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少年は朦朧とする意識の中でハッと思いついた。それは再生能力である。今まで半ば無我夢中だった為に失念していたのである。

少年は意識を集中させると体の傷が塞がり出血が止まった。力を振り絞り疲弊した体を起こす。

「あ、あの…助けていただいてありがとうございました!」

仮面の男に押し倒され、震えながら涙を流していた少女が身を起こしていた。

「ああ。あまり人気の少ない所を女が1人で出歩くんじゃないぞ。」

少年がその場を後にしようと足を再び街の方に向けた時、
「あの、名前を聞かせて下さい。」と少女が願う。

「名前…名前…」

名前を聞かれてハッとする。獣人や女騎士にも何者だと問われて答えていなかったのを思い出す。

「この世界では人名はカタカナなのか?」

「え?いえ、漢字も平仮名も使われていますが…」

質問に対して思わぬ質問で返されて少女は目を丸くしている。

「そうか。だが名前が無くてな。名乗る名前が無い。」

少年は思案したが良い名前が思い浮かばない。この世界に来てまだ1日も経っていなかったので名前などあるわけがない。

「ということは身分証は持っていないんですか?」

「この世界に来たばかりでな。持っているのはこの斬魄刀だけだ。」

腰に差している刀の柄を叩く。

「ざんぱくとう…。その刀のことですか。それより、この世界に来たばかりってどういうことですか?!それとお金も身分証も無いって…!」

「そういうことだ。おまけに追われる身だ。じきに此処にも騎士団の追っ手が来る。じゃあな。」

街を後にしようとする少年だが、疲労の為かその足取りは重い。

「待って下さい!お金も無いのに食べる物はどうする気なんですか?!」

「魚を捕まえたり木の実を探したりするしかない。お前もさっさと俺から離れることだ。騎士に見つかれば一味だと思われるぞ。」

「お話は後でゆっくり聞きます。助けていただいたのにお返しもせずに貴方を見捨てられる筈がありません。ついてきて下さい。」

少女が少年の腕を掴む。

「いや、この程度のことを恩に感じなくていい。」

「いいから早く来て下さい!放っておけません!」

少女は少年を引きずるように街の中心へと歩き出した。

最終更新:2016年10月12日 00:08