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それは、教室の後ろの方で身体を横に向け、裕太と小声で話をしていた太鼓侍だった。裕太の方はすぐに視線に気づいて口を紡いだが、何かを熱心に話しているのか、太鼓侍は三嶋の視線には気づかなかった。
静かに、音もなく三嶋は教卓から降り、教室の真ん中を早足で歩いた。生徒が慌てて避ける中をずんずんと進み、一瞬で太鼓侍の後ろに立った。
ようやく異常に気づいた彼は、ふと頭を後ろに向けた。

「なに私語してんだ? 授業中に私語をしたらいけないだろ」
「いや、だけど――」
「言い訳するんじゃねえ!」

三嶋は恐ろしい形相をして、太鼓侍の髪の毛と頭を掴むと、思いきり、椅子ごと後ろへ勢いよく引き倒した。太鼓侍は身体のバランスを取る暇もなく、後ろへと引き倒され、頭から地面にぶつかった。
聞いたことの無いような鈍く大きな音と共に、太鼓侍は動かなくなった。目を見開いているが、ピクリともしない。

「あーあ、すみませんね。私が殺したらルール違反ですかね?」

頭を掻きながら、三嶋は軍服の大人に目を向ける。“軍服”のひとりは、軽く肩をすくめるだけだった。

「やりやがったなあ、三嶋あああぁぁぁ!」

そのとき、福永に腕を捕まれていたむったが、ついにその手を振り払って三嶋へと飛びかかった。身体ごと三嶋を引き倒すと、顔めがけて拳を振り下ろした。しかし三嶋の方が反応は早く、いとも簡単にその拳を手で受けて止めていた。

「ほんとに仕方ないなあ、君は。これ以上、先生にルールを破らせないでほしいんだが……」
「黙れ黙れ黙れ黙れ!」
「おいむった、やめろ!」

福永の呼びかけにすら答えず、むったは三嶋に馬乗りになったまま、どうにか捕まれた拳を引きはがそうと躍起になっていた。
三嶋は面倒くさそうにむったを一瞥した後、どこに持っていたのか、いきなり腰から黒光りする何かを、もう片方の手で取り出すと、むったのふとももに当てた。次の瞬間『ズドンッ』という音と共に、むったは悲鳴にも似た声を上げたのだった。
馬乗りになっていたむったは落ちて、床の上を声を上げながら転げ回った。三嶋の手には、禍々しく光を反射する拳銃が握られている。

「残念だなあ、むった。たぶん今ので、君のライフゲージは半分ぐらい減ったんじゃないかなあ? ほんとは先生、こんなことするのはルールに反するんだけど、仕方ないよね。自業自得、自己責任ってやつ?」

涙を浮かべ、ふとももの激痛に耐えながらも、むったはまだ怒りの表情を三嶋に向けていた。今にも再び飛びかかりそうな彼を、しっかりと、その周りにいた凜や星屑、福永が無意識のうちに押さえていた。
金星がどうにか事態をまとめようとしたのか、こんなことを三嶋に投げかけた。

「先生、ルール違反なら、せめてむったの痛みを和らげるのと、そのライフゲージを元に戻してやるってのは?」

しかし、そう言ってから、金星は自分が何を言っているのかに気づく。ライフゲージや痛みが元に戻れば、むったは自分の命を脅かすかもしれない存在のひとりになる可能性がある。それは自分で自分の死を早めているのと同じだった。
奇妙なことを言うもんだという表情を、一瞬だけ金星に向けた三嶋は、結局何も答えずに前へと戻っていった。



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最終更新:2014年01月25日 21:49