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「大佐っ……! 大佐!」
ドアを蹴飛ばすように、というかドアを蹴飛ばしてやってきたのは給仕係の女性兵士だった。
「……」
大佐――スピリグリー・スピニグトライヴ大佐はデスク上に足を乗っけて踏ん反り返っていた。
無造作に髭を生やし、適度に太っていながらも威厳を保った風格のスピリグリーは、舌打ちをしながら女性を睨みつけた。
「……超能力者がここを攻撃してきたのだろう。それについては既にこの男から聞いておる」
スピリグリーが顎を傾ける。
女性はデスクの前に立つ中肉中背の男性に目をやった。
「ブロックK、隊員番号TH72。ジャック・ウルフェンだ」
男は自己紹介をしたのち、敬礼をした。
「――私はブロックMの給仕係を勤める、隊員番号AZ91のメアリー・ラインベルトと申します」
女も同じく自己紹介と敬礼をした。
「いやしかし、まさか【アザーズ】を裏切る行為をするとはね。あの小娘――」
スピリグリーは椅子を回す。きぃ、という鋭い金属音が鳴った。
――この時、この二人は聞き慣れない単語を確かに耳にした。
「……アザーズ、と言いますと?」
メアリーが先に質問をした。
「ん。いいだろう。どの道我々は助からん。ついでに教えてやる」
スピリグリーは眉を上げながら立ち上がった。
水槽を泳ぐ熱帯魚を少し眺めてから、口を開く。
「――我々【アザーズ】は、今年2013年で創立300周年が経過する秘密結社だ。
アザーズは常に事柄の全てを“シナリオ通りに”行う、というスタンスを通し続けている。
目的は私のような下っ端には伝えられていない。――上層部の指示の通りに、機械的に役割を果たす駒に成り切る。その為に生まれ、その為に育てられたのだよ。8歳で大学までに習う知識を全てインプットし、10歳で5ヶ国語を全て覚え、18歳までには、あらゆる格闘戦術、暗殺術、学問、宗教、政治、近代兵器などの知識及び技能を叩き込まれる。
第二次世界大戦勃発も、国際連合の設立も全て彼らの“シナリオ”の一つに過ぎないのだ。
そして彼らは、邪魔になってしまった駒の数々を、大事件が起きた、という設定(シナリオ)の元に“処分”する――」
スピリグリーはため息をつきながら窓を眺めた。
「私達はこれからその犠牲になるのだよ。駒に指名されてしまった以上、その役割を全うするしかない――いや、全うすることしかできない」
「――その組織の裏切り者がここを破壊しようと?」
ジャックは静かに口を開いた。
「ああ、もとよりここは破壊される予定だった。しかし予定よりも明らかに早い段階で進んでいる……。アザーズも想定外のはず」
唸りながら顎に手をやると、ジャックを睨みつけた。
彼は首を傾げている。
「……何か?」
ジャックが訊いた途端、表情を崩しながら高らかに笑った。
「くっくっくっ……『何か?』じゃないだろう! ……君も“わかりきっている事を聞かされる”のは辛いだろう?」
「大佐、それはどういう――」
メアリーは聞こうとしたが、口を閉ざした。
――隣のジャックがくすくすと笑っている。
瞬間、メアリーは目を見張った。
彼は首元に手を突っ込むと――そのまま、皮を剥ぎ取った。
「……!」
皮、というのは正確な言葉ではない。マスクを剥ぎ取った、というほうが確実だろう。
「ホワイト学院の高倉戉(たかくら えつ)か……ガキどもの中にも内通者がいるなんて、な」
ふふん、と皮肉を交えてほくそ笑む。
――マスクを取ったジャック(高倉)の姿は一変、短く切られた緑色の髪を撫で付けていた。
「じき格納庫以外の全てのブロックは爆破され沈む! メアリーとやら、君は見逃してあげよう。ハワイまで頑張って泳ぐといい」
高倉は半笑いでそう言う。――要するに、溺れ死ねという訳だ。
しかしメアリーは同じく半笑いで言った。
「その必要は無いわ。――だって」
髪を纏めていたゴムを解く。頭を軽く左右させ、枝毛一つとない黒髪を揺らす。
「私は超能力者だもの」
神崎美穂は不敵に笑った。
◇
クラウディアは格納庫とブロックNを結ぶ橋に辿り着いた。
既に日は没しはじめていた。
海に食い込んでいく太陽が、返り血一滴とない真っ白なドレスを橙色に染め上げている。そして橋や格納庫も、その橙に同化するように色付けられていた。
その橋の上に一つ、異形が立ちはだかる。
「ン貴様が侵入者だなァァァァッ!!!」
大柄過ぎるその男は、耳を塞がざるをえないような剣幕で怒鳴り散らす。
クラウディアは、ブレのない視線で男を見据える。
「私の名はッ! レッドヴル・スクエアジャンクション中佐だァァァァッ!!!」
ハンドガンを懐から取り出し即座に発砲する。
クラウディアは、少しはがり首を傾ける。――首元を弾丸が通過した。
「ほう! 今の早打ちを見切ったか!! ならばッ!!!」
レッドヴルは懐から“本”を取り出す。
「“宣言”するッ! 『今から貴様に能力の解説をしよう』!!」
――そう。これがレッドヴルの能力。
面倒に感じたクラウディアは足を動かそうとしたが、動かなかった。眉を潜めて疑問に感じていると、レッドヴルは高らかに笑い声をあげた。
「私の能力、《この世を意のままに(メルキュール・ラズベリー)》は対象者に能力の説明をする事から始まるッ! この説明をしている間、対象者はいかなる能力を行使したとて、その場から動くことは叶わん!! 諦めて聴き入るがよいッッッ!!!」
クラウディアは拘束を解くことが出来ないとわかった途端、普段の表情に元通りになった。
「この能力は“世界のあらゆる物事”を自由に書き換えることができる絶対絶強不可避不可侵の能力! 例え相手が人外だろうと不死身だろうと私が“書き換え”てしまえば瞬殺中の瞬殺!! 貴様らの、その中学生が思いついたかのような在り来りのチンカススキルでは到底辿り着くことの出来ない境地に私は居る!!! 世界の真理は私の心理也……!」
その間クラウディアは、腕を広げ雄大に語るレッドヴル――の頭上を飛ぶカモメを見ていた。
ある程度説明が終盤に近づいたか、と判断すると。
クラウディアは能力の行使をはじめた。
「ぐゎぼっ――!?」
クラウディアが念じるようにスカラー電磁波を飛ばすと、レッドヴルの首が爆ぜた。
「……動けなくても、遠距離攻撃が使える」
あえて彼女は説明をした。――もはや動きはしないレッドヴルに。
能力を存分に発揮することなく、簡単すぎる落とし穴に気付かず一瞬で絶命した彼の印象は、クラウディアにとって正直強烈であった。
「たぶんお前は、馬鹿なんだと思う」
血を噴水めいた勢いで噴射するレッドヴルの遺体に、それだけ言うと格納庫へと進んでいった。
パスワードやら指紋認証やらを求められたが、クラウディアはスカラー電磁波を用いてセキュリティーを全て無効化していった。
最終更新:2014年11月18日 23:29