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「手間がかかるったらありゃしないわ……行きなさい、“特攻隊”」
「ラジャ!」
集団の後ろにいた、腹にダイナマイトを巻いた兵士達が他の兵士を掻き分けていき、集団を抜け、“人形の部屋”に突撃していく。
「なっ……!」
“人形の部屋”に積み上げられていた死体とその異臭に動揺する暇すら与えずに特攻隊は坂口を襲った。
特攻隊の兵士達は坂口を拘束し、床にたたき付けた。淵野辺が他の集団をぞろぞろと引き連れて部屋に入ってきた。
「私には起爆の権限があるけど、どうかしらね? 貴方がお人形さんになってくれさえすれば、貴方を生かしてあげる」
坂口は口元を歪めた。思わず、笑い声を漏らしてしまった。その様子を見た淵野辺のこめかみに青筋が走る。またしても指の関節をボキボキと鳴らした。
「そんなアホくさい交渉に乗るわけないだろ?」
「……なんだと」
途端に口調が変わる。――もともと剥がれ落ちていた化けの皮の下にも更に化けの皮があったようだ。今までの余裕ぶった表情から、憤怒の二文字がぴったり当て嵌まるような表情に変貌する。
「聞こえなかったのかよ……! テメーなんざに屈しねえって事だよ!!」
勝機があるわけではない。単純に、淵野辺に隷属するくらいなら爆死したほうがマシだという思いから出た言葉。
指揮者が再び腕を振り上げた。あの腕が振り下ろされれば特攻隊は起爆されるだろう。
「この物分かりの悪い粗チンがッ!! 骨の髄までしゃぶりつくす価値すら無いわッ!!」
激昂した淵野辺は容赦なく腕を振り下ろした。――覚悟は出来ている。一思いに殺すがいい。坂口は目を閉じた。
同時刻。
「総員、突撃の準備は出来ているな」
「はッ!!」
山田が声をかけると、全員が揃えて返事をした。それを見て頷くと、正面玄関を破壊して基地になだれ込む。
「超能力者らしき女を見つけ次第すぐに拘束しろ! いいか、殺すなよ!」
山田の部下達はアサルトライフルを構えたまま手当たり次第に扉を破壊し、中へと入り確認する。また他の部下達は上の階へ移動する者もおり、下の階へ移動する者もいる。
この山田自身、胸騒ぎがしていた。ここには怪物がいる。山田は、坂口と同じような感覚に陥っていたのだ。
ここ最近、この一帯の行方不明者が急増していたそうだ。資料を見る限り、今年に入ってから8449人。――人が多い東京だからとはいえ、この数は流石におかしい。東京都全区ならまだしも、ここ一帯に関するデータでの数値だ。しかし警察は動けない。証拠や手がかりが無い以上、追いようがない。
その原因がここに巣くう怪物だとしたら――そう思うと、山田は身震いした。
「俺は地下に移動するからしっかり見張っといてくれ」
「承知しました!」
山田はまず地下1階へ移動することにした。――ここにいる可能性が高い。山田はそう確信していた。根拠は無い。
「さてと、まずは何処から当たってい――」
――止まれ。
男が詠唱した。
「……」
坂口はしばらく目を閉じていたが、一向に起爆する気配が無かった。それどころか、謎の威圧感も、部屋に入ってから感じていた死体の腐敗臭も消えている。
ゆっくり目を開けた。
「……え?」
視界の先には実に奇妙な光景が広がっていた。周りの物や人は動かない。淵野辺も腕を振り下ろす途中でピタリと停止していた。硬直しているかのようにも思える。淵野辺の口から飛んだ唾も空中に留まっている。
そしてそんな奇妙な光景のなか、自分以外にも一人だけ自由に動いている男がいた。
自分と同じくらいの年齢と思われるその男は、こちらを振り向いた。短い金髪が微かに揺れる。
「よう。はじめましてだな。城ケ崎秀一(じょうがさき しゅういち)だ」
気さくに話し掛けられた。――これは彼がやったのだろうか。
「坂口慎吾だけど……これは一体?」
もう自己紹介が面倒になってきて随分適当になってしまったが坂口は気にしないことにした。
「俺の能力、《時の旅人(タイムトラベラー)》は時間を止めることが出来る。んで、お前を助けてやった」
「あ、ありがとう……でもなんで?」
「いや、なんか面白そうでさ。まだ死ぬには勿体ないかなーみたいな?」
――素直に喜べない自分がいる。助けてくれた事には心底感謝しているのに。
「面白そう?」
怪訝そうな視線を城ケ崎に送るが、依然、飄々としていた。
「ああ。……んじゃ、ちょっとミニゲームしよう」
城ケ崎が指を鳴らすと、時間が動き出した。周りの人間が動きはじめたからそう理解できた。
淵野辺が腕を振り下ろすも、特攻隊の人形は消えていた。厳密に言うと、死体の山の一番奥深くまで移動していた。
「っ!?」
死体の山の中で爆発したソレは、死体を吹き飛ばした。見苦しいにも程がある光景だ。山に一番近かった淵野辺は大量の返り血を浴びた。
「……な……誰だお前は……!」
淵野辺は坂口を殺害することよりも、城ケ崎に注目がいった。当然だ。いきなり現れたんじゃ驚いてもおかしくない。
「ここか、観念しろ淵野辺卞狐!」
「や、山田!?」
続けざまに山田が駆け付けた。いきなりかつ意外な訪問者に坂口は驚愕した。
「ん? なぜ俺の名前を知ってるんだ君は?」
山田は淵野辺に銃口を向けたまま坂口のほうへ首を傾げた。――やらかした。こっちの世界では初対面だった。
「……まあいいか。お前、淵野辺卞狐だろう?」
山田がそう言うと淵野辺はクスクスと笑った。
「あらあら、お人形さんの候補が次々とやって来たわ~今日は豊作ね!」
山田は顔をしかめ、城ケ崎は皮肉まじりに口を歪めた。――城ケ崎はどうするつもりなのか。坂口は気になっていた。
「さ、見てな坂口」
城ケ崎はそう言って再び時間を止めた。無機質な空間に早変わりする。――どうやら時間を止めた状態で動ける人間を、城ケ崎は選択できるようだ。
「このクソ女が死ぬところをよ」
「ま、待て! 殺すのか!?」
坂口は止めようとする。
「止める意味がわからんな。こんな奴は生きてても意味が無い」
そう言った瞬間、時間が再び流れ始めた。
「え゛?゛」
淵野辺は短く悲鳴を上げたかと思いきや、身体中から血を吹き出して倒れた。暗くてもわかる、四方八方から飛び散った血液のどす黒さが、彼女の内面をそのまま投影しているようだった。
城ケ崎はどこにもいない。――恐らく俺の活動を止めたあとに淵野辺の身体を刃物で切り刻んだのだろう。淵野辺の身体には切り裂かれたような跡がたくさん付いている。
先程の特攻隊が移動した原因も、城ケ崎が律儀に運んでいったのだろう。
山田は状況が理解出来ていなかった。目を見開いたままだ。
「淵野辺に何があったんだ……?」
山田はそう呟くしか無かった。同時に、とんだ無駄骨だったという思いもあった。
床の半分が血で染まってきている。
淵野辺卞狐は何をされたのかわからぬまま絶命した。
それは同時に、向学やジェミニ、死体ではなかった人形達が解放されたという事でもある。
最終更新:2014年11月18日 23:22