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「もうお前に抗する力は無い。俺の勝ちだ。」

エイジスが静かに李信に言葉をかける。氷は李信の首や腕にまで及んでいた。

「馬鹿な!こんな筈があるか!こんな…筈が!この俺が貴様のような、女相手に臭い茶番を演じる軟弱な男などに!」

「お前には人との繋がりが無い。俺は帰りを待つ人の為に戦った。お前の独り善がりな戦いとは違う。それがお前の敗因だ。」

エイジスが最後と言わんばかりに李信に呟く。

「俺はこんなところで終わらんぞ!必ずここから這い出てお前の喉元に刃を突きつけに来る!それまで…」

言いかけたところで氷が顔を覆い、全身が氷漬けにされていた。

「絶対零度の氷だ。力を出し尽くして余力も無い。もう生きてはいないだろう。」

「やりましたよ…団長!」

氷漬けになって動かない李信に見せつけるように、エイジスは拳を握り締めて天に突き上げた。

小銭が張った固有結界が解除され、水素、他のグリーン軍達が元の世界に足を着ける。

「これは…フェンリル、お前がやったんだな。」

氷漬けにされた李信を見つけ、水素がエイジスに言うまでもないことを口にする。

「そうだ。絶対零度の氷だ。もうそいつは助からない。だが俺は力を使い果たした。お前にすぐに発見されることは分かっていた筈なのにな。」

エイジスはそう答えると天を仰ぎ見て呟く。

「すいません、やっぱ俺約束果たせそうにありません。」

諦めの顔だった。全てを出し尽くして宿敵を倒した達成感と、生きて帰るという約束を果たせない悔しさで複雑な気分で胸が溢れる。

「行けよ。」

殺されると覚悟していたエイジスに、思いがけない言葉を耳が捉える。

「お前、今なんて…」

「行けよって言ったんだ。待ってる人が居るんだろ?」

耳を疑い確かめるエイジスに水素が押すように答える。

「俺を見逃すってのか?」

「これはお前とこいつの男同士の真剣勝負だ。俺も、そして他の誰にも水を差す権利はねえ。俺は自分のヒーローとしての誇りを貫く。だからお前も約束を守って騎士としての誇りを貫け。」

水素がいつになく真剣な眼差しで語る。

「すまん、恩に着るぜ。だがそれはそれだ。次会ったらその時は敵としてお前を全力で叩き潰す。」

エイジスはそう言うと背を向けて歩き出した。

「俺も次会ったら容赦はしない。無敵の俺にはお前でも勝てないさ。その時まで人生をせいぜい楽しむんだな。」

水素はエイジスの背にそう声をかけると氷漬けになった李信を持ち上げて右肩に担いで王都の方へ足を踏み出した。

「直江の奴、負けやがったのかだっせえなあ。」

固有結界から出てきた小銭が、氷漬けになった李信を担いでくる水素に合流した。グリーン軍の全軍が国門に戻り集結していた。

「こいつはあの漫画の能力や技を全て手に入れて強くなってたと思ったが上には上がいるもんだな。俺は最強無敵だけど。」

「へえ、つかこいつ死んじゃったの?」

「さあな。2人の勝負だし、合戦は終わってたから今回は敢えて手を出さなかったけどこれは生きてるか分かんねえ。」

変わり果てた李信の姿を見たグリーン軍の中にはは戦に勝ったにも関わらず複雑な顔を浮かべる者も居た。

「とにかくこの氷は取り除かないとな。よいしょっと。」

水素が担いでいた氷漬けの李信を地面に置くと右の拳を叩きつけて氷を破壊する。

「奇跡だ。息はしてるぞ!脈もまだある!まだ助かる!」

水素が李信の状態を確かめる。意識は無い。だが、かなり弱まっているものの脈もあり、息もあった。

「マジかよ!?早く病院へ!」

「言われなくてもそのつもりだ!」

一部を除いて湧き上がるグリーン軍を尻目に、水素と小銭は急いでその場を去っていった。

最終更新:2022年09月04日 16:11