30ページ目
彼は取り繕うように、その横にあった冷蔵庫に手を伸ばし、中身を確認してみる。見るからに美味しそうで新鮮そうな野菜や果物が並んでいた。そこにひとつ、紙が置いてあるのを発見する。
『これを食べれば体力回復! リカバリーアイテム!』
「ふざけてやがる……」
完全にRPGゲームのようなものだった。このゲームを操っているのは誰だかわからなかったが、完全に遊ばれているとしか思えない……。
だが、この内容は信じる他なかった。そこに置いてあった手頃な大きさのリンゴをひとつ、手に取っておく。いざとなれば本当に役に立つかもしれない。その辺りは、『登場人物』は『制作者』の意志に従うしかないのだ。
さて、と【一徹】はゆっくりと振り返る。【だだだ】と【のび太】は共に安心しきっているようで、それぞれが目を閉じて思い思いに休みを取っていた。……今しかチャンスはない。自然に、確実に、彼らの喉もとを掻ききれば済む。
だというのに、【一徹】は緊張して冷や汗を掻いていた。仕方がないことだというのに、心のどこかで良心が邪魔をする。本当にこれが正しいのか――? だがやるしかない、やるしかない、やるんだ、やればいい、そうだやろう……!
【一徹】は包丁をしっかりと握りしめ、きゅっと締めた口の奥で歯を食いしばる。ゆっくりと一歩を踏み出し、調理場を抜けようと――
「――おいっ! 起きろ! 今すぐここから出るんだ!」
突如、ドアを開けて【誠】が飛び込んできた。【一徹】は不意を突かれて、その場で包丁を取り落とす。しかし、慌てた様子の【誠】や、意識が半分飛びかけていたふたりには、それは気づかれなかった。
「な、何?」
「誰か分からないが、こっちに――」
その瞬間、発砲音と共に、【誠】のすぐ横のドアに風穴が開いた。部屋の中へと転がり込む【誠】。
「……問答無用か!」
「裏口があるよ! こっちに!」
【だだだ】は、店の裏へと続く通路を指さした。その先には、店の裏へと出られるであろうドアが見て取れる。【一徹】は【誠】に手を貸して、身体を起こした。
同時に、店のドアが激しく蹴り飛ばされて開く。
「おらっ! 動くんじゃねえ!」
「る、【るく】?」
「おー、久しぶりじゃねえかカス共。ここらで仲良く生存ごっこか?」
【るく】は一般的な拳銃の『M92F』を構えながらケラケラと笑う。金髪は【一徹】達が数ヶ月前に見たものと変わらず、その存在感は衰えてはいなかった。数ヶ月前から行方不明という噂だったが、何をしていたのだろうか。
【だだだ】と【のび太】は裏口近くまで行っていたが、【るく】の監視下ではそれ以上の動きは出来なかった。
「お前……いままでどこに?」
「うっせえ! しゃべってんじゃねぇぞ! お前らの武器と持ち物、PDA、全部置け。そうすれば見逃してやる」
拳銃をそれぞれに向けながら、【るく】はそう指示した。
最終更新:2014年01月26日 12:27