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 佐伯はまた今日も「昨日新刊を読んでたらアニメ見逃した。今日はそれを見る」とか言って帰ってしまった。俺の記憶が正しければあいつは将棋部の部長だったはずだが。

 「あの、堀さん。ちょっといい?」
帰りのHRが終わってすぐに話かけた。鋭い目つき。いかにも不機嫌そうな顔。心が折れそうだ。
 「手短に」
そう言って、背負いかけたリュックを机に置いて話を聞く体制になってくれた。

 「……ってことなんだけど、今の話に心当たりない?一応君も将棋部ってことだし、関係してるかもしれないんだけど」
『あれ』の話は伏せておいた。
 ていうか、関係なんてほとんどない。確率で言えば1%にも満たないんじゃないか?
 以外な答えに、俺は震えた。

 「犯人は隣の巣山って先生だ。ちなみに、教室を荒らしたあと、そいつは手に拳銃を持ってた」

 どこから、一体どこから突っ込めばいい?誰に突っ込めばいい?

 堀さんの話を必死に脳内でまとめる。「面倒だから一度しか言わない」という堀さんの言葉を聞き、神経を集中させた。普段は頭を使うことなんてほとんどないってのに。

 昨日の午後、堀さんは隣のクラスの担任の巣山先生を訪ねた。しかし、巣山先生はそこにはいなかった。クラスの生徒に聞くと、彼は階段を登って行ったという。彼女はそれを聞き、後を追った。
 4階の突当り、将棋部の部室に入っていく後姿を目撃した彼女はそれを追って部室のドアに手をかけた。
 直後、ガラスの割れる音、駒が散らばる音、何かが破壊される音、それらを聞いた。彼女はドアの前に立ち尽くし、ただただ時間が過ぎるのを待った。
 のち、巣山先生がその教室から出てきて、階段を下りて行ったらしい。物陰に隠れていた堀さんは、巣山先生の手に拳銃が握られていたのをはっきりと見たらしい。
 「なるほど。巣山先生に盗られたのか……困ったなぁ」


 だが、気になる点があった。
 彼女は先生が暴れる『音』を最初から最後まで近くで聞いていた。が、チョークで黒板に何かを書く音は一切聞こえなかったらしい。

 「どうもありがとう、堀さん。このことは秘密で」
「はいはい……。じゃ、私は昨日巣山先生に言いはぐったことがあるから」
と言って教室を出て行った。
 数分、話を脳内でまとめて、落ち着いて、それから俺も教室を出て部室へ向かうことにした。

 「やぁ、尾島君、これから部室へ行くのかい?」
後ろから声をかけられた。巣山先生の声だ。姿は見えない。堀さんと話をしているんじゃなかったのか!?
 もしかしたら、後ろから銃を突きつけられているのかもしれない。そんな想像さえもできた。怖い。あの作り笑いを浮かべているに違いない。この人は、危険だ。本能がそう言っている。
 「あ、いえ、その、帰宅します」
「うん。それがいい。もしかしたら犯人がまたあの部室を訪れるかもしれないからね」
お前がその犯人なくせに。心の中でそう唱え、下駄箱を目指そうと一歩踏み出す。
「気をつけて帰りなさい」
背筋が凍りつく。嫌な汗が出る。早く帰ろう。

最終更新:2014年11月14日 22:47