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【金星】はすばやく歩きながらも、影があった場所から目を離さなかった。今のところ動きも無く、辺りに他の人影は見えない。しかも、銃声がどれほど響いたかはわからなかったが、下手にひとつの場所に留まるのは得策とは言えなかった。
先ほどの銃撃が当たったかどうかはわからなかったが、何にせよ、確認しない手はない。場合によっては、無駄な戦闘を行うことなく状況を有利にできる可能性はある。同時に、危険とも隣り合わせとなる賭けだった。フィフティー、フィフティー……。数学という世界を遥か先まで理解している【金星】にとっても、未知数が多すぎて答えがでない方程式に近かった。
昔から、身体を動かすよりも頭で何かを考えるほうが好きだった【金星】なのだが、頭で考えることを身体で行うことも、また得意と言えば得意であった。銃や戦闘に関することも、ただ知識を持っているだけにせよ、他の生徒よりは本格的な動きをしている。
頭の中で考えただけではわからないこともある。物理的な運動は、時に人の予想できない動きによって大きく変化するのだ。そんなことを考えながら、金星は歩を進めていた。
そのとき、【美木】が突然立ち止まって口を開いた。
「……あの、【金星】君。頼みがあるんだけどさあ……」
「え?」
「【金星】君だからなんだけど……できれば、相手を見つけても撃たないようにしてほしいんだけど……」
普段から元気な【美木】に似合わず、消え入りそうな声で彼女はそう言った。その言葉に少し返答を迷った金星だったが、無下に否定するのも躊躇われた。実際、彼自身も本気で人を殺したいわけではなかった……。
「……極力、なら」
「ありがとう」
その言葉で、少し【金星】と【美木】の溝は狭まったようにふたりとも感じた。このふたりにとって重要なのは、理解すること。互いの考えを知り合うことだった。
最終更新:2014年01月26日 12:21