7.nightmare
「I won this game」
誰も元ネタがわからなさそうなセリフを吐き捨て、俺は拳銃を斜め前下に向けて引き金を引いた。
殺すことに躊躇いがない奴らを俺は散々キチガイ扱いしたんだ。これで俺もキチガイの仲間入りだな。
「シマリス!」
声がした方を見る。遠藤がこちらに向かって走ってきていた。
「遠藤か。みさくらとDUSTは?」
「まだ生きてる! 隠れろ!」
「わ、わかった」
言われるままにその場に伏せる。
しかし俺はさっきみさくらのライフルの弾道をねじ曲げたそうじゃないか。蛇王に対する怒りで全く訳がわからなかったが、その怒りが夢のこの世界を更におかしくしたということだろうか。いや、そもそもこれをいつからか夢だと断定しているがこんなリアルな感覚が夢だと言われてはいそうですかとか言えるほど単細胞じゃない。正直これは現実なんじゃないかと思っている部分もある。
「よっと、シマリス、大丈夫か」
遠藤がスライディングして俺の隣に寝転がってきた。
「お前こそ病衣着たまんまで動きにくくないのか?」
「てことはお前は大丈夫だな。それに足場のせいで相手も動きにくい。相対的に動きにくさにあまり支障はない」
「そう、か」
「だが弾がもうなくなりそうだ。下手に撃ちすぎた。お前の持ってる銃は……、グロッグ19か。9パラじゃ仕方ないな。何とか乗り切ろう」
そう言って遠藤は拳銃から弾倉を出して投げ捨て、新しい弾倉を挿入した。
「これが最後の弾倉だ。もう片方のこっちの銃には2発しか入ってないから合計9発。無駄弾を抑えれば足りるな」
「なぁ、遠藤、何も関係ないこと聞いていいか」
「何?」
遠藤が拳銃のスライドを引きながら顔をこちらに向けてきた。
「その、デザートイーグルの2丁拳銃って、片手で撃って痛くないのか?」
「……、本当に何も関係ないな」
遠藤の顔が100%真顔になる。
「一応答えるけど、慣れた。慣れだ慣れ。だが慣れというのは私の主観だな。本当の答えはお前が私にこの感覚を与えた、というものかもしれん」
「そっか……」
それから5秒ほどの沈黙が続く。
「で、DUSTとみさくらだが、みさくらの存在が怖いな」
「そ、そういえばこの闇路がさ」
俺の目と鼻の先(物理)に倒れている闇路を銃で指す。
「無線で銃の使用を中断しろとか命令してたんだ。だから俺が盾になればひょっとしたら……」
「そんな不確定な事に踊らされる気はねぇよ。お前がどう動こうと知らんが死ににいくのは全力で阻止するぞ」
「……、わかった。なら堅実に行くわ」
「ああ、頼んだよ、シマリス君」
すると遠藤がすっと立ち上がった。
「だけど、私が思う堅実はお前がそこに寝っ転がり続けることだ。そこで待ってろ。2人とも殺したら迎えにいく」
「え、あ……」
俺が言葉を迷っている内に遠藤は走ってしまった。
「あ……」
コミュ障じゃねぇかよ。仕方ないからとりあえず立った。遠藤の言う堅実ではないが遠藤の姿がもう一度見たか……、
「あ!?」
俺の視界の前には走る遠藤、左斜め前には起き上がるちょくえがいた。しかもちょくえはどこからかリボルバーを取り出していた。糞、どこに隠してやがった。だが起き上がるちょくえに遠藤は気付いていない様子だ。ヤバい。
「遠藤! ちょくえが! あ、佐藤が!」
遠藤が何事かと俺の方を向いた瞬間に遠藤の目が見開かれ、驚きの表情に満ちた。
「シマリス!」
「いや、佐藤が! お前を狙ってるぞ!」
「お前もだ! シマリス!」
「じゃあなクソアマ!」
何だ、何が起きている。遠藤がこちらに走って戻ってきた。ちょくえは遠藤にリボルバーを向けている……、遠藤は俺もだと言った……、俺も、狙われて……、
「シマリス!」
その瞬間、銃声が2発重なり合い、遠藤が俺を押し倒した。
「遠藤!?」
「み、右に撃てシマリス……!」
言われた通り右を見る。
DUSTだ。
10メートル程離れた先の瓦礫の陰で銃口から煙が上がる拳銃を俺らに向けてキチガイスマイルを浮かべていた。
恐怖で体が動かない。撃てない。何でこんな短時間にここまで近付いてるんだよ……。
テロの日、遠藤に銃口を向けられそうになった瞬間の戦慄、それと同じ物を感じていた。
「シマリス!」
ダメだ、体が動かない。それに反してDUSTが銃口を少しズラした。今度こそ俺を狙って……、
堪えきれなかった。目をつぶる。女と一緒に死ぬならそれはそれで本願だ。
銃声がなる。痛みは感じない。それでも目をつぶり続ける。
……、
待つの飽きたから目を開く。DUSTが倒れている。
「痛……、はぁ、シマリス……、お前は本当に腰抜けだな……」
遠藤が左肩を押さえながら起き上がっていた。
「私がお前を殺そうとしたときもこうだった。まぁ、お前の狂気はこうして分離してるから無理もないかな」
ん? 俺また生き延びてるのか?
