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灯台の中は、中央にらせん状に上る階段と、その周りには閉ざされた扉がふたつあった。いきなり上に行くのも嫌だと感じて、【たんたん】は下のふたつのドアから確認してみることにした。
ひとつは、大きな部屋だった。机とイスがいくつも並んだ、休憩所のような場所だった。いくつもの窓が、外の仄かな月明かりを取り入れて部屋の輪郭を浮かび上がらせている。当然、人の気配はない。
もうひとつの部屋は、売店のような場所だった。薄汚れたポップ広告やポスターが張られている。同じく、人の気配はない。【たんたん】は少し気になって、中を見回ってみた。
陳列棚には何かの商品箱のようなものがいくつかおいてあるが、すべて中身は空っぽのようだった。レジの裏にまわってみる。同じく、何かしらの箱が置いてあるだけだったが……
「こういうこと、ちょっとしてみたくなっちゃうよねえ……」
レジ台は開いてはいなかった。まったく無意味だとしても、【たんたん】は少し気になって、レジを触ってみる。……電気が通っていないらしく、無反応だった。
ふと足下を見ると、棚の中に拡声器が転がっていた。それだけならいいのだが、妙なのは、もうひとつそこに転がっていたような、うっすらとしたホコリの無い部分があることだった。
「誰かいる!?」
今更ながらに【たんたん】は警戒して身を屈めた。そもそも、無警戒に部屋の中に入った時点で危険だった。
おそるおそる、何もいないことを確認して、【たんたん】は急いで部屋から出た。
「何かあった?」
「たぶん、誰かいる! ここに!」
「見たの?」
「いや、でも……」
そのとき、ふたりは微かな物音に気づいて振り返った。上階へと伸びる螺旋階段の先に動く影に、【ちとせ】は武器として支給された強力な『ライト』を初めて向けた。暗闇の中でそのライトを直視すれば、目がやられる危険さえあるほどの強力な光が、動く影を瞬く間に照らし出す。
「誰!? すぐに降りてきなさい! こちらには銃があるわよ!」
【ちとせ】の言葉に【たんたん】は一瞬だけひるむが、すぐにそれがはったりとして言ったのだということに気づく。もちろん【たんたん】の武器は銃などではなかったし、これまでの間にもそれを取得できる機会はなかった。
明るみに出た存在は、当然ながらふたりも見覚えはあった。
「ちとせ、ちゃん……ですか?」
「【凪】……?」
【ちとせ】はライトを少しだけ下げる。
【神田 凪】は、【ちとせ】の親友であった。【ちとせ】とは対照的に、静かでどこか気弱な面のある彼女だったが、その様子は現在でも変わることはなかった。おびえた様子で、【凪】はゆっくりと階段を下りてくる。
……危険がないとは言えなかった。【たんたん】はいつでも動けるように神経を研ぎ澄ませる。何があるとはわからない。女の子ひとり程度なら、彼にも抑えられるだろうが、【凪】のペアがどこにいるか……。
最終更新:2014年01月26日 12:55