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  • 1日目  午後6時00分
波風(波風華月)は目を覚ました。感覚的には、眠たかった授業がやっと終わり、慣れ親しんだ教室にいるという錯覚だった。
目を開くと、異常に暗い空間が広がっていた。目を凝らしてあたりを見回すと、わずかな明かりが窓から入り込んでいて、それがうっすらと場を浮かび上げていた。

そこは教室の中であることは間違いなかった。それも、仮想空間内の教室であり、いつも通り机が並び、生徒はそれぞれ自分の席に着席していた。ただ……自分以外の生徒はすべて机に突っ伏し、教室は今まで見たことがないほどに暗いところは、初めて目の当たりにする光景だった。

しばらく様子を見ていると、波風以外にもちらほらと意識を取り戻したのか、頭を上げる生徒がいた。彼と同じように、周りを見渡しては動揺の声を上げる。
波風が目を配らせていると、ひとり、驚く人物がそこにはいた。

「『るく』……いつの間に……」

るくという男子は、数ヶ月前から行方不明になっており、授業にも姿を現してはいなかった。それが、いつの間にか彼の机に座っていたのである。噂では家庭問題のせいで学校には通えなくなり、家にすら居られなくなったと聞いていた。
特別親しかったわけではないが、それなりに会話を交わす相手ではあった。それが突然いなくなるのだから、波風も非常に心配していたのだ。

「おい、外を見ろ!」

誰かが上げた声で、一斉に皆は窓の外をみた。そこには、いつもの癒しの空間ではなく、どこかの島の中なのか、森と海が映し出されていた。

「唯ちゃん、俺どうしよ……」

嫌でも感じる危機的な状況に、波風は無意識にアニメのキャラの名前を口にしていた。もっぱら、三次元などに興味のない彼は大のアニメ好きで、特に、とあるアニメに出てくるキャラを溺愛していた。
立ち上がろうと腰を上げると同時、波風は思い切り、机に脚をぶつけた。

「痛ってぇ……あれ? え……? 痛い?」

脚の痛みよりも、痛みを感じることに意識が向いた。仮想空間内では、痛みは確かに再現される。しかし、その痛みは非常に微々たるものになり、そこまで激しく感じることはないはずだった。
だが今の痛みは明らかに、現実でそれを行った場合のものと変わらない痛さだった。そして、肌触りや意識的な感覚も、現実のそれと同じものだという気はした。
だとしたら、ここは現実なのかとも波風は思った。しかし、自分の姿を見てそれは無いと判断する。――まだ彼らは、制服を身につけていたからだ。
痛みに身を悶えさせながら、波風は試しに、窓に手を掛けてみた。しかし、窓は鍵のようなものすら見当たらず、はめ込みのようにがっちりと動く気配すらなかった。

そのとき、一斉に教室に明かりが灯り、同時にドアが音を立てて開かれた。そこから入ってきたのは、数学教師の三嶋だった。さらに続いて、軍服、スーツをそれぞれ着こんだ大人が数人、続いて教室へと入ってくる。

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最終更新:2014年01月26日 13:36