16ページ目
「まさか」とは思いつつだったが、その「まさか」だった。
「ど、同姓なのかと思ってた……」
「いえ、苓北財閥の苓北恵美ですわよ」
坂口は何に驚いていたかと言うと、苓北恵美の正体に驚いていたのだ。
世界三大財閥。
苓北、セフィウス、クライリーズの三つの財閥の総称である。世界三大などとうたっているだけあって、財閥の主はまさに鶴の一声である。「あーうんこしてぇ」の一言だけでも多大な経済効果を招くのではないだろうか。その勢力はこちらの世界では更に大きく、日銀総裁を身震いさせたとかさせなかったとか。とにかく強大な財閥であり、札束がトイレに落ちててもおかしくないようなほど裕福である。
「こんなところでお目にかかれるとはねぇ~」
「そういう態度は好きじゃありませんの」
ぷい、とそっぽを向く苓北。
「いや、そんなつもりじゃ」
「ふて腐れる苓北お嬢様マジカワユス……」
弁解しようとする坂口を余所にチャラい外見らしからぬ発言をする新屋敷。
彼らは近頃新しく建てられる大型ショッピングモール、“「タイタン」の防衛”について話し合っていた。
“防衛”と言うのは書いて字の如く、Answerのテロ攻撃から防衛することである。
タイタンのオーナー、木津更浩(きづさら ひろし)は政府高官の井原數鷹(いばら かずたか)と高校時代からの仲であり、開店を記念してタイタンに招待していた。 しかしそんなところにAnswerからのテロ予告。木津更は政府上層部に顔が広かったため予告を極秘裏に揉み消してもらったのだ。
井原はその事を知らず、また木津更も井原に伝えようとはしなかった。
ホワイト学院とALEXは急遽タイタンの開店延期を木津更に依頼したが、彼は頑なに延期をしようとしなかった。理由も伝えてくれなかった。
渋々ホワイト学院、ALEXの双方はAnswerを迎え撃つ事に決定。ALEXは井原數鷹の護衛、ホワイト学院はAnswerの襲撃からタイタンを防衛することになった。
更に、苓北恵美はAnswerに狙われているのだ。
目的は軍資金の調達であろう。
彼らAnswerには、“ピースメーカー”と呼ばれる要塞兵器とも兵器要塞とも言えるような脅威の兵器を持っている可能性が高かった。恐らく資金はそれに使われる。坂口はその事について二宮から詳しく話を聞かされた。
「お前の世界では無かっただろうが、ここでは第三次世界大戦が存在した」
1985年11月。ピースメーカーにより出された死者数は全世界の半分ほどだったと言われている。
話は逸れたが、苓北は狙われている身でありながら、敢えてタイタンに出向いてやろうと言ったのだ。捕まったならそれは私の責任だ、と胸を張ったようだ。
しかしわざわざ出向く、という方法もナシではなかった。テロリストをあぶり出せる可能性も十二分にある。ホワイト学院――執行委員会はその意志を受け止めた。
(しかし、芯の強い人だなぁ……)
坂口は心の中で呟いた。
このタイタン防衛戦を機に苓北を狙うテロリストをあぶり出せる絶好の機会を逃す訳にはいかなかった。
反面、失敗すれば最悪の事態となる。ハイリスク・ハイリターンなのだ。
「当然の事だが、超能力も使い時を考える必要があるからな。一般人を巻き込んではならない」
二宮はスクリーンを使わずに話しはじめた。
テロリストがどう出るかはわからないが、そもそも世間に超能力の存在が知れ渡ってはならない。――淵野辺の一件以来、マスコミも嗅ぎ付けはじめている。
「どうやらタイタンの建設中に爆弾が仕掛けられたようですの」
苓北が説明を始める。スクリーンには爆弾と思わしき物体と、三人の男女がピックアップされた。
「この三人はAnswerの主要メンバーですわね。タイタンの襲撃に出向く可能性大ですわ。コードネームは右端からトランクイッロ、マエストーソ、アジタート。このアジタートという赤髪の男が私の命を狙っている大ファンですの」
伸縮可能なタイプの棒で画面をつつく。
「ALEXの方々もお出でになさるようですし、一気に三人纏めて倒せれば良いのですが……」
難しいだろう、と言葉に出すのをやめた。
「とにかく各自準備していてほしい。解散!」
坂口が部屋を出ようとした時、二宮に止められた。会議室には彼ら二人しかいなくなった。
「お前にピースメーカーの話をしたな」
「はい」
二宮はどこを見る訳でもなく、タバコをふかした。火災報知器が近くの天井に設置されていないかチラ見で確認する。
「……ピースメーカーが主役とも言えた第三次世界大戦を終結させたのは誰だと思う?」
坂口は首を傾げた。何が言いたいのかよくわからない。
「……」
ふぅ、と煙を口で吐いてから、ある人物の名前を言った。――坂口慎吾、とはっきり。
「……え?」
「この世界の坂口慎吾さ。何を血迷ったか知らんがな、お前はピースメーカーをぶち壊したそうだ」
「な、何のために……!」
身体を二宮に寄せる。二宮は眉を潜めて「知らん」と一言。
「それはお前が、この先“坂口慎吾”と巡り会えたら聞くべきだ」
「……確かにそうですね」
妙に突っ掛かる何かを無理矢理心の奥底にしまって、会議室をあとにした。
「本日からこの部隊を指揮する山田紫電だ。よろしく!」
山田は気軽にあだ名で読んでほしい、と三人に言った。
「私は西園寺霙(さいおんじ みぞれ)! 回復系の能力を持ってるよ、よろしくね山ちゃん!」
オレンジ色の髪の毛に似合うキュートなポニーテールが印象的な西園寺は、山田と握手を交わした。
「長曽我部勝儀(ちょうそかべ かつぎ)だよ、山田さんよろしく!」
温厚そうな太った男は軽く頭を下げる。
「……平良仁(ひら ひとし)だ。よろしく」
冷静沈着に見える男は、山田の肩を二回叩いた。
みな同年代なだけあって、すぐに馴染めそうだと山田は安心した。
「上層部(うえ)からは言われただろうけど、井原數鷹氏の護衛という仕事が近頃ある。俺達最初の任務だ。井原氏とは現地で会う。それまで準備を怠らないようにな」
三人に呼び掛けると、素直に頷いてくれた。
最終更新:2014年11月18日 23:24