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デリンジャーが一丁。装弾数は2発のみ。辺りは月明かりがある分、まだ明るい方。これだけであっても、計算高い【金星】にとっては二目、三目もハンデをもらったようなものだった。飛び道具というのは初撃さえ決まれば非常に有効であるが、そのポテンシャルは使用者の腕に左右される。ただ【金星】には底知れぬ自信があった。
PDAが独り身になったことを知らせる音……そのゲームオーバーカウントまでの秒数を刻み続ける数分間。近くにいたペアを見つけられたのは、もはや運以外の何者でもなかった。PDAの警告にも焦らず、2分ほどその後を一定距離で追い続けた【金星】は覚悟を決め、その距離を縮め始めた。

前方にいるのは、【波風華月】と【レイナ】である。ふたりとも周りを警戒しているのか、進みは比較的遅い。特になにやら仲が悪いのか、妙にふたりの距離が離れているのも原因だろう。【波風】は【レイナ】を気にしながら歩いているようだが、彼女はさもそれを迷惑そうにしている。

最も、その気持ちも分からないでもない。あの【波風】はいつも下心が見えすぎている。現実の女には興味が無いと言いつつアニメに嵌り、その割には女子の前では良い顔をしたがる。
ただし、それがいつも見え透いた行動であるが故に、男子からも女子からもそう評判の良いものではなかった。
PDAの警告が早まり始める。時間は少なかった。

「……いくぞ」

息をひとつ吸い込むと、数メートルほどまで接近したところで一気に飛び出した。ふたりの間に出て、一瞬でふたりの様子を観察する。【金星】は――脅威になりそうな【波風】を選んだ。
【波風】も反応は素早かった。とっさに手に持っていた『警棒』が投げつけられる。しかしそんなものでは【金星】は止められなかった。躊躇せずに、デリンジャーを向けて引き金を一回引く。ノズルフラッシュが辺りを一瞬明るく照らしながら、初弾は【波風】の肩を貫いた。

「ぐはっ、うっ……まだまだ!」

しかし、やはりすぐに痛みは退いたのか、距離を詰めて、その強力な足が飛んでくる。さすがキックボクシングを習っているだけあって、その一撃は正確であり重みがあった。

蹴りが手に当たり、【金星】の手にあったデリンジャーは二発目を使うことなく、茂みの遥か向こうへと飛んでいった。だが、【金星】は諦める要素はなかった。キックボクシングがなんだ、所詮は競技用の武術でしかない。それは人を殺せるほどのものではない。その力は、人を殺す覚悟を持って使えないだろう、武闘家ならば。
【金星】は、先ほど拾っておいた鉄パイプを腰から引き抜く。

「お、おい! 鉄パイプなんて卑怯だろ!」
「……相変わらず君は、状況が読めないね。そういうところがいけないんだよ。バカっていうんだけどね、そういうの」
「なんだとこのやろっ!」
「短気で八方美人で下心も隠せない愚か者。……ああ、最も酷いのは、どチビってことだったかな」
「――っ!」

怒りに震えた【波風】の蹴りを鉄パイプで受け止めると、その足を思い切り鉄パイプで殴りつける。初めての感覚だが、悪いものではなかった。確かな手応えと苦痛に顔をゆがめる【波風】の顔を見ると、アドレナリンが次々と湧いてくる。……いけないな、こんな凶悪な顔をしては。

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最終更新:2014年01月26日 12:50