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  • 2日目 午前0時21分
木の陰に腰を下ろし、【たんたん】は、ひとつ静かに息を吐いた。突然の襲撃は、その後に続くことがなかった分、逆に、常に気を張り続けなければならないのは辛いことだった。【ちとせ】に命を救われたのは間違いないだけに、自分の注意力の無さが情けなく思う。

「ほんとうに体力ないのね」
「ごめん、だけど、そういう風に設定されちゃってるのかも」

【ちとせ】の言葉に、【たんたん】はそう返す。PDFを見ると体力(ライフ)ゲージ、およびスタミナゲージが常に表示されているのだが、そのスタミナゲージは、【たんたん】が少し体力を使う移動をするとすぐに消費され、そして身体が重くなっていく。その回復にも、数分の時間が必要になっているらしい。
対して、【ちとせ】はというと、明らかに【たんたん】よりもスタミナゲージの減りは遅く、また回復の早さも比べものにならなかった。陸上部の過去をもつ【ちとせ】に与えられたアビリティというわけなのだろう。
……そう比べると、いかに自分が情けない状態なのか、【たんたん】は嫌ほど思い知らされる。

「仕方ない……とは言わないわよ。男なら、もっと普段から体力ぐらい付けておきなさい」
「面目ないです……」

暗い森の間をすいすいと抜けていく【ちとせ】には、頭が上がらなかった。
何か出来ることはないかと、【たんたん】はPDAを起動し、マップを確認した。
ふたりは、小さな湖の周りを沿うように南へと進んできたのだが、現在見える範囲には、南の端の方に灯台とおぼしき建物が建っていた。丁度、T-20に当たる場所だ。ふたりはそこを目指していた。
【ちとせ】の考えが他の誰かにきちんと伝わっていたのなら、誰かひとり、いやワンペアだけでも、そこにいるはずだった。

「……よし、もう大丈夫だ。行こう」
「早く、建物には着きましょう。これ以上、出歩くのは危険だと思う」

夜はすでに深い闇を落としており、どこから、誰かが常に狙っているような感覚は、ふたりを精神的な面で追い詰めていた。

明かりの灯っていない灯台の周りは、辺りと同じく薄暗かったが、どこか建造物というだけで安心できる部分があった。幸い、その周りは広場が広がっており、他に誰かいないかどうかも容易に確認できる。動くものがあればすぐ目にとまるだろう。
灯台の入り口の扉を、【ちとせ】はゆっくりと回した。鍵はかかっておらず、扉は少し軋んだ音を立てながら開く。中に反響する分、【ちとせ】は開けてからしばらく、中に入るのを躊躇った。

「誰かいる?」
「知らないわよ……。確認してよ」
「ええっ、僕が?」
「かっこいい見せ場を少しぐらい作りなさい、情けないんだから」
「うっ……」

そう言われて、【たんたん】はしぶしぶと灯台の中に入った。【ちとせ】は扉のすぐ内側に回り込み、そこで中の様子に注意を払った。

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最終更新:2014年01月26日 13:43