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突如、金星は弾かれたように足を止めて、手に持っていたデリンジャーをも取り落としそうになった。数メートル先を、ひとつの影が通りかかったのだ。顔を見るまでもなかったが、それが先ほど【金星】が狙撃をした相手で無いことは間違いない。それだとあまりにも、鉢合わせる時間が短すぎる……。
幸いにも、ふたりが同時に気づき身を屈めたために、相手は気づかないようだったが、しばらくふたりはその場から動くことが出来なかった。理由が何にせよ、この場にも一組のグループがいることが、【金星】の計画を狂わせ始めていた。そして見間違いで無ければ、その通り過ぎた影のひとつは、【黒影】という最悪の人物だった。同時に見て取ることができたのは、その手にライフルのような、重たげな黒い塊が握られていたこと。

最悪だ、と【金星】は舌打ちをする。ここまで近くにいる以上、下手に動くことも出来なければ、ましてやこの木々の中では狙撃もできやしない。何より、予想外のグループがいる以上、さらにそれ以外の人物がいない可能性も低くなってしまった。
かと言って、正面からぶつかったところで勝てる見込みもあるかどうか……。

複数の考えを同時に巡らせる【金星】は、そのとき周りの状況を見ることが出来ていなかった。それが、【美木】の「うっ……!」という小さなうなり声さえ、彼の耳から遮断していたのだった。
ふと我に返ったと同時、草を踏みしめる足音が聞こえると同時、【金星】の肩に痛みが走った。弾かれた身体は、次の一撃こそ回避したが、振り返ったと同時に、【金星】は死を半ば覚悟した。

「ご、ごめんなさい。恨みはないけど、あたしは死にたくない!」

そう言いながら金星にバタフライナイフを向ける【灼眼のルイズ】の腕は、わずかに震えていた。その震えが、彼に一撃の致命傷を負わせることが出来なかったのかもしれない。
それでも、金星に何かできることがあるかと言えば、【ルイズ】の足下に落ちたデリンジャーにわずかに目を向け、さらにその先に転がった、動かなくなったひとつの人影を見ることだけだった。
【黒影】は完全なおとりだった。すでに【金星】達に気づいていた【黒影】は、自分を囮に注意を惹かせ、【ルイズ】を真後ろから仕掛けたのだった。それに気づいたときには、【金星】は人生の中で、一番の計算ミスをしてしまったと落胆した。

複数の考えを同時に巡らせる【金星】は、そのとき周りの状況を見ることが出来ていなかった。それが、【美木】の「うっ……!」という小さなうなり声さえ、彼の耳から遮断していたのだった。
ふと我に返ったと同時、草を踏みしめる足音が聞こえると同時、【金星】の肩に痛みが走った。弾かれた身体は、次の一撃こそ回避したが、振り返ったと同時に、【金星】は死を半ば覚悟した。

「ご、ごめんなさい。恨みはないけど、あたしは死にたくない!」

そう言いながら金星にバタフライナイフを向ける【灼眼のルイズ】の腕は、わずかに震えていた。その震えが、彼に一撃の致命傷を負わせることが出来なかったのかもしれない。
それでも、金星に何かできることがあるかと言えば、【ルイズ】の足下に落ちたデリンジャーにわずかに目を向け、さらにその先に転がった、動かなくなったひとつの人影を見ることだけだった。
【黒影】は完全なおとりだった。すでに【金星】達に気づいていた【黒影】は、自分を囮に注意を惹かせ、【ルイズ】を真後ろから仕掛けたのだった。それに気づいたときには、【金星】は人生の中で、一番の計算ミスをしてしまったと落胆した。

「美木を……殺したのか!」
「な、なによ! あんただって人を殺そうとしてたんでしょ! 何よ今更、何が言いたいのよ!」

【ルイズ】は少しヒステリックな声で反論し、さらに強調するようにバタフライナイフを【金星】の目の前に突きつけた。それを見て、【金星】の焦りは鎮火していた。あまりにも、人を殺すことに恐怖を感じているその姿は、甘いと同時に哀れでもあった。こんな状況になっても、彼女は人として感情を持ちすぎていた。

「別に、殺すことに何か異論があるわけじゃない……。ただ、震えた手じゃ、まともに人も刺せないぞ」
「うぅ……。五月蠅い!」

【ルイズ】は声と共にナイフを振り上げていたが、あまりにもその動作は大きすぎる素人のものだった。すでに痛みが引いていた金星は、軽やかにそれを避けて、【ルイズ】の足下に転がっていたデリンジャーをかすめ取る。しかしそのまま、反撃することもなく、地面に転がって動かなくなった【美木】を一瞥してから、その場から全力で走り去った。

所詮、【ルイズ】をこの場で倒せたとしても、近くにいたであろう【黒影】が戻ってきたら勝機はないだろう。それに、このデリンジャーごときでは、たとえ急所に打ち込んだところで、体力ゲージをすべて奪いされるとも考えられない。それならば、逃げたほうが賢明だろう。
スナイパーライフルなどを置いたままということもあるが、何より彼が悔しかったのは、【美木】が殺されたことに他ならなかった。パートナー以上に「少しは上手くやっていけるかもしれない」と彼の人生で、初めて思わせた相手……。それだけに、喪失感のようなものが渦巻いて、今はただ、がむしゃらに足を動かすことしか出来なかった。

「くそっ、くそっ……絶対に生き残ってやるさ。絶対にだ!」

自分自身と、もはや見ることもないだろう【美木】に【金星】は、『計算』ではない『誓い』を立てたのだった。



【残り28名】

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最終更新:2014年01月26日 13:40