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ちらり、と視線を一瞬だけ彷徨わせる。【レイナ】は少し離れた場所で、静かにこちらの様子を見ていた。おびえているのかは分からないが、好都合に変わりはない。

「さあ、そろそろ終えよう。僕にも時間がないんだ」
「ふざけんなっ!」

性懲りもない、と【金星】は拳を振り上げてきた【波風】の手を払いのけると、身体を押して地面へと転ばせた。……紳士的なやり方ではないし、計算高さも感じられないが、仕方ない。しっかりと鉄パイプを両手で握りしめると、【波風】の頭に向かって思い切り振り下ろした。
手応え、視覚確認、高揚感。そのすべてが、【波風】が死んだことを告げていた。実力差などわからなくとも、こいつにだけは勝てるという自信はあるものだ。
【金星】が振り返ると、【レイナ】は嬉しそうに手を合わせた。

「ありがとぉ、丁度鬱陶しかったのよね。あなたひとりっぽい? パートナー欲しいんでしょ?」

嫌な女だと【金星】は心の中で思う。目の前で誰かが殺されても、それを良かったと言えるその時点で、メンタル面に問題を感じる。出来ればこんな女とは組みたくはないが、仕方ないだろう。

少なくとも、脅威となりそうな人間を残しておくことは良いことではない。予想……根拠の少ない勘のようなものだが、この戦いで生き残るのはおそらく「ひとり」だ。それに備えても、脅威を減らしておくことは重要だった。
【金星】は素直に頷いておいた。どうせ、また時間が経てば、パートナーを失ってあぶれてくるやつも出てくる。それまでの辛抱だ。
【レイナ】は【波風】と同じくらい空気が読めないやつだ。それを明るいという人間もいるが、【金星】はどうも好きになれなかった。一言でいえば五月蠅いのである。

「まあ……足は引っ張らないでくれ」
「誰に向かって物言ってるのよ。大丈夫、危険になったらあなた放ってでも逃げるから」
「そうしてくれ」

いざというときに、囮になるぐらいの価値はありそうだった。【金星】はだんだん、自分の心が黒く染まっていくことを感じていた。だがこの開放感は、いままでにない。もっと、誰かを殺してみたいという気持ちは、もはや否定できないものになりかけていた。
丁度、午後0時を告げるサイレンが鳴り響いたときだった。

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最終更新:2014年01月26日 12:51