12ページ目
むったはしばらく顔を押さえていたが、さっと頭を上げると、勢いよく立ち上がって、再び三嶋に駆け出そうとした。しかし、彼の腕を福永は捕まえた。
「おいユウジ、離せよ!」
「そーんな急がんでも、あいつをぶん殴ることなんかいつでも出来る。なんなら、後で俺が『デスブレイク』をあいつにかましてやるから、今は我慢せえや」
シュッシュッと、チョップを空中で2回振りかざす仕草を、福永は恥ずかしげもなくやった。しばらく、むったと福永は目を合わせていた。
先に目をそらしたのはむっただった。鼻を鳴らすと、その場に重たげに座り込む。鋭い目は三嶋に向けられていた。
「さて、少し中断されましたが、続きを話しましょう」
無表情に戻った三嶋は、前に戻って教卓を2回、手で叩いた。すると、モニターが教室の天井から現れ、そこにいくつかの映像が映し出される。国会の映像、何かの文書らしき内容、そして、彼らが現実の教室で、椅子に静かに身体を預けているそれぞれの生徒の映像が、一定時間事で切り替わっていた。
「今まで行われてきたオペレーションは、あくまで実験的なものでした。しかし……ついに、オペレーションは意味のある物へとなりました。終了後には、ニュースで世間に大きく報道され、実質的に君たちは、最初の記念すべき選手となるでしょう。
ああ、両親の方には連絡しておきましたので、心配せずにゲームに参加してください。
それと、もう一度言っておきます。君たちがこれから行うのは、生き残りを賭けた殺し合いです」
三嶋が机をもう一度叩くと、映像が切り替わった。それは、おそらく過去に行われたオペレーションの映像だ。彼らと同じような制服をきた生徒が、銃や
その他の武器を持って、戦っていた。顔は誰も彼もが必死で、恐怖に歪み、中には笑っているものさえいた。
「皆さんも分かっているとおり、ここはBROPの仮想空間です。今までは現実の方でも何度かやったのですが、あいにく、君たちに提供するような土地は、そこまで現実にありません。
というわけで、このBROPでの戦闘がメインとなりました。……が、この仮想空間は、極限まで現実を再現したものです。
血こそ出ませんが、感じた痛みは、君たちの意識に、そのままフィードバックされます」
映像が切り替わったとき、クラスメイトの何人かが、「ひっ」と小さく悲鳴を上げた。
確かに、血が出ている様子はなかったが、頭に銃痕のような穴を開け、白目をむいて倒れている生徒や、斧のようなものが頭に刺さっている生徒が映し出されていた。
「人間というのは、死ぬのにそれぞれ個人差がありますので、この仮想空間でのオペレーションでは、それぞれにライフ、スタミナゲージというものが設定されます。
出血多量などで死ぬことが無い分、このライフゲージが無くなると、君たちは例外なくゲームオーバーです。
スタミナゲージは、いわゆる体力というものです。仮想空間では、実際の肉体を動かすわけではありませんから疲れが溜まることはほとんどありません。
そこで、君たちが現実で受けてきた体育などの授業からそれぞれのアビリティを割り出し、この仮想空間にフィードバックしています。
スタミナが無くなると、身体が異常に重く感じたり、走れなくなったりするので注意してください。君たち、ゲーム好きでしょ? そういうのにあるようなスタミナと同じものだと思ってくれたら結構。
例外として、頭に銃などの強烈な衝撃が加わった場合は、現実と同じで即死します。あ、ここまで質問ありますか?」
しばらく誰も反応を見せなかったが、すっと手を上げた生徒がいた。
「ああ黒影か。なんだ?」
顔に大きな傷のある生徒……黒影は、手を上げたまま、そっけなく言葉を口にした。
「ゲームオーバーになったら、どうなる?」
それは生徒の誰もが気にしていたことで、一斉に黒影に視線が集まった。黒影は気にすることなく、手を下げて、三嶋の言葉を待つ。
「この先に言おうと思っていたが、まあ良い質問だ。先生、きちんと話を聞いてくれて嬉しいぞ」
最終更新:2014年01月25日 21:46