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 少年が自分の能力の存在にはじめて気付いたのは小学二年生の頃だった。
 それは、歩きたいから歩いたように。遊びたいから遊んだように。身体の一部であるかのように。特別な頭脳の行使を必要とせずに。自由自在に操れた。
 少年はこれも身体の成長の一環であり、絵本に有りがちな魔法使いのようなものになれたのだと歓喜した。
 少年はそれが異常であることを知らずに、能力を周囲に見せびらかした。
 ――結果、彼とその一家は周りから畏怖と軽蔑の視線を受けることとなる。
 あれは悪魔の子だ、近付いてはならない、話しかけられても無視をしろ。
 他の生徒達の親は、子供にそう言い聞かせた。
 彼の居場所は学校には無かった。
 かといって、我が家が唯一の心のよりどころ、というわけでもなかった。
 少年の父は、彼が能力の発現をする前から酒を飲んだくれ、虐待を繰り返していた。酒を買う金が無くなると、死んだ母の形見や仏壇を次々と売り飛ばしていく。
 そんな不安定な状況の中で、少年が能力を発現したばかりに近隣住民からの風当たりが厳しくなってしまったのだ。
 ――虐待はエスカレートした。更に父は虐待が学校にバレないよう服で見えないところを複数回殴りつけ、「もしも教師にバレたらお前の左目をえぐり出す」と息子に脅した。
 少年は父の異常さをしっかりとわかっていたから、その脅迫は本当に行うと信じ、恐れた。
 体操着に着替えるときは、痣が見えないようにトイレで着替えた。クラスメイトから、真冬の日にも個室トイレの上から水をかけられたりしたが、それでも身体の傷を見られないようにした。
 ――目をえぐられるよりかは幾分もマシだったから。
 地獄の日々ではあったが――超能力者の才能と言うべきなのか、かなり優秀な成績を残していた。
 父に褒められることなど有り得ないし、事実褒められたことはないのだが、自分を見下している連中よりも自分は優れているのだ、という安堵感と優越感が少年にはあった。その感情を持ち続けることで、彼は生きながらえようとした。

 小学六年生のある日、彼のもとに大きな知らせが舞い込んだ。
 ――父が飲酒運転で死亡したのだ。
 家族はこれで自分以外誰もいなくなった。
 ――いなくなったのに、父の死に顔を見ても、何の感慨も込み上げなかった。
 それどころか、何の感情も浮かばなかった。
 悲しみも憎しみも寂しさも怒りも虚無感も何もなかったのだ。
 ――この鬼畜は死ぬべくして死んだ。
 事故の程度が知れるグロテスクな傷も。火葬されたのち、骨を取っていく作業をしたときも。
 やはりそうなるべくしてそうなったのだな、という思いしかなかった。
 能力が発現してから間もない頃に出会った親切な神父に生活費を出してもらいながら、12歳にして一人暮らしを始めた。

 そして中学校。
 ――彼の人生は大きく変わることとなった。

 別の小学校の学区からやってきた、ある少女とクラスメイトになった。
 その少女は、少年と同じく、周りからいじめられていたのだ。
 少年と同じく周りよりも容姿に優れ。
 少年と同じく周りよりも勉学に優れていたから、嫉妬の標的になった。
 そして同じく。

 彼女は少年のように――。




「はぁっ……!!」
 飛び起きた。
 辺りは暗く、まだ夜明け前。
 冷や汗なのか――汗で寝間着がぐっしょりと湿っていた。
 荒い息を落ち着かせる。――しかし落ち着かない。
 時計の針の刻む音と、自らの呼吸だけが部屋を満たしている。
 0.25秒間隔でやって来る鼓動。
「ぜぇっ……ぜぇっ……はぁっ……ふっ」
 彼は不定期に訪れる悪夢に悩まされていた。
「もう……終わった……ことだろっ……!」
 掛け布団を強く握り締める。布団越しに爪が食い込んでいるのがわかる。
 一滴、二適と、点滴のように汗が顎から滴っていく。
 ――最早寝る気になれず、彼はベッドから立ち上がった。荒い息はいっこうにおさまらない。
 勉強に使う机の上に置かれた写真立てに目をやる。
 ――写真には幸せそうに笑う少年少女。少年が人の暖かさを感じるようになったきっかけ。
「……」
 声に出さずに彼女の名前を呟く。
「……ごめんよ……あともうちょっとしたら……」
 あともうちょっとしたら何だ。と自分に問い掛ける。
「……」
 続く言葉が浮かべられない。
 床に座り込み、天井を見上げ続けることしかできなかった。
「……似ているなぁ」
 ふと、そう思った。
「あいつと委員長は……そっくりだ」
 掠れた声で呟いた。

最終更新:2014年11月18日 23:30