5.insanity
真上にある運転席のドアを蹴り飛ばす。しかし歪んでいるのかビクともしない。
「糞」
もう一度蹴る。バキッと音がした。少なくともガラスが割れるような音ではなかった。なのでもう一度蹴る。するとガリっと擦れるような音と共にドアが真上に開いた。
「よし」
ドアが重力に引かれてまた閉まらないようにドアを足で受け止めゆっくり上に上がっていく。
「よっと」
まず下半身を車の外に出した。後はハンドルなり椅子なりに手をかけてそのまま上半身を持ち上げるだけだ。
「おいしょっと」
と、上半身も出し、安全を確保したところで足をドアから離してドアを落とした。
「目標生存確認! 死守しろ!」
今の声は……、覆面に乗ってた警察か。リボルバーを手に持っていたから俺がテロリストだった可能性を考慮して車から出るのを助けなかったということかな。
「蛇王、聞こえてないのか。無線が壊れたか。応答しろ」
車の中の無線機から声が聞こえた。DUST、闇路、みさくらの中の誰の声だろうか。
「コードネームが漏れてる。マスタングナンバーに切り替えろ。こちらマスタング4よりマスタング2に、ポイントを変えろ。変え次第攻撃を許可する」
それっぽい会話始めやがったぞ、テロリスト共。何かヤバそうだ。
しかし覆面パトカーの警察が1人こっちに走ってきた点はヤバくはないしむしろ逆だな。助かる。
「シマリス君! 車から降りてきて! 回しゅ……」
その瞬間は突然だった。聞こえない銃声、凍る空気。警察が撃たれた。俺から見て左方向に血反吐を吐きながら倒れる警察……。テロの日の校門前のSATの姿が重なる……。
「総員隠れろ! パトカーを盾しにろ! シマリス君も車から降りて隠れて!」
誰かわからないが警察の誰かが叫んだので咄嗟に車から飛び降りて車の陰に隠れた。だがここは道のど真ん中だ。事情がさっぱりわからない通行人は恐怖と混乱で動きが固まって、一般車両に乗ってる人は車をとめてただただ呆然としてた。
「こちらマスタング4、敵が隠れた。ここだと狙えない。マスタング2、移動しきる前に一発頼む」
「こちらマスタング2、了解」
また無線機からテロリストの通信が聞こえてきた。だがこれは警察に伝えなくてはいけないだろう。銃弾一発が飛んでくるはずだ。
「気をつけて! 今から敵の攻撃が来ます!」
俺がそう叫んだ0.5秒後くらいに突然覆面パトカーが爆発した。そしてそのパトカーに隠れていた警察複数人が吹き飛んだ。間に合わなかった……。
「糞、何なんだよ……」
いや、だが待てよ……、マスタング2の攻撃が今の攻撃ということはマスタング2の武器は対物ライフルということか。つまりマスタング2はみさくらか……。だがそれがわかっても俺では対抗できない。対抗するにはまず射線上から逃れることが最優先のはずだ。だがさっきの無線の通りならパトカーや車の陰から出た瞬間にマスタング4に撃たれるだろう……。
動かなければ対物ライフルで車ごと、動けばマスタング4に蜂の巣……。何か手はないのか……。
そうして近づく死におののき迷いと恐怖が全身を襲っていたその時だった。
「シマリス! てめぇの敵は私が全員ぶっ殺す!」
女の声のキチガイじみた発狂の直後覆面パトカーが再び爆発した。この女の声、間違いない。遠藤だ。後ろを振り返ると案の定建物の屋上にあの白い病衣のまま立って拳銃と殺意に満ちた目を警察に向けている遠藤がいた。このタイミングでくるか。
「逃げろ! 警察もSATも全員敵だ! お前を守ろうとする奴は私以外にいない!」
「戯け遠藤!」
この声!? まさかちょくえ!?
