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誠は、海が転げ落ちていく際に落としたナイフを拾ってからあたりを見回した。一徹の姿はどこにも見当たらない。少し斜面を転がり落ちたらしいが、登れない角度ではなかった。
声を上げようとするも、思いとどまる。海がいたということは、そのパートナーもこの近くにいるということでもある。そのもうひとりに襲われる可能性は充分に考えられた。
ふと、自分がナイフで刺されたことを思い出して、慌てて背中に手を伸ばした。傷や出血は感じられなかった。先ほど感じた痛みも、すでにどこにもなかった。

「これが仮想空間の特色というわけか……。まるでゲームのキャラクターだな」

試しにPDAでライフゲージを確認してみると、ゲージは3分の2ほどに減少していた。スタミナの方は、ライフゲージほどの減りは認められなかったが、ほんの少しだけ減少しているようだ。
他に、PDAには何の反応も無いということは、少なくとも、半径50メートル以内に一徹はいるということでもあり、まだ彼が死んでいないということにもなる。いずれにせよ、彼が死んでいないのと、自分がまだ生きていることに、誠は少し胸をなで下ろすのだった。

一徹が縛られてから少しの間、誠と海の声が彼の耳に聞こえていたが、どちらかの叫び声以降、何も音が聞こえなくなったことに、一徹は焦りを感じていた。誠がやられたのか、それとも襲撃してきた海がやられたのか――。
何より、自分を縛っているカマンベールが何をしたいのか、一徹にはわからなかった。彼を縛って以降、カマンベールは何かそわそわしながらあたりを見回し、例えば一徹を殺したりする気配すら見せなかった。

そのとき、規則的な電子音がどこからか響きだした。警告音を連想させる音に、ふたりはビクリと身体を強ばらせる。音の発信源は、カマンベールの制服のポケットからだと、いち早く一徹は気づいた。

「な、なあ、お前のポケットから響いてると思うんだけど……」
「え?」

ポケットにさっと手を入れて、カマンベールはそこからPDAを取り出した。けたたましい音は、そのPDAから発せられているらしい。一徹からは、画面に何が出ているのかは読み取れなかったが、何かの警告が出ているようではあった。

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最終更新:2014年01月26日 12:04