アットウィキロゴ
18ページ目

 《空に築く盆栽(エンプティー・パフォレート)》。
 その正体は空間どうしを切り取り、繋ぎ合わせる“ハサミ”と、空間そのものを削り取る“虫取り網”の二つ。
 当然空間そのものを削り取るということは、虫取り網が命中さえすれば身体の一部を根こそぎ取れるということになる。
 先程の、攻撃をしようとした神崎がいつのまにかスフォルツァンドの後ろを通過していた、という出来事は、スフォルツァンドがハサミで前方の空間と後方の空間を繋ぎ合わせたから起きたものなのだ。
「いくぞっ……!」
 襲い掛かるスフォルツァンドの虫取り網。危険を察知した神崎は誰のかわからない車の上に飛び乗る。
 タイタンの屋上は駐車場でもあった。別棟の立体駐車場とここを繋ぐ橋があり、立体駐車場が満杯になればここを使うようになっていた。
 車は障害物にもなる。あの“虫取り網”が如何なるものなのかを見極めるきっかけにもなるだろう。
 神崎はそう予想していた。
「うっ!」
 神崎がバランスを崩しそうになる。
 ――虫取り網などという、子供じみた道具に完全に油断させられていた。あれはかなり危険だ。
 虫取り網は車体の内部を飲み込んでいった。神崎が立っている屋根は支えてくれるものを失ったためスフォルツァンド側に傾く。
 ――必然的に神崎はスフォルツァンドに吸い寄せられる。
 虫取り網の狙いはまさにそれだった。 すかさず神崎を縦に喰らおうとする。
「《針小棒大》っ……!」
 飲み込まれまいと神崎は車体の屋根のサイズを拡大する。
 《針小棒大》によりサイズを変えられた物体は、中心から広がっていく。神崎は屋根のスフォルツァンド寄りに位置していた。
 ――その状態で大きくさせたらどうなるか。
(隙ありっ……!!)
 答えは、神崎を飲み込もうとした虫取り網の内側に移動することになる。
 この距離で再び虫取り網を振り回すのは難しい。スフォルツァンドはこのまま神崎の薙刀の攻撃を受ける。
「てやぁっ!!」
 薙刀の刃はスフォルツァンドの腹部を確実に仕留める――はずだった。
「ふ、馬鹿め!」
 彼は鼻で笑った。
 《針小棒大》でサイズを変更したあたりから、スフォルツァンドは空間を繋ぎ合わせていた。彼の前方の空間と繋がれた場所は――。
「なっ!?」
 屋上の外、つまり空中である。
 宙に投げ出された神崎を見て、髭を生やした紳士は笑った。
「こんの……!」
 神崎はこのままでは真っ逆さまに落ち、あえなくミンチとなる。しかしそう簡単に死ぬわけにはいかない。
 彼女はもう一つの能力、《重力操作(グラビティオペレート)》を発動する。
 重力の強さ、方向を操るほか、重力そのものを崩壊させブラックホールを思いのままに操ることも可能だ。
 神崎は自身に働く重力の方向を転換させ、タイタンの壁に文字通り“着地”した。
 そのまま忍者よろしく壁を駆け抜けていく。
 思わぬ復帰にスフォルツァンドは苦笑した。
「しぶといじゃないか! 若いってのはいいなぁ!」
 途端にスフォルツァンドは傍の自動車を軽々と蹴飛ばす。虚空に煌めく銀色のボディは、そのキックの力によって凹まされていた。
「うそっ……! 確かにゴツいとは思ったけど……」
 神崎は自動車のまわりにはたらいていた重力を北々西――ちょうど自動車がスフォルツァンドに突撃するようになる方向に指定。だがそれと同時にスフォルツァンドは空間を自動車ごと刈り取った。 自動車は爆発し、残った残骸は呆気なく他の自動車に激突した。
「……」
 指定した座標の重力を解除しながら思案する。
 ――私はあの男ごと吹き飛ばせるように“自動車そのものにはたらく”重力ではなく、“飛来した自動車のまわりにはたらいていた”重力の方向を変えた。……要は座標を指定した。
 でもあいつは“虫取り網”で自動車を削り取って回避した。そのとき自動車のすぐそばにいたのに重力の影響を受けなかった。思えば破壊された一台目の車も、削り取られた部分はもともと無かったかのようにすら見える。そして変更した重力の影響が削り取った部分には及ばなかった事から考えると。
「空間を繋いだり消し去ったりできる、ってことかしら」
「大当りだ、頭の回転が速いのは良いことだぞ!」

