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山田達は新屋敷と同じフロアに居合わせていた。
突如前方から放たれた謎のビームに三人は戸惑いつつも、山田の指示に従うことにした。
「平良と長曽我部、お前らは客を避難させろ! 西園寺は怪我人の治療を頼んだ」
「わかったよ山田さん!」
長曽我部は頷き、さ迷う子供らを導くことにする。
「井原殿、早くお逃げに……」
「いや、私も市民を避難させるのに手伝うよ」
「……感謝します」
平良は井原に軽く頭を下げた。
西園寺には《触き返す息(コンタクトキュアー)》という、怪我人に触れることによって身体を治癒する能力を持っている。――自らにかかる負担はあるものの、目の前で死にゆく人々を見殺しする訳にはいかない。
山田と西園寺は、電熱光線が発せられた方角へと走る。
騒ぎはショッピングモール全体に広がっていた。二宮は駆け足で事務室に辿り着いた。
乱暴にドアを開けた途端、オーナーの木津更が二宮の足に縋り付いた。
「す、すいませんでした……! まさかこうなるとは知らずにぃ……」
ガタガタと震わせながら二宮を見上げる。
二宮は木津更の胸倉を掴み、床に押し付けた。
「謝罪はいらん。今すぐアナウンスで避難経路を伝えろ、わかったな」
「ひいい……! わかりましたわかりました!!」
覚束ない足付きで壁にかかっている電話を取る。木津更は慌てた声で事務員に用件を伝えた。
「……よし。爆弾がいつ起爆するかわからん。お前も早く逃げるべきだ」
木津更にそれだけ言って、事務室をあとにしようとした。
その時だった。
「ヴ、ぇ?」
奇怪な声を上げて木津更は吹っ飛んだ。血飛沫で事務室を彩りながら、窓ガラスを盛大に割り、転落していく。
――隣には様子のおかしい苓北。
「――! ――!!」
ガムテープで口を抑えられていた。しかし近くには誰もおらず、奇妙なパントマイムをしているようだった。
「な……」
しかし苓北を拘束していた者の正体はすぐにわかった。
ただの景色だと思っていた場所から、男が現れる。
――Answerのひとり、コードネーム“トランクイッロ”の擬態能力だった。
苓北に近寄ろうとした二宮に銃を向ける。その銃口は、二宮から苓北へと向きを変えた。
「動くなよ……ヒヒ、お嬢さんの頭が吹き飛ぶぜ?」
苓北のこめかみにショットガンが突き付けられる。
「っ……」
二宮は指示通り、指先一つ動かさぬように気を配った。
「能力を使おうたって無駄だぜ? たった今“アビリティージャマー”を作動させた」
アビリティージャマー。
一定範囲内に存在する超能力者の能力を遮断する機械だ。裏社会ではかなり流通しており、これさえあれば能力を持たない人間でも超能力者と対等に渡り合える場合がある。――当然、一定範囲内外から超能力を使われてしまえば防ぎようがない。
しかし二宮には身動きがとれる訳がないのだ。
そんじょそこらの銀行強盗とは訳が違う。少しでも怪しい動きをすれば忽ち人質を殺害するだろう。
アビリティージャマーの支配下に置かれた二宮とトランクイッロ、そして苓北。
対等な状況にも思えるそれは、しかし、ショットガンを持ったトランクイッロが圧倒的に有利な状況である。
――参った。アビリティージャマーさえ無ければコイツの脳をパンクさせられるのだが。と二宮は心の中で唸った。
「苓北財閥の金が目当てってんなら、令嬢が死ぬ事も想定内に入ってるのか」
特に目的も無く質問する。
「さあ、どうだかぁねぇ?」
トランクイッロは薄ら笑いを浮かべ質問を濁した。
「そろそろパーティーはクライマックスに入るんだからよ、楽しみに待っとけばいいんだよ、ン?」
