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気配を感じてとっさにしゃがみ込んだ【風】の頭の上を、刀が皮一枚の距離で掠めていった。【福永】から数歩離れた【風】は、再び【福永】へと向き合う。

「ふ・ざ・け・ん・な・よ! まだ話は終わってねえ!」
「ちっ、調子が狂う――」

このとき、【福永】は初めて苛立ちを覚えた。ここ最近で冷静になっていたとばかり思っていた自分が、ここまで……それもまるでバカらしい【風】という相手に翻弄されていることは、同時に焦りにも似た感覚を生み出す。それが、刀の振りにも影響していた。
【風】は恐怖からの興奮か、額に汗を浮かべながらもニッと歯をむき出しにして笑みを浮かべた。

「というわけで、お前をぶっ飛ばす! 覚悟しろよユウジ!」

ぶんっと手を振り上げた【風】の行動に、【福永】が警戒して一歩後ずさった。
【風】は地面に向かって野球ボールほどの何かを投げつけた。瞬間、もくもくと辺りを覆い始める白い煙は、夜の視界をさらに悪くさせた。

「――煙幕だとっ!」
「逃げるが勝ちっ! 逃げるも勝ちっ! お前をぶっ飛ばすのはお預けにしてやるよボケぇタコぉ!」

そう【風】は吐き捨てて、【ココ】、そして彼女が支える【だだだ】と共に、煙幕が立ちこめる闇の中へと姿を消していった。
残された【福永】は呆然とその場に立っていたが、やがて現れた【るく】と目が合うと、静かに頭を下げたのだった……。かつて、立場は逆だったふたりに何があったのかは、未だ誰かが知るよしもなかった。


【残り26名】

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最終更新:2014年01月26日 13:42