「どうしたアホ面晒して、ちょくえに撃たれるぞ」
「あ、いや、えーと、ひょっとしてDUST殺したのお前?」
「まさか、左肩撃たれてんのに左手でデザートイーグル撃てる訳ないだろ。お前は9パラだし傷が深くないから撃たれてても撃てるだけでよ。DUSTを殺したのはちょくえだよ。さ、立て」
遠藤が右手に持った銃を病衣のポケットにしまってから右手を俺に差し伸べてきた。
「よっと」
と、声に出して立ち上がると次に遠藤が俺の手を掴んだまま引っ張ってきた。
「そこはまだちょくえの射線上だ。ちゃんと隠れていろ」
「あ、うん」
んにしてもと言うことは俺はまた生存フラグを全力で立てたことになるな。俺ってば生存フラグ建設のプロだわ。
だが何故ちょくえが俺らを助けてくれたんだ? 遠藤のことをクソアマとか言うようなやつだぞ。
「なぁ遠藤」
夢のことを知っている遠藤ならわかるんじゃないかという勝手な想像ゆえに聞いただけで話しかけたことに特に深い意味はない。
しかし遠藤の姿を再度確認してみると全身ボロボロだった。撃たれた左肩辺りで白い病衣が真っ赤に染まっていることが何よりも痛々しかった。
「何だジロジロ見て。何が言いたい」
「あー、えとさ、ちょくえって何でさっき俺らを助けたんだろうなーと」
「さぁ、まぁ一応予想するに私とシマリスを殺すのは自分だっていうことなんじゃないかなぁと」
「なるほど。そもそも助けていないと」
「そ」
遠藤から視線をズラして手に持つ銃に視線を下ろす。
「で、残るはちょくえとみさくらだ。どうするんだ」
「距離的にちょくえを先に片付け……」
その瞬間、突如遠藤の言葉を遮るようにして俺の真横の瓦礫が粉々に吹き飛ばされた。
「撃つなみさくら! あいつらを殺すのはこの俺だ! あいつらを殺してからお前も殺してやるから待っていろ!」
ちょくえの叫び声がまるで龍の咆哮のように轟く。うるせぇ。
「ちょくえがあんなこと言ってるけどどうする」
「瓦礫ごと撃ち抜かれるのは御免だ。こっから移動するぞ。付いて来い」
「おっけい」
2丁拳銃をやめて右手だけで拳銃を持って走り出した遠藤に続いて俺も両手で銃を持って走り出した。その途端に後ろのさっきまで俺が隠れていた空間が瓦礫ごと打ち抜かれ轟音と共に瓦礫に埋まった。
「出てきたな! 元凶共!」
ちょくえが再び吠える。しかし撃たない。
「口だけだなちょくえ! 恐れをなしたか!?」
そっちが撃たないならこっちから、といった感じで遠藤が発砲する。すると足に当たったのだろうか。ちょくえが悶絶しながら地面にうずくまった。
「ああああああああ! 遠藤! てめぇ! ぶち殺してやる! ぜってぇぶち殺してやる!」
ちょくえが荒ぶりすぎてもはや意味がわからん。
「SATの人黙ってて。あなたは私が楽にするから」
と、聞いたことのない声がしたと思ったらその声の主がサブマシンガンを連射してきた。
「伏せろシマリス!」
遠藤がすぐさま応戦。拳銃を一発撃ち、その拳銃を投げ捨てる。するとその一発は見事にサブマシンガンに命中。サブマシンガンがバラバラになった。
そしてその聞いたことのない声の主の顔と姿を見る。声の通り女だ。上半身を防弾チョッキで包み、そこに付いているホルダーには拳銃が1つ収まっている。そして腰にはめちゃくちゃデカいライフル、バレットM82……、みさくらだ。
しかもみさくらは拳銃ではなくM82を次に装備しようとしていた。拳銃の有効距離で対物ライフルを使おうとするな。
しかし遠藤は冷静だった。病衣のポケットからもう一つの拳銃を取り出すと即発射。みさくらが呻き声を上げて軽く吹っ飛んで地面に仰向けに倒れる。あんなデカいライフルを構えようとすりゃそりゃ速射性で負けるわ。そして遠藤の狙いがみさくらからちょくえに移る。これで終わりか……。
発砲音がなり、ちょくえに向かって0.44マグナム弾が飛んでいく。
ちょくえは地面に倒れたまま狂気の笑顔を浮かべその銃弾を見つめる。
そう、見えたのだ。
ちょくえはその銃弾を明後日の方向へ跳ね返し、リボルバーを遠藤に向けた。
衝撃が走る。俺の夢がコントロールされただと……。
そして再びなる銃声……。
「遠藤!」
遠藤が血反吐を吐きながら背中から倒れてきたので慌てて背中を支えてゆっくりと寝かせる。
「シマリス……」
遠藤の声は弱々しかった。どうやら遠藤は胸に被弾したらしい。
「くたばったかクソアマ! 次はテメェの番だクソガキ!」
ちょくえが俺達を無視してリボルバーのハンマーを親指で倒す。
「シマリス、逃げるな……、殺せ、奴ら全員を殺せ……!」
「……、馬鹿げた遺言だな遠藤……、撃つなら撃てよちょくえ」
「遺言じゃない。私は死なない。お前が私を認識し続ける限り私は生き続け……」
ちょくえが引き金を引いて銃声がなった。
最終更新:2014年10月30日 22:31