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 坂口慎吾(さかぐち しんご)はなかなかの努力家であった。それが得して、クラスでは人気があり、成績も良かった。挫折を知らない、という訳では無い。
 彼は、自分よりも遥かにハイスペックだった信条美咲(しんじょう みさき)を、友人として見ている一方で尊敬していた。彼女が「ホワイト学院志望」と言ったので、いつかアイツと肩を並べたいという気持ちだけで「ホワイト学院を志望します」と口走ってしまったほど。
 「男に二言は無い」と貫徹して、懸命に勉強したらギリギリで、このホワイト学院に無事合格したのだ。
 ホワイト学院は東京都でも指折りの国立高校。更に、俗にいう“マンモス高校”というやつであり、生徒数は高校の中でも群を抜いた多さだ。
 つい最近開校したばかりで設備も非常に充実している。流石は国が立てた高校。伊達じゃない。
 坂口慎吾の友人にもう一人、山田紫電(やまだ しでん)というずば抜けて頭のいい男がいた。彼も同じくしてホワイト学院に入学することになった。彼の進学理由は、信条美咲と一緒にいたい。ただそれだけである。つまりは好意を抱いているのだ。
 山田は「偏差値高い高校だし困りはしない」と言って、ちゃっかり受かった。
 ここまで都合良く入学出来たのは、中学校の治安に恵まれていたのもあるだろう。
 授業妨害をする不良はほとんどいなかった。むしろ、ちょっとした不良はいれど大人しかったのだ。進学率も非常に高い。
「でっけえ……ここがホワイト学院か」
 坂口、山田、信条の三人は仲良く校門をくぐり抜けた。桜並木が出迎えをつとめている。
「そういや俺部活決めて無かったわ……」
 山田がぼやく。坂口は中学時代からやっていたバスケ、信条は5歳からやってきた弓道がある。しかし山田はこれといってやりたい部活は無かった。
 ――しかし帰宅部だけは避けたい。高校生活に部活は欠かせない。
「まあ、勧誘された部活に入ればいいと思うよ?」
 信条は山田の背中を押した。「そうだなぁ……」
 ホワイト学院のパンフレットを見る限り、相当な数の部活がある。中には「シューティングゲーム研究部」「おでん徹底解剖部」「漫画キャラ最強議論部」など、大学のサークルとさほど変わらないような響きの部活名も数多くある。
「楽しそうだけど……もうちょいマトモなのは無いかなぁ」
「あとでにしようぜ山田」
 坂口にそう言われて頷いた。

 入学式は、これまた異様に広い体育館で行われた。信条曰く、この体育館にも入りきらない人がいるから場所によってはモニターを通して校長先生が話す、とのこと。
 しばらくして大堂智(だいどう さとし)校長が壇上に上がる。いかにも話が長そうな雰囲気の校長だったので、坂口は思わずため息をついた。
 ――ホントに長かった。
「あぁ~だるい」
 坂口は背伸びをしながらの欠伸は最高だな、と呟く。
 この後は各自振り分けられたクラスに行く。担任教師の紹介がある。自分は第3校舎1階の1‐E組。席に着いたものの特にすることが無いので、持ってきていた本を読む。幕末を描いた小説だ。
 ちなみにだが、国立なのに割と自由な所が多い。1年生は制服を必ず着用しなくてはならない。しかし2年生からは行事がある日以外はどんな服装でも構わない。ただし限度はある。――過激なコスプレでやって来たばかりに強制的に帰らされた伝説のオタクがいたとかいなかったとか。
 しばらくして担任教師が、けだるい面構えでやって来た。
「え~と、俺の名前は二宮翔梧(にのみや しょうご)だ。これから一年間よろしく」
 クラスの中からパラパラと僅かな拍手が起こる。二宮という教師はまんざらでもない様子。
 このあとは予定は無く、帰るのみとなる。
 クラスメイトも、大半が初対面なせいか会話をせずに帰り支度を始め、そそくさと去っていく。
 さて自分も帰らなくては、と坂口も支度をしていたその時だった。
「坂口慎吾」
 フルネームで呼ばれドキッとする。声の主は二宮翔梧だ。先程とはだいぶ違う声に畏縮した。
「ちょっと話がある」
「あの、何か問題事が?」
「いいから」
 そう言われ二宮に手招きされた場所は、視聴覚準備室。二人きりで話す場があればどこでも良かったみたいだが。
「座ってくれ」
 二宮に促され椅子に座る。椅子の鉄の部分が肘に当たり、少しヒンヤリした。テーブルは真っ白な、会議によく使われる定番のものだ。だがサイズは小さい。
「そうだな……何と言うか」
「……?」
 ――この先生はなぜ話の切り出しに困っているのだろう。
 坂口は困惑した。
「平行世界だとか超能力だとかを信じるほうか?」

最終更新:2014年11月18日 23:16