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【悠太】も、仕方なく手を上げながら姿を見せることにした。【さまらら】と【悠太】はゆっくりとふたりに近づき、また【直子】と【聖蓮】も、少し安心したように小走りでふたりに近寄っていった。

その瞬間、【さまらら】が落とした日本刀に目を光らせていた【悠太】は、その身体に似合わない素早い動きでそれに飛びつくと、勢いそのままに【直子】達に襲いかかった。
【直子】は甲高い悲鳴を上げ、後ろ腰に手を伸ばそうとしたが、【悠太】が抜刀する方が遥かに素早かった。銀色に光る刃が、勢いよく振り下ろされる。

「きゃああああぁぁぁぁ――!」
「【直子】!」
「させるものか!!」

【直子】に一太刀を放った【悠太】は、間髪入れずに【聖蓮】に刀を突き出した。刃は彼女の心臓下を抵抗もほとんどなく貫通した。一瞬で【聖蓮】の体力ゲージは底を突き、永遠に彼女の意識は失われた。
【さまらら】は、一瞬のことに呆然としていたが、切り捨てられた【直子】に慌てて駆け寄ろうとした

「ゆ、【悠太】! やめろ、やめろ!」
「駄目だ、危ないっ!」

さまららが駆け寄る前に、【悠太】は再び直子に刃を向けていた。地面に転び、痛みに耐えながら腕を上げた【直子】の手には拳銃が握られ、その銃先が裕太に向けられようとしていた。
【悠太】は躊躇うこともなく、【直子】の胸にトドメを放つ。
さまららは、目の前で力なく崩れる【直子】の姿を見て、腰を崩した。

「ど、どうしてだよ……。意味わからないよ! どうして、どうして!」
「僕は君を守ったんだよ、さまらら」

そう言いながら【悠太】は、【直子】の手に握られた拳銃を、それが証拠とでも言うように拾い上げた。

「彼女、【新庄】は銃を持っていた。当然、銃を使ったことのない彼女は、機転を効かせ、出来るだけ近くに寄ってからそれを使用しようと考えた。そうすれば確実に相手を倒せるからだろう。わずかに手が腰のあたりを気にしていたのを見抜いた僕は、とっさに判断したんだ」
「それは……考えすぎだよ!」
「そう思う? じゃあ【聖蓮】が手に小斧を持っていたのはどう見る? 僕らは手を上げて武器がないことを示していたのに、彼女たちは同じような行動を取ろうともしなかったよね。これはどうだろう」

「そうかもしれないけど……うっかりしてただけかもしれない」
「あるいは、【さまらら】が落とした刀を狙っていたのかも。データを見る限り、一撃の攻撃力はとても高くしているから、例え女の子が振ったとしても致命傷を負わせるぐらいはできるだろうね。それに――」
「もう止めてよ! もう、いいよ……」
「……」

声を張り上げた【さまらら】を、ただ【悠太】は安らかな笑みを浮かべて見守っていた。普段から他人に恨みを抱いたことのない【さまらら】だったが、このときばかりは憎しみにも近い感情を【悠太】に向けざるをえなかった。

「……どうしてこんなことに……」
「大丈夫。【さまらら】は何も心配しないでいいよ。全部、僕が守るから」

出来ることならひとりで逃げ出してしまいたいと【さまらら】は感じた。【悠太】が本気でそう思っているにしろ、考えがあまりにも合わなさすぎる。ふたりが本当に敵対心を持っていたかは彼には判断できなかったが、とにかく、何か間違ってしまった気がしてならない。

だからと言って、【悠太】と離れることは出来ない。また、【さまらら】ひとりでどこかへ行ったところで、生き残れるとも思えなかった。それが現実だった。
フラフラと立ち上がった【さまらら】は、動かなくなったふたりの身体を見下ろした。刀で切られたというのに、生きているかのように綺麗なものだった。これがこの世界ならではの、傷は残らない死に方なんだと、死とは非常にほど遠い感覚を抱く。

「さあ急ごう。まだ本部に近いから、人がくるかもしれない」
「……うん」

今は、指示をくれる【悠太】に従う以外、彼に方法はなかった。
先に歩き始める【さまらら】の後ろ姿を、【悠太】は安らかな顔をして確認しながら刀を収めた。
さらに、地面に転がった【直子】の姿を一瞥すると、まるで汚いものでも見るかのように眉間に皺を寄せ、次に『にやり』とした表情をしてから、彼女の顔を、足で一蹴りしたのだった。




【残り29名】

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最終更新:2014年01月26日 13:39