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この国会内容を、彼らのクラスでもリアルタイムで見たり、事前に別の情報網から知っていた生徒が何人かいた。当然ながらこの法案が可決されたことを知ると、他人事だった出来事がいよいよ自分たちのこととなり、危機感を覚えた。
しかし、毎年、たったの5クラスだけが選出され、中学3年である帰還はたった1年であるから、よもや数百分の1の確率で当たるわけもない。交通事故、宝くじが当たる確率と同じ程度。これを知った誰もが、自分は関係ないだろう、当たることはないだろうと開き直り、楽観視していた。
安藤もこのプログラムを事前に知ったひとりだった。だがもはや、この国でそんなことを知ったからと言って何が出来るわけでもない。たかが中学生が対抗する手段など持ち合わせているわけもなかった。言論の自由など存在せず、情報はすぐに偽造される。安藤も、心のどこかでこの情報が偽造の物であるのではないかという期待を持っていたことは間違いない。
安藤にとって何よりもこの情報に確信を持つようになったのが、従姉妹の突然の死だった。ふたつ上の従姉妹は、BROP仮想空間内でのトラブルにより脳死状態となったということを知った。情報流出の時期と、従姉妹の不自然な死は、否応でもふたつを結びつける結果となる。
ちなみに母親にこのことを聞いた安藤だが、母親は何も答えずに「きっとあなたは大丈夫」と何度もぼやくばかりで、何か口止めすらされているような感じであった。
一時は煙が立つ程度にオペレーションの噂は広がったが、それもすぐに消えさっていった。今の国に対する、言葉にしがたい不信感と焦燥感、そして無力感を残し……。
結局、そんなものだ。
ひとりひとりの、個々の思いだけでは、何かが変わるようなことはありえなかった。
そして今年。いよいよ中学3年になった安藤、他にオペレーションを知る生徒は、自分たちだけは大丈夫だろうと、高校受験という不安の片隅にそれを押しやった。考えたくもなかった。
そう。今の今まで。
最終更新:2014年01月25日 21:35