がこれでな、俺は本来事情聴取するような立場じゃない。だから話を聞くのと話すのが若干苦手だがそこは気にしないでくれ」
 その微妙な既視感を放つ警察がそう言ってきた。事情聴取するような立場じゃない警察って何だよ。SATかよ。って、ん、SATに既視感が生まれそうな奴を俺は1人知ってるぞ。遠藤が言ってた。同じ時間に存在する2つの同じ個体。その片方がこいつなら既視感があって当たり前だ。確認してみよう。
「あ、えっと、お名前って……」
「ふん、知っているんじゃないのか? それとも合ってるかどうかの確認か? シマリス」
「……、ちょくえ……か…… 」
「……、ああ」
 ちょくえが得意げに微笑を浮かべた。その微笑からは見下しのようなものは感じられなかったが、だからと言って安心感が得られる笑みという訳でもない。

「それで、この聴取に俺が選ばれた理由だが、俺が本来存在しない存在だからだ」
 また出たな。本来存在しない野郎。俺もそうらしいが。
「まぁ、正直納得はできるような説明だった。突然2次元の興味を失い勉強と訓練の繰り返し。しかもそれが楽しかった。もはや俺としての存在を絶対的にも相対的にも失っていた。
 それとだな、お前が疑問に思ってそうなことで……、そう、遠藤を捕まえないで放っておいたのは俺の鶴の一声があってこそだ。あいつの有用性を俺が認めた」
「少なくとも現状は有用性どころか敵になってるけどな」
「ああ、そうだな。だがあいつも俺と同じで夢の創造物。この世界でお前を殺せばあいつも死ぬ。俺もだが。つまりいつでも終わらせられるんだよ」
 遠藤とはまた違った解釈だな。遠藤は俺が死んだらどうなるかわからないと言った。ちょくえほどの断定はしていない。

「まぁ、んなこた話してもしょうもないな。で、テロリストの生き残りだが、遠藤は俺にいないと言った。だがお前には4人いると言ったそうじゃないか。俺を信用してなかったからだと仮定して、生き残りが本当にいるとしよう。そいつらはコードネームをえー」
 ちょくえが持ってきた紙をパラパラとめくった。資料か。
「蛇王、DUST、闇路、みさくら、と。実は個人的にみさくらは元々知っていたんだ。理由はだな、あのテロの日、俺の部隊はどこから撃たれてるのかわからない狙撃でほぼ壊滅したんだ。壁をぶち抜いて仲間を殺していったからそいつは恐らく対物ライフルを使っているだろうと予想した。そんで死にかけのテロリストを見つけたから対物ライフルを使うやつの名前を聞いたらそいつはみさくらと言ったんだ」

 なんか語り出したぞこいつ。
「だがそれっきりだった。みさくらの顔もわからず仇もとれなかった。そしてテロリスト全員死亡の報告を受けてみさくらは死んだと思っていたんだ。それでよ、今日、みさくらが生きていると聞いて俺は高揚した。味方の仇を取れる。そう思った」
 ちょくえが不適な笑みをうっすら浮かべる。ヤバくないかこいつ。ひょっとしたら遠藤以上のキチガイの予感が。
「あの時の恐怖、あの惨めさをあいつにそっくりそのまま返せる。次は俺の番だと。そのためにお前が必要だった。お前は餌だ。みさくら共を表に出すための囮だ……」
「落ち着けよちょくえ、俺の知っている俺のクラスメートのちょくえはもうちょっと落ち着いていた」
「ああ、俺は落ち着いて仲間の死体と弾痕を調べていた。その結果みさくらが使った銃はバレットM82だとわかっていた。セミオートの対物ライフルだ。武器を変えていないなら対策は知っている」
 その落ち着くじゃねぇよ。

「コードネームがわかれば後を辿ることもできる。お前の夢を書き換えることもできる……、そして……」




 気付くと俺は床に倒れていた。倒れていた? 何で?
「何だ、何なんだよ……」
 部屋は煙や埃で立ちこめていた。テロの日の砲撃された教室みたいだな……。で、ちょくえは何故か椅子ではなくドアによしかかり頭から血を流して意識を失っている。余計意味わからんがな。
 糞、頭がクラクラする。頭打ったか。んにしてもなんだ今の……。ああ、そういうことか。
 車だ。車がこの部屋に頭から突っ込んでいた。しかしその車は大きくは変形していない。装甲車なのだろうか。

「よっと、痛て……」
 今の声なんだ。ちょくえか、いや、ちょくえはまだ気を失っているな。とすれば運転手か。糞、まだ頭クラクラするし足も痛むぞ。
「誰だ」
「あー、俺の想定だとお前は気を失ってるはずだったんだがなぁ……、まあいいか」
「誰だっつってんだ」
「ヒャハハハハハ! 威勢がいいじゃねぇか! ボスに刃向かった根性は本物みてぇだなぁ!」
 ボスに刃向かった……? こいつよもやテロリストの生き残りか!?
「蛇王か!? DUSTなのか!?」
「ヒャハハ、察しがよくて面白いねぇ! 俺の名は蛇王! 蛇の王だ!」
 何じゃそりゃ、まんまじゃねぇか。

 とか脳内で突っ込んでたら煙の中に人影が現れた。来るのか……? まだ視界すら安定しないのに……。
「さあ、チェックメイトだせ、ヒャハ」
 そもそも何だこの笑い方。今のに関しては完全に某ネズミの笑い方だったぞ。
 だがそんなことよりも逃げ道は……、ドアか!? ちょくえを蹴り飛ばしてでも逃げ……。
「おねんねの時間だ……」
 蛇王がそう言った瞬間、円形の冷たい金属が頭に当てられた。まさか、銃か……!?

