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 坂口は二宮が何食わぬ顔でそんな事を聞いてきたものだから、開いた口が塞がらなかった。
「……オカルト研究部の勧誘ですか? すいません間に合ってます」
「いや、俺はバスケ部の顧問だが」
 懐からタバコとライターを取り出す。しかし二宮は天井の火災報知器の存在に気付き、舌打ちしながらしまった。
「そうっすか……いや、まあ信じてはないけど否定したくないっていうか」
 先程の質問に、曖昧な表現を用いて答えた。というのも、形容しがたい質問だからなのであるが。
「よし、なら話が早い。とりあえず今から俺の後ろに現れる“黒い穴”を見た率直な感想を聞かせてほしい」
 ――何言ってんだこいつ。もしや変なクスリをキメてんのか?
 坂口は呆れた表情で頷いた。
 ――やれやれ、担任教師がこんな胡散臭いオッサンでは――。
 否、その変なクスリをキメていたのはこちらのほうだったのかもしれない。
「え……え!?」
 本当にそれが現れた。とてもホログラフィーとは思えない。その“黒い穴”にゆっくりと近付き、手で触れてみると何故か生暖かい。
「どうだ?」
「どうだって……実在したんだこんなの」
 小学生のような感想を漏らす。二宮は口元を歪めた。
「何を言ってるがわからないだろうが、その穴は“並行世界”どうしを繋ぐもんだ。あちらの世界の知り合いに空間を操る奴がいてな」「は、はあ……でも何で俺なんかに?」
 一番の疑問だった。なんで自分がこんな訳のわからないモノを見せられなければならないのか。思考は追いついているが理解を拒む。
「それは簡単だ。お前には“超能力者”の素質がある」
「……」
 まさか高校生活初日からこんな目に合うとは思いもしなかった。泣きたくなってくる。
「順を追って説明しようか。並行世界はわかるな?」
 坂口は頷く。
 並行世界。例えば「もし本能寺の変で織田信長が生き残っていたら?」「もし第二次世界大戦が日本の勝利で終わったら?」。そのような事があったら、今の日本は大きく変わっていたはずだ。それが並行世界、すなわちパラレルワールドである。
 パラレルワールドは無限に存在する。「たかしが座薬を買った」「たかしが家庭科のテストで19点を取った」といったようなどうでもいい事でもパラレルワールドは生まれる。限りなく似た世界でも微妙な変化があるからだ。
「あっちの世界は“超能力者”が暗躍している世界だ。一般人には知られていないが、国の上層部からしたら超能力者の存在は常識だ」立ち上がり、続けざまに言う。「ジョディー・フランっていう美人……はどうでもいいか。英語教師がいるんだが、そいつが空間を操る能力を持ってる」
 “穴”に人差し指を向ける。
「ジョディーの扱える並行世界はここだけしか無い。しかも超能力の概念がそもそも存在しない世界だから見つかるかどうか心配だったが」
「俺にその素質があった?」
「そうだ。ちなみに拒否権は無い」
 やっぱり?と言うと、やっぱり、と答えてきた。こだまでしょうか。
「よし、じゃあ行くぞ」
 二宮に促され、“空間の穴”に自ら飲み込まれるかのように飛び込む。
(あんま理解したくないけど立ち止まっていても仕方ないしなぁ。とりあえずこの先生に従おう)
 坂口はそう考えていた。“穴”の行き先から光が漏れている。
「あいたっ!」
 飛び込み方が悪かったらしく、頭を強打した。
「アホか、しっかりしろよ」
 二宮は鼻で笑いながら坂口に手を貸した。
 辺りを見回す。何ら変わりのない第3校舎の隣に、見知らぬ建物がある。
「坂口慎吾でいいのかな?」
 一方で、聞き慣れた声がした。信条美咲の声に違いない。
「し、信条?」
 声がした方向へ振り向くが、やはり信条だった。
「え?なんで私の名前を……あ、そっか。そっちの世界にもいるんだね」
 腰に日本刀を装備しており、坂口が今まで見てきた信条美咲よりも堅苦しい雰囲気がある。
「後は頼んだ信条。ちょっと準備に取り掛かる」
「わかりました」
 坂口は違和感を感じていた。ここの世界も桜は満開だ。ということはまだ4月8日、つまり入学式。なのに何故この二人は普通に知り合いのような感覚でいるのか。
「ここの日付は?」
「4月8日だけど、それがどうかした?」
「いや、なんか二宮先生と普通に知り合ってたから」
 信条は首を傾げた。
「そりゃ、中学時代からの付き合いだし」
「……って事は、信条は中学の頃から超能力っつーのを持ってたのか?」
「その質問からして、超能力について先生から聞いてるみたいね。その通りよ」
 ついて来て、と坂口を誘導する。行き先は、あの見知らぬ建物と思いきや第3校舎。
「ちょ、おい、あの建物じゃないのか?」
「あの建物に入口は無いわ。不法侵入されたら困るから第6理科準備室の緑色の扉から入るのよ。他にも入り口はいろいろあるけど安全に入るにはあそこしか無いし」
 「安全に入る」というキーワードがやけに引っ掛かるが変な詮索はよしておくことにした。
「……あ、でも面倒だしジョディー先生に頼んで何とかしよっと」
 懐から携帯電話を取り出し、ジョディーに連絡する。間もなく“穴”が坂口の背後に現れる。
「今度は入り方に注意しなくちゃな」
 知らず知らずのうちに、坂口は順応していた。
 “穴”を越えた先は、まさしくあの建物の中だった。
「ようこそ、執行委員会へ」

最終更新:2014年11月18日 23:17