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  • 1日目 午後7時46分
森の方で飛び立つ鳥の羽ばたきに、はっと顔を上げた【さまらら】は、自らの武器である日本刀をしっかりと握りしめた。同時に、足を滑らせないようにしっかりと地面を見つめ直して、滑りそうな岩場をゆっくりと進んでいく。目の前には、パートナーである【悠太】が先を歩いている。
彼らは丁度、『W-12』にあたる沿岸沿いの岩場を歩いていた。

「まだ大丈夫かい、【さまらら】?」
「あ、うん、大丈夫だから」

このやりとりが先ほどから何度続いただろう。【悠太】が【さまらら】に見せる、奇妙なまでの気配りは非常に不思議なものだった。特に関わりもない……いや【さまらら】がそもそも避けていたために、これまではふたりに関わりは生まれなかった。それもこれも、【悠太】がゲイであるという噂があったためだ。一方的な偏見だったが、【さまらら】はこれまで、【悠太】に良い印象を抱いてはいなかった。
それも間違いだったのかと、この数十分で微かには思い始めていたが、何か奇妙なその違和感は拭い切れていない。

前を歩いている【悠太】は、その肩に彼の武器である『ロープ』とバッグを背負っていた。誰がどう見ても太っているその身体に反して、PDAで地図を確認しながら、器用に岩場を歩いて行くその姿は、少しだけ滑稽にも見える。しかし、【悠太】自身はいたって真面目であった。
その【悠太】が、突如身をかがめたのを見て、【さまらら】も慌てて身を隠す。

「人影が見えるみたいだ。気をつけないと」
「誰……?」

【さまらら】はそっと首を突き出し、せり立った岩陰から先の様子を見た。確かに、ふたつの人影が砂場と森の丁度間を、早歩きで移動していた。

「ど、どうする、【悠太】?」
「ちょっと距離があるねぇ……。どうしようか?」

にこりとした【悠太】の笑顔が顔の近くに寄せられて、【さまらら】はぶるっと身体を震わせた。単純に言わせれば『気持ち悪い』のだった。【悠太】がどんな気持ちであろうとも、【さまらら】にはその優しさは、何かしらの危険信号ではないかと思わせた。
後ずさりすると共に、後ろを見ずに下がった【さまらら】は足を滑らせ、バランスを崩した。

「痛っ! うわあっ……!」

大きな声と共に、ひとつ下の岩場に落ちた【さまらら】だったが、自分の大きな声に気づいて口をつぐんだ。【悠太】が完全に身を隠す前に、先を歩いていた影は声に気づいて、ゆっくりとふたりの元に近づいていた。

「うわっ、どうしよう……」
「とりあえず隠れよう!」

【さまらら】は【悠太】に手を借りて身を起こし、慌てて身を隠した。【さまらら】と【悠太】は身体をくっつけるような状態で岩陰に身を潜める。こうなっては、気持ち悪いだのとは言っている場合ではなかった。
だんだんと、砂を踏みしめるふたつの足音が近づいてくる。息を潜めるふたりだったが、そこで【さまらら】は、自分が手に持っていた日本刀がいつの間にか消えていることに気づいた。そして、それはふたりが覗き見をしていた岩場にあることに気づく。そこは、近づいてくる人影からはよく見える場所だった。

「誰か、いるの? ……ねえ【聖蓮】、何か落ちてる!」
「ホントだ……刀! どうしよ、誰かいるんだ!」

聞こえた声は、どちらも女の子のものだった。すぐに【さまらら】は、片方が【聖蓮】で、そしてもうひとりは【新庄直子】だと言うことに気づく。

少し胸をなで下ろし、姿を見せようとした【さまらら】の肩を、【悠太】はグッと引き戻した。
「何を考えているんだい? 敵じゃないとは限らないじゃないか」
「二人なら大丈夫だと思うよ。悪い子じゃないし」
「どうだか」

どうにも、【悠太】はふたりに対して良い印象を持っていないようだった。それか、単純にこの状況だから疑っているのか。どちらか定かではないが、いずれにせよ【さまらら】は、【悠太】の思いに関係なく、二人に姿を見せても大丈夫だろうと確信を持っていた。そもそも、敵だと思うなら声など掛けてこないだろう。それが根拠のひとつだ。
そして、いよいよ肩に手を回されている感覚に嫌気が差した【さまらら】は、【悠太】の手を振り切って姿を現した。

「きゃっ!」
「ま、待って! 僕だよ、【さまらら】だよ。何もするつもりはないから!」
「さ、【さまらら】君?」
「そうだよ新庄さん! 聖蓮さんも!」

【さまらら】は大きく手を広げて、自分に敵意が無いことを示した。すると【直子】と【聖蓮】も警戒心を解いて、ほっと胸をなで下ろした。

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最終更新:2014年01月26日 13:40