第四話
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8月のことだった。蝉の鳴き声、コンクリートに蓄積される太陽光、入道雲、べったりと体にくっつくTシャツ。夏本番に差し掛かったある日、俺は隣町まで行く用事があったので駅のホームを電車を待っていた。次の電車が来るまでに20分近く待たなければならなかった。この暑さの中を、だ。
リュックに入れておいた水筒を取り出して冷たいお茶を飲むことで少しは暑さが引くような気がした。ばあちゃんが朝のうちから用意しておいてくれたんだ。
ばあちゃんとじいちゃんは俺を育ててくれた。だから、今回はそのお礼をするために隣町で買い物をするんだ。そうやって決めて家を出た。
ホームの椅子に座っていると蝉の鳴き声の中に、別の音を聞いた気がした。なんとなく、横を向くと、この暑い中でわざわざ日向に立って電車を待つ女性がいた。
白いワンピースを着て、麦わら帽子をかぶっていた。
違和感を感じる。その人を見て、違和感を感じる。
どこかがおかしい。
欠けているのか。
余っているのか。
もう少し、近づいてみたら違和感に気がつくことができるかもしれない。そんな風に思ってしまった俺は、彼女の方へ歩いて行った。
ホームの屋根が途切れると日差しがとびこんでくる。一気に熱を感じる。
彼女までの距離、3メートルというところでようやくその違和感に気づくことができた。
彼女には影がなかった。
太陽がギラギラと輝く真夏の昼間に、影も持たずに立っているその女性はこちらに気づき、笑う。
「━━━━━━━。━━━━━━━━━━━━━。━━━━━━━━?」
彼女は何かを僕に尋ねた。僕の頭の中に響いているのはいまだに蝉の鳴き声だけで、他には何も聞こえない。
電車到着のアナウンスさえも。
ホームに立っていた駅員の声も。
線路の向こうにいた通行人の叫び声も。
それまで僕の目に映っていたのは、白いワンピースに反射した鋭い日光だった。それが、いきなり、変わる。
真っ赤で黒いものに変わる。
瞬間、蝉の鳴き声が蝉の泣き声に変わる。
最終更新:2014年11月14日 23:12