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  • 1日目  午後7時04分
教室のあった建物を出た『一徹』は、夜の島に目を凝らした。月が出ているおかげでそこまで暗いということはなかったが、誰かが潜んでいたとしても分からないぐらい、あたりは木や草が茂っている。
彼の後ろから、ペアとなった『片桐誠』が横に並んだ。

「何かいるのか?」
「そういうわけじゃないんだけど……。ほんとに、これから僕たちって――」
「言うな。今更、言わなくてもいいだろう。覚悟を決めるしかないんだ」

一徹は小さく頷くことしか出来なかった。これから自分たちが行うことへの恐れや、非現実的ともいえる状況に、思考はすでに麻痺しかかっている。それでも足が勝手に前に向かおうとするのは、それよりも死に対する“逃走心”のようなものが働いているからだろう。

誠に促され、一徹は足を進めた。少し斜面になった森の中を、とにかく前へ向かって進む。ここでふと一徹が気がついたのは、森の中だというのに、虫の声ひとつしないことだった。風が吹いて、さわさわと木の葉がこすれ合うような音はするのだが、他に生き物の気配が全くない。フクロウ一匹、さえずることもない。
間違いなく、ここが仮想空間であることを示すような、そんな発見だった。

「俺たちは、U-14から南西に向かって歩いているようだ。地図の上じゃ何も確認できないが、地形的には南と西にある半島が、何かしらありそうだな」

いつの間にかPDAを取り出した誠は、器用にそれを操作していた。

「冷静だね……」
「冷静? いや、これまで人生にないほど緊張してるよ。全国大会の決勝戦直前の緊張感なんて、比にならないほどね」

それでも、静かな口調で誠は答えていた。実際、確かに誠は緊張していた。これから自分が行うであろう行為を、頭の中で考えられずにはいられない。だからこそ、何か言葉を口にして冷静さを保とうとしている。
それが同時に、一徹の心をも少し和らげるのだった。

「誠は、剣道とか柔道とか、いろんな大会に出てたんだよね?」
「ああ、そうだが」
「それって、こういうときに役立つの?」

一徹の質問に、誠は少しきょとんとした表情になる。そして苦笑いをした。

「武芸はあくまで、対等な立場で意味を成す物だよ。そりゃ、その練習でつけた体力とか反射神経とかは役に立つかもしれないけど、飛び道具とか使われたらどうしようもないしな」
「それでも、なんか頼りになる気がするよ」
「そうか?」

誠は肩をすくめる。実際、こんな状況で、自分がやってきたことが何かの役に立つのかどうかなど、予想すら出来なかった。
一徹もPDAを取り出して、他にどんな情報があるのかを確かめた。地図情報の他に、バッテリー駆動時間、自分の体力、スタミナ情報と思われるふたつのゲージ。
そして――

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最終更新:2014年01月26日 11:59