 煙で隠された蛇王の顔に笑みが浮かんでいるのが感じられる。キチガイに囲まれてんのかよおい……。


 そして俺の意識がどっか飛んでった。


 ラジオの音が聞こえる……、それから車? のエンジン音? もだ。何だろう……。天国ってラジオ流れ……、
「俺死んでねぇ!」
 体をガバッと起き上がらさせて叫んだ。
 ってことは俺は今まで寝っ転がってたのか。
「んだようっせぇな」
 パッと横を見る。車のハンドルを持って運転している人がいた。声が同じだから恐らく蛇王か。ということは俺が今いるのは車の後部座席か。フロントガラスの先には普通の一般道が見えるから道を走っているのだろう。ただしスピードが糞速い。
「今、俺、何が……」
「今、お前、何だ」
 何か変なツッコミしてきたぞおい。とりあえず何だこの状況は。
「とりあえず、とりあえずだな、お前は俺をどうした」
「あ? お前を? えー、まずこの車で警察署に突っ込んで、お前の頭殴って気絶させてこの車に突っ込んだ。これでいいか」
「いい」
 なる程、死ぬとか勘違いしてたのが死ぬほど恥ずかしいわ。

「あー、つまりあんたらは俺を殺すのが目的じゃなくて回収が目的だと」
「まぁそんなとこだ。いらなくなったら殺すつもりだがな。このコルトアナコンダでな。蛇王様お気に入りのリボルバー」
 知らねぇよ。つか左手でその銃クルクル回して見せびらかすな。片手運転危ねぇぞ。スピード速いし。
「さて、警察のやつらもそろそろ検問とか作って渋滞を発生させる頃合いかな」
「そうなったらどうするんだよ」
「ヘリでの追跡が困難になる夜までお前を人質にしてでも帰還するさ。何しろ見たまんま強行作戦だ。後のことはほぼ後回し」
 は? 警察署に突っ込むとかいう重罪犯しておきながら後先考えてないってことか? そこまでして俺を回収する必要あんのか? 何なんだよ、テロリストの生き残りがしたいことは。
「速さこそがこの作戦の評価対象だ。まぁ、作戦内容なんかペラペラ喋ることじゃないな。とにかくお前は……覆面か!?」
 蛇王が突然叫んだ。覆面? 覆面パトカーってことか。だがいるならどこだ。
「糞! 既に囲まれてやがる!」

 突如として周りの車の上に、一般車両に化けていた覆面パトカーであることを示すサイレンが窓から伸びる手によって一斉に取り付けられる。その数はなんぼだろうか。視界に入るだけでも5台は確認できる。そしてその5台は俺達が乗る車を囲むようにして隊列をなして併走していた。
「みさくら! 援護しろ! ああ! 撃て!」
 蛇王がカーナビのところにガムテで取り付けられた無線機に叫ぶ、というより発狂した。もちろんこの時は無線のスイッチを押すために片手運転だ。で、みさくらはテロリストの生き残りだな。だが撃てということは……。
 この車の真左につけていた車のフロントガラスが木っ端微塵になったかと思った瞬間、その車が爆発四散した。
「な……」
「ヒャッホウ! 流石だぜ! あらよっと」
 蛇王が車を左に射線変更し、今のみさくらの狙撃によって空いたスペースに入り込んで覆面パトカーの隊列が崩された。
「射線上から回避した! 今の内にもう一台を!」
 そして待てと叫ぶ余裕すらないまま右にいた覆面パトカーが爆発した。

「くっ……」
 この時俺は激しい怒りに駆られていた。味方は大切な仲間だが敵は俺からすれば生きる価値のないゴミだ。邪魔だからさっさと失せろ、それか死ね。俺はそう思ってきた。だから!
「おらああああああ!!!」
「な!? テメェ!?」
 俺は叫びながら一心不乱に蛇王に飛びかかった。右手で蛇王の頭を押しのけ、左手でハンドルを精一杯時計回りさせた。さっきまで俺自身が非難していたキチガイという存在のように殺す気で飛びかかった。
 そして気付いた時には激しい衝撃が車と俺らを襲っていて、その後に車が横転してゴロゴロと転がった。そしてその回転がどれだけしただろうか。体感で一回転半した辺りで運動エネルギーが車を持ち上げられなくなって回転が止まった。
「く、流石にシードベルト無しでこれはキツいな……」
 体中が痛みはするが、幸い蛇王の体がクッションとなったようで骨折とかはしていないようだ。しかしいつみさくらに狙撃されるかわからない。さっさとこの車から出よう。

最終更新:2014年10月30日 22:25