 自動車が爆発したときの音は五階にも相当響いており、辺りはざわつきはじめた。
 そろそろテロリストは動いてもおかしくないだろう、と考えた二宮はインフォメーションへと足を急がせる。
 同じくして四階の新屋敷、三階の坂口もAnswerと対峙することとなった。
「先程屋上駐車場で大きな音がしましたが異常はありませんでした。引き続きお買い物を楽しんでください」
 と、とても信頼できないアナウンスが流れる。
「ボウヤ。どう思う? 今の嘘ばっかりなアナウンスは」
 くすり、と微笑。
 自分の目の前にいる女性は間違いなく敵だ――新屋敷は息をのむ。
「爆弾探すには探知器いるもんねー、そんでもってボウヤは見事に釣れた、と……」
 茶髪を撫で下ろした女性は、静かに囁いた。
 そう。新屋敷の右手が握っている爆弾探知器は最大まで反応を示している。
 見知らぬ女が軽々しく、遊ぶように持っている爆弾に探知器は反応しているのだ。――そんな人間を見て、敵ではないという解釈に至るわけがない。
「……」
 身構える。
 相手の能力がわからない以上こうするしかない。
「あーあ、つっっっまんない反応……もうちょい戦闘狂みたいな奴と戦いたかったんだがねぇ」
 女――そう、あの時の写真からして彼女のコードネームは“マエストーソ”だったはずだ――マエストーソが懐から取り出したのはスイッチだった。
 恐らくは起爆装置。
「待て、それは……!」
 どこの起爆装置かはわからないが、まずマエストーソが持っている爆弾は有り得ないだろう。となると必然的に爆発するのはそれ以外の――。
「はいドッカーン!!」
 その声には遊び心しか篭っていなかった。非情な親指はたやすくスイッチを押した。

 二階。
 ジェミニは生成した金属で爆弾のまわりを囲み、被害を抑えようとした。
 身体の方向展開は出来ないので、ホフクで後退する。
 刹那。
「……え」
 マエストーソによって起爆された爆弾はまさにこれだった。
 想像以上に強力な爆弾は、ダクトごとジェミニに襲い掛かる。
 そして二階に響いたのは轟音。
 先程の不可解なアナウンスと、たった今起きた爆発。――客はいよいよ異常事態だと気付いた。
「っぐあ……、つっ……!」
 ジェミニは死にこそしていなかったが、致命的であった。ダクトは二階天井裏に張り巡らされていた。破壊されたダクトの破片とともに、逃げ出すように流れる客の動きの中に落とされる。
 当然、それを見た客はパニックを促進させる。
「なんかやばいぞ! 逃げろ逃げろ!!」 若者が叫ぶ。
 広大なショッピングモールとは思えないほど、そのパニックは伝染していく。
「おい坊主! どうしちまったんだ!!」
 中年の男性らはジェミニに駆け寄り、外へ運ぼうとする。
 血まみれのまま、真っ逆さまに叩きつけられたダメージは大きい。

「そのうちこのパニックはショッピングモール全体に広がるだろうね……こんな風に!!」
 マエストーソは爆弾を空中に放り投げた。
 そして懐から別の起爆装置を取り出して、爆発させる。
 二階と同じように、悲鳴が沸き上がる。
「お前……!!」
 凶行を食い止めるべく新屋敷はマエストーソの腕を掴もうとした。
「はーいはいはいはいはいはい、ガキは黙って……」
 しかし予想以上に俊敏な動きを見せたマエストーソ。新屋敷の右手を掴むと、
「なッ!!」
 強力な電撃を彼に浴びせた。
「がっ……!?」
 新屋敷はそのまま倒れ込んだ。痺れて手足が動かせず、恐怖に歪んだ人々の顔を見ながら横たわるしかなかった。
 彼女の能力は、電撃や、それによって発生する熱を操る能力だった。
 客の中からマエストーソはとある家族を連れ出した。
 新屋敷はその光景を目の当たりにする。
「な、何をするんだ、やめ……っ」
 父親はマエストーソの電撃を喰らい新屋敷と同じように横たわってしまう。
 ――やめろ。何をする。
「うわあああああっ!! お兄ちゃあああああん!!」
 マエストーソは二人の兄妹の首を掴んだ。賞金首をとったかのように、高らかに。
「やめてください……! お願いします、お願いします……!」
「ん? 何だって?」
 母親の懇願は、マエストーソの耳を横滑りに通過していく。
 ――やめろ。
 手足は動かせない。
「私はどうなってもいい、だから……だからその子達だけは――」
「そうか死ね」
 突如放たれた光線。
 ――彼女はこれを適当に電熱光線と呼んでいた。
 いわば強力なプラズマビーム。その威力は戦車などとは比べものにならない。
 そんな狂気の力が、母親の顔面に向かって放たれた。
「っはっはっは――! 見てたかいボウヤ、零距離射撃ってヤツだ!!」
 くつくつとけたたましい笑い声が悲鳴を相殺するかのように響く。
 ――母親の首から上は確認出来ないし、母親の後ろにいた客も被害を喰らっていた。
 驚愕の威力を誇る電熱光線は周囲の窓ガラスを一瞬で割り、商品棚をぐちゃぐちゃに掻き回していく。
 痺れて身動きの取れなかった新屋敷と、あの家族の父親は壁に打ち付けられた。
「あああああああああ――!!! ママあああああああああ!!!」
 妹と思わしい子の泣き声。胸が張り裂けそうだ。
 ――それを不快に思ったマエストーソ。
「これ以上泣くとよぉ」 彼女は、あの家族の兄だと思われる子供を持ち上げて。
「やめろ……! お前なんかにやられてたま――」
 未だに逆らう気力のあった芯の強い子供を窓の外へと投げ捨てて。
 電熱光線を一発食らわした。
 花火のように散っていく無垢な子供の死に際を見て、マエストーソは口元を僅かにつりあげただけだった。
「……!!」
 声に、言葉にならない怒り。
 ――痺れが切れきたが、あまりにも手遅れであった。
 だがこれ以上の殺戮を認める訳にはいかない。新屋敷は立ち上がる。

最終更新:2014年11月18日 23:26