「貴様の妄言に振り回されるのはシマリス1人で十分だ! くたばれクソアマ!」
次の瞬間発砲音が連続して聞こえてきて、通行人の悲鳴がその音に乗っかった。そして遠藤は屈んで俺の視界から消える。だがそもそもちょくえはどこだ。下手に車から頭出したら撃たれかねないから探せない。
「SATか! お前ら手を出すな! 死者を出すんじゃねぇ!」
おいおいおいおいおい、なんだ、警察同士で仲間割れか?みっともねぇ。
「現に仲間の死者を大量に出してるお前らが言えることじゃねぇだろ雑魚共が!」
「落ち着けSAT! 俺らは……」
再び爆発音が鳴り響き、覆面パトカーの最後の一台が爆発した。その爆発はさっきまでちょくえに叫んでいた警察の声をかき消した。いや、正確にはその爆発がその警察を殺した。そしてその直後再び車の中の無線から声が聞こえてきた。
「こちらマスタング2から全員に、SATの展開を確認。フェイズ移行を提案する」
「こちらマスタング4、フェイズを移行する」
「了解」
「了解」
くっ、テロリストも動き始めた。なのに俺はさっきからビクビクして動こうともしてない。こんなんでいいのか……。
「シマリス!」
ちょくえだ。車越しに叫んできているから俺がここに隠れていることを知っているのか……?
「終わりだ! 遠藤もな! そこで指くわえて見てやがれ!」
終わりだと? 舐めやがって。終わらねぇぞ。ああ、恐怖より怒りの方が大きくなったじゃねぇか糞。
「遠藤! 援護しろ!」
「そのつもりだ!」
俺は立ち上がってちょくえの声が聞こえた方の逆方向へ全力でダッシュした。建物と建物の間の隙間だ。
テロの日も遠藤に追われて建物と建物の間の隙間を通って逃げた。今日はちょくえに追われて、かつ以前俺を殺そうとした遠藤に援護してもらうのか。馬鹿げた展開だな全く。
「逃がさねぇぞ! シマリス!」
「佐藤! 身を引け! シマリスを殺しても目標は達成できないぞ!」
今のは遠藤の声だ。場所を変えず建物の屋上から叫んでいる。と思ったら銃声2発が俺の真後ろから聞こえてきた。ちょくえのやつ撃ってきやがったのか……!? 躊躇いがなさすぎる。
必死に逃げる。あんなやつに追いつかれたら間違いなく一瞬で殺される。夢だろうと何だろうと俺はまだ学生だ。死ぬには速すぎる。
しかしそんな祈りなど無意味だった。あっという間に俺の左肩がちょくえの手に掴まれる感触を感じた。これでついに終わりだ。
「させねぇぞ! 佐藤!」
遠藤の叫びと共に銃声が3発上から聞こえ、その途端にちょくえが俺の肩を掴みながら軽くスライディングし、俺の背中に縮み込んだ。そして拳銃を俺の頭に向け、遠藤に叫ぶ。
「遠藤! シマリスを盾すれば動けまい! さぁ! シマリスが死ぬ前に聞かせろ! お前は誰だ!」
遠藤って名前わかってる奴に対してお前は誰だってどういうことだよ説明しろよちょくえ。そもそも銃撃をかわしながら俺を盾にする手際が良すぎなんだよ訓練しすぎなんだよどうなってんだよ。あああああもう恐怖で体が動かない動けない。
「フッ……」
遠藤が拳銃を下ろし、うっすらとした笑みを浮かべる。だがこの笑みは警察署で見たちょくえの狂気に満ちた笑顔と同じだ。そんな笑顔を浮かべてフッ……、ってどうしたんだよ遠藤……!
「私は……、シマリスの狂気だ……」
その言葉と共に電撃が走る感覚が全身を駆け抜けた。
体が動く……!
まず手始めに遠藤の持っている拳銃を生成した。
右手にズシッとした重みが感じられ、チラッと下を見ると俺は確かに銀のデザートイーグルを持っていた。
俺が無から物体を生成した……、笑わせてくれるね、これは夢だと、今はっきりわかった。
「へへ……」
「ん?」
俺は即座に右のエルボーでちょくえの銃をはねのけ、そのエルボーの勢いのままデザートイーグルの銃口をちょくえの眼前に置いた。
しかしちょくえも狂気に満ちた笑顔をしていた。俺はそれに驚いた。しかも俺が驚いて怯んでいる一瞬の隙にちょくえが銃を俺に向け発砲した。本当に一瞬だった。
眼前に広がる眼前に置いたはずのバラバラになるデザートイーグル……。
狂気の目が俺を捉えている……。次の銃弾はお前の心臓を貫くと、目で主張していた。
そうか、なら、俺が全てをぶち壊す。
「遠藤! なんかに掴まれ!」
最終更新:2014年10月30日 22:26