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「お前国の上層部と繋がりがあったのか。」

「はい。ぐり~ん2号様の御婦人・ぐり子2号様には幼少時に魔術の手ほどきを受けました。」

門を通った少年の前には緑色一色の壮大かつ異様な光景が広がっていた。

建造物が全て緑色なのである。

城も、住宅も、店も、騎士の甲冑も、何もかもが緑色である。

「夜になると王都の東の港では緑色のネオンライトが宵闇に照らされて絶景になるんですよ。この王都・グリーンバレーは全てが緑です。」

「ともかく此処なら鬱陶しい追っ手は来ない。まずは身分証を発行しなければな。」

「身分証の発行はグリーン役所で出来ます。案内しますので行きましょう。」

緑色一色の街並みに気を取られながらも、この世界で生きていく為に必要な肝心の身分証の発行という目的を思い出した。

「身分証発行の手続きですね。まずこの用紙に必要事項を記入して下さい。」

少女の案内で役所に到着した少年は役所の窓口で役人に促されて渡された用紙に目を向けた。

「そう言えば何も考えていなかった…。」

名前、年齢、住所、所属…そう、この少年には何も無いのである。

「そう言えば貴方、この世界に昨日突然来た正体不明の不審者でしたね。」

含み笑いしながら少女が皮肉を言う。

「その不審者の男を警戒もせずに同じ部屋で泊まって行動してきたお前もお前だがな。」

「助けていただいた恩は返さなければグリーン王国民の恥ですから。それに貴方は何となくそういうことはしないと信じられました。」

少女がクスッと笑う。

「今貴方の名前を思いつきました!今から貴方は不審者さんです!」

「冗談はさて置き、記入欄を埋めないと身分証は手に入らないわけだが。」

少女の冗談を無視しつつペンの尻で頭を叩いて考え込む。

「自分が好きな名前を付けてしまいましょうよ。住所や所属は何とかします!」

「お前に何か出来るのか?またぐり~ん2号夫人か?」

「はい。肩書きや住所ならそこから得られます。この役所に来る前にご夫人に通信でお願いしていたんです。あ、今お部屋が来ました。」

少女が耳元に小さな魔力力場を発生させて夫人と思われる女性と通信を始める。

「はい。はい。分かりました。ありがとうございます。ええ、それではまた。はい。失礼致します。」

通信が終わったようである。

「用紙、貸して下さい。」

少年から用紙を取り上げると、通信で指示された住所と所属を書いていく。

「これでよしっと。名前と年齢は私にはどうにも出来ませんが、後は自分で考えて下さい。」

用紙を少年に差し返す。

「いい名前が中々思いつかなかった。だから昔のコテハンを使うことにする。」

「コテハン?」

聞いたこともない単語に耳を傾げる。

「生前使ってた偽名のようなものだ。よし、これでいいだろう。」

でっち上げた名前、誕生日、年齢を書いて窓口に提出する。3分程待つと完成した身分証を役人に手渡された。

「これでこの世界で密入国者扱いされなくて済むな。何から何までお前のお陰だ。礼を言う。」


最終更新:2016年10月12日 00:15