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 あの兄妹の遺族は、最後まで泣き叫んでいた。
 残ったのは、妹と父のみ。
 二宮に、いっそのこと彼らの記憶を消してしまったほうが良いのではないかと。そう考えさせるほどの慟哭であった。
 ――しかし、あの家族の悲しみと思い出さえも奪ってしまうのはあまりに酷だ。
 おそらく、あの父はこれからマスコミの応対に身体を削られていくことだろう。
「……」
 二宮は黙り込む。
 ――またしても。罪無き人を死なせてしまった。
「俺の判断は、正しかったのか――?」
 そう呟いて、少し昔の出来事を振り返る。

「……オーナーの木更津も井原數鷹も口止めに殺害ぃ? 火消しの仕方がガキみたいだね。呆れた」 皐は、やれやれと肩を上げながら報告書を一瞥した。
 ショッピングモールでの一件は直ぐさま日本中を駆け巡り、太平洋を跨いでいった。
 マスコミが得意とする情報操作により、超能力者に関係するニュースは一切出されなかった。
 が、インターネットとなるとそうは問屋がおろさない。一連の不可解な現象に人々は食らい付いた。
 ――その火消し活動の一環に、木津更、井原の二人が犠牲となった。
「ふ、文句があるなら殺し返してくればいいじゃないか。君の趣味だろう? 法で裁けない人間を殺すのは。あと木更津じゃなくて木津更ね」
 ALEXの長官らしくないブラックジョークを披露する長官。皐は意外そうな顔をしながら、「ま、確かにね」とだけ言った。

「っ……」
 天井が眩しい。執行委員会本部の、病院じみた保健室だ。
「あ、起きた起きた」
 信条が眠たそうに林檎を向いている。
 坂口は辺りを今一度見渡す。
「あぁ……俺、死にそうになって」
「西園寺さんには感謝しなさいよ? あっちは覚えてなかったみたいだけど、彼女に命救われるのは二度目なんだから」
「え、お前に斬られた時にも……?」
「ええ。食事でも誘って奢ってやったらどうかしらね。私みたいな危なっかしい女よりも、西園寺さんのほうがよっぽど素敵だろうし、私達とちょうど同い年みたいだし」
「あの子も信条もどっちも可愛いと思うけどなぁ」
 林檎に爪楊枝を刺し、口に入れる。みずみずしい林檎の味が舌に染み渡る。
「はいはい、そりゃどーも。じゃ、私は塾があるから」
「そういや『今でしょ!』の先生が来るんだってな?」
「そうよ! こうしちゃいられないわ、じゃ!」
 小走りで保健室をあとにする。
 一人残された坂口は、皿にあるカットされた林檎を一個ずつ食べていった。

 坂口と信条。一見呑気に見える会話だが、双方、心には桎梏がかけられていた。――ただ、重い雰囲気を振り払いたかった。そのために明るく振る舞っていた。
 ――苓北恵美を救出するまでは、そうするしかなかったのだろう。

「……」
 重い身体をゆっくりと起こす。と同時に、彼女は安堵の表情を見せた。
 突然地面から手が現れ、自らを引きずり降ろしてきた悪夢。あれはただの悪夢だったのだ、と。
「目覚めましたか、お嬢様!」
 ――否、悪夢は終わらなかった。
「……!?」
 知らない部屋に、知らないベッド。知らない男が知らない声で喋りだした。
 苓北は、冷や汗が頬を伝っていくのを感じた。
「私の名前はアイザック・セフィウス。セフィウス財閥のトップであり、我が“Answer”のトップでもある男」
 世界三大財閥の一つであるセフィウス財閥。
 一体どういうことなのだろう、と苓北は一瞬困惑した。しかしすぐに答えを導き出す。
「……なるほど。どうりで私が狙われるはずですの。軍資金目当てならばセフィウス財閥を狙ったほうが良い。何しろ、財力ならばそちらのほうが上手。それなのに苓北財閥が狙われるという事は、セフィウス財閥はAnswerと結託していた……」
 そう言うと、笑顔を張り付けたような顔で「ご名答!」と手を叩いて褒めたたえた。
 そこに一体どのような感情が込められているのか。苓北は、見当もつかなかった。
「……あなた方の目的はなんですの」
 能面のような笑みを保ったまま、少し唸った。
「ま、簡単に言えば復讐なのですが……」
「復讐?」
 苓北は首を傾げた。
「ええ。……苓北財閥への復讐です」
「……え?」
 冷たい手で内臓を触られているような悪寒。――能面の張り付いた笑みが、一層不気味に感じられた。
「長ったらしい回想とか大嫌いですし、省かせて貰います。……簡単に言うと口論だったのでしょう。激昂した貴女のお父様は、私の父を殺害した」
「……!」
 苓北は目を見開いた。
 ――自分の父が、殺人を犯した……?
「そのあとどうしたと思います? 貴女のお母様は私の祖国、ドイツの警察を買収した。結果、父上は事故死扱いとなった」
「そんな……じゃあ私の父上が亡くなったのは、自殺で……?」
 ベッドから立ち上がって詰め寄る苓北。アイザックは口元を吊り上げながら、
「何言ってるんですか。私が殺したに決まってるでしょう」
と。静かに答えた。
「ついでに人類に革命でも起こすつもりでしてね! 私のような哀れな人間を生まない為にも、少し人類への“調整”が必要です!」
 調整という名の虐殺を語るアイザックの話は、彼女の耳に入っていなかった。
 ――私の父は、彼の父を殺し。私の父は彼に殺された。
 確かに私の父がやったことは許し難い。でも、それでもお父様はお父様だった。
「……」
 彼女の心には、そのジレンマがのしかかっていた。
「実は貴女のご家族も回収済みです! あとはホワイト学院の皆様がやって来たら、交渉を始めましょう。……なに、苓北財閥の金とあなた方の命を交換するだけですから」
 アイザックは微笑みながら部屋から立ち去ろうとした。途中で、思い出したかのように振り返った。
「ちなみにここはオホーツク海です。我々の海上の研究施設ですから逃げ出すのは無理かな、と思いますけど安心してください! ホワイト学院との連絡は取れるようにしておきますから」
 と付け加えて立ち去っていった。

最終更新:2014年11月18日 23:27