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【岩村ちとせ】は優秀だった。このバトルロワイアルが避けられないと知ったと同時、数人の女子生徒に声をかけたのだった。基本的にリーダー質が高かった【ちとせ】の言葉に、数人の女子が彼女の指示の元、集まることを約束した。まだ地図さえ目にしていなかった段階でも、彼女は的確に、分かりやすい指示を出していた。
唯一の誤算と言えば、彼女のパートナーが【たんたん】であったことだろうか。何か助言を仰いでも、【たんたん】は曖昧な答え、もしくは言葉を濁らせることしかせず、むしろ彼女に手間を取らせる。普段は寛大な彼女も、このときばかりは苛立ちを隠せなかった。気の弱い男は、根本的に彼女に釣り合わないのだろう。
本部を出発したふたりは、まずまっすぐ南へと向かった。険しい山道をも、【ちとせ】は速度を緩めず、速いペースで山を下りていった。むしろ、【たんたん】の方が彼女にストップをかけた。
「ちょっと、しっかりしてよ……もう」
「そ、そんなこと言ってもさ。こういう道は慣れてなくって」
「道の問題じゃなくて、君がへたれすぎるんでしょ」
「おっしゃるとおりで……」
膝に手をついて、荒い呼吸をしながら【たんたん】はPDAを取り出して位置を確認した。PDAには自分の現在位置が示されている。本来、初期設定では自分の位置表示は出来なかったが、しばらく操作してみると、いろいろと変更が加えられることを発見したのだった。
現在位置は、U-17付近と表示されている。【ちとせ】が指定した、『本部をまっすぐ南に、出来るかぎり行った場所』に近づいているようだ。
ちらり、と【ちとせ】に目を移した【たんたん】は、何となく言葉を口にした。
「本当に、みんなは来るのか」
「……それはわからないけど。みんなが何を考えているから、わからないから」
そのあたりは【ちとせ】もはっきりと確信を持てなかった。確かに約束は交わしたが、他の人達が協力しない、もしくはそのパートナーがそういう人でなければ、これはどうにもならなかった。
ただ確かなのは、自分は誰かと戦うことなど出来ない。それが【ちとせ】の判断だ。
「とにかく、急ぎましょ」
「辛いマラソンだなあ……」
愚痴をこぼしながらも【ちとせ】のアイデアに付き合うのは、それだけ彼が彼女を信頼、もしくは評価しているということだった。
ふたりが走り出そうとしたとき、突如、けたたましいサイレン音が島中に鳴り響いた。警戒して身をかがめた【たんたん】は、PDAが何かを受信していることに気づく。
サイレンは数回ほど鳴ってから止み、ふたたび夜の静けさが戻ってきた。
「放送……そういうことか」
「どうしたの?」
「PDAに情報が転送されてきたみたいだ。禁止区域と……もう誰か死んだのか!」
真っ先に、【たんたん】は、残り人数に目をやった。最初に殺された【太鼓侍】を除いて、さらにふたり、誰かが殺されていたのだった。早くも新たな死亡者が出たことにふたりは驚きを隠せなかった。
「そんな馬鹿な……。誰かに殺されたのか?」
「そう、考えるのが確かでしょうね」
【たんたん】の背中に寒気が走った。いつ、今何時、自分の見えない場所から狙われているかわからないという危機感がより一層強まり、根拠もなくあたりを見回さずにはいられなかった。わずかなPDAの光以外、あたりを照らすものはなく、見回したところで何も見えなかったが。
次に、禁止区域の追加ファイルを確認する。ファイルを開くと、自動的にPDAに禁止区域に関するデータが記された。『R-10』『M-13』『I-6』『Q-14』『G-12』が8時10分から追加される禁止区域らしい。現在のところ、ふたりの行動に影響のありそうな場所はなかった。
ぱっと見る限り禁止区域はランダムに選択されているように見えるが、だとしたら尚更厄介だった。さらに、禁止区域が発表されてからわずか10分しか余裕がないとなると、動けなくなった場合は致命傷だろう。
「はあ……」
「ちょっとやめてよ、ため息なんか」
「生き残ったからってどうなるんだか……」
「男のくせに、本当に根性ないわね」
そうは言われても、生き残る確率は、わずか『16分の1』しかないのだと【たんたん】は思わざるをえなかった。……いや、パートナーにも左右されるのだから、もっと低いかもしれない。……主に、自分が足手まといになるのが原因で。
最終更新:2014年01月26日 12:15