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数秒ほど経った後、だだだの目の前に空間が広がり始めていた。その形は教室であったが、彼らが先ほどまでいた場所とは違い、昔のように教室に机が整列し、黒板がある光景だ。そこが、彼らが授業を受ける仮想空間であった。
また、彼らの姿も変わり、私服ではなく制服を身にまとっている。あくまで仮想内でのものだが、その堅苦しさは現実のそれとなんら変わりはないように見える。
現実となんら見分けの付かないよう作られた空間。しかし、黒板はシミ一つない綺麗なものであったし、教室には汚れもなく、掃除箱の姿はなかった。汚れることはないのだがあたり前ではあるが、よくよく見れば、違和感は至る所に見受けられる。

目の前が完全に開けると、だだだは椅子から立ち上がった。実際、現実では、未だに彼は椅子に座り、ヘルメットを被って両手をマウスの上に置いているだろう。だが、意識はすべて仮想空間にあり、彼の身体は今、この空間内にある『それ』になっている。

「お、おはよう、だだだ……」

低い声にだだだは振り返ると、安藤が引きつった笑いを浮かべて立っていた。わざと引きつらせているわけではなく、彼はこういった笑いしか出来ないらしい。人と話すということに、慣れていないのだろう。
普段はアニメの絵がプリントされたシャツを着たり、フィギュアを集めたりするという、典型的なヲタクであり、たまに仮想空間内にもフィギュアを取り込んでいたりする。どうやっているのかは定かではないが、仮想空間の構造には非常に詳しい。
ちなみに安藤は、授業を行うこの空間には、自宅から特別に繋いでいる。不登校や特別な事情がある生徒には、学校まで来ることをせずに、自宅から授業を受けることが出来、この方法が認められている。

「おはよう。で、準備は出来た?」
「ばっちり……。今から仕掛ける」

そういうと、安藤は手をかざした。するとそこに、半透明なノートPCが浮かび上がる。現実ならば目を見張るような光景だったが、仮想空間では誰でもできる普通のことだ。

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最終更新:2014年01月25日 21:07