ショットガンをこめかみに押し込まれ、苓北は苦しそうな声を漏らした。
「ぐぬぅ……!」
スフォルツァンドは唸り声を漏らした。
彼は完全に神崎のペースに飲み込まれていた。彼女の猛攻は、最早対処のしようがなかった。
空間を切り取り神崎を別の場所へ誘おうとすれば軽々と間合いを取られ、空間を神崎ごと飲み込もうとすれば自身に働く重力を狂わされ感覚を失う。
「こうなれば……!」
スフォルツァンドは、切り取った空間からハサミでも虫取り網でもない、全く別の何かを取り出すことにした。
「あれは……!?」
今までとは比にならないほど大きく切り取った空間から、機首が現れる。
神崎は息を呑んだ。
現れたのはF‐35。最新鋭の戦闘機だった。
「な、なんだありゃあ! 屋上にも逃げ場はないのか……!」
神崎は一般人の声に気付き後ろを振り向いた。――あの戦闘機が一般人に牙を向ければ大惨事である。彼女は夢中になって一般人に走り寄った。
「背中を見せたなクソガキめぇ!!」
戦闘機は既に動いていたらしく、スフォルツァンドはすかさずコクピットへと空間移動をする。
そのまま神崎目掛けて機関銃から弾丸を吐き出した。
「っ!!」
ブラックホールの壁を創り、F‐35の弾幕を掻き消す。
「早く逃げて!」
「う、うわあああああああっ……!!」
一目散に逃げ出す一般人。――戦うことに神経を研ぎ澄ませすぎたせいなのか、周りに一般人が居たことをすっかり忘れていた。
地上からの悲鳴が屋上からも聞こえる。立体駐車場からはクラクションの嵐。
そのまま戦闘機は旋回をはじめ、超高速で神崎へと迫る。
暴れ狂う機関銃は自動車を次々と撃ち抜いていく。
爆発が連鎖するように起こっていき、そこに追い撃ちをかけてミサイルが発射される。
幸いなことにほとんどの一般人は屋上から逃げ出していた。戦闘機による犠牲者は出ていないだろう。
再び旋回を始める。
空中でミサイルが二発放たれた。それが描く軌道からして追尾弾であろう。
「……」
軽く息を吸う。
追尾弾であろうが何であろうが、所詮重力に捕われているものの一つにすぎない。
――ならば。
「……なんだと!?」
スフォルツァンドは驚愕した。
――そう。重力に捕われているのなら、その重力を掌握してしまえばいい。
「《重力操作》……追尾弾は私の周りに無重力状態で漂う」
ぷかぷかと浮かぶ追尾弾は、けれども戦闘機に狙いを定めているようだった。
「機関銃で撃ち落とせばいいだけの事っ!!」
だからどうした、とコクピットの中で叫ぶ。
追尾弾は無重力から解放され、神崎によって戦闘機めがけて撃ち込まれる。
「重力加速砲……!」
重力によって強力な加速を得た追尾弾は、こちらに向かってくる戦闘機の速さも相まってか瞬時に爆発した。
しかしそれは、撃ち落とされたからだった。
「はははは!! クソガキがなめたマネをするか……ら?」
機首が黒煙を掻き分け、コクピットに空が映った途端。人影も共に映り込んできた。
その正体は、風で長い黒髪を靡かせる神崎だった。
「覚悟しなさい……!」
「なにぃぃぃーーーーーーーっ!!!!」
神崎は薙刀でコクピットを破壊し、そのままスフォルツァンドの右肩を突いた。
「ぐあああっ……!」
バランスを失った戦闘機は、そのまま四階に突っ込んでいった。
轟音を立て、壁や窓ガラスを蹴散らしながら突入する。
「っ!? ……まさかスフォルツァンドの野郎、やられたってのか?」
――電撃を操る女は舌打ちをした。
幸運か不運か。
突っ込んだ場所にはマエストーソ、新屋敷、山田がいたのだ。
最終更新:2014年11月18日 23:26