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「よかった、【凪】がここに来てくれて。……もうひとりは?」
「それが、助けてほしくて。実は私のペアは――」
同時、【凪】の声は遮られる。灯台内に響く、拡声器による声。調律をするような、発声練習のような声――。
「【凜】!? 何してるの、あの子!」
【ちとせ】は急いで螺旋階段を駆け上る。【たんたん】も後を追おうとするが、【凪】に服を捕まれて立ち止まった。
「な、何? 今は【日暮里】さんを……!」
「これ、【たんたん】さんに……」
そう言って、【凪】が【たんたん】の前に差し出したのは、一丁のリボルバー拳銃だった。信じられないという表情を向ける【たんたん】に、【凪】は弱々しげにもほほえんでみせた。
「私じゃ、使いこなせないので……きっと【たんたん】さんが持っていたほうが、役に立つと思います」
「……状況わかってるの? 僕らは敵だよ!? それに、そんな簡単に信用してっ」
「――信用する理由は、もう充分持ってますから……」
【凪】の言葉に、【たんたん】はその心の中の気持ちに気づくが、それを受け入れられることも、また何か返事を返すような状況でもなかった。出来るならば、こんな形でありたくはなかったのは、ふたりとも同じだった。
ひとまず、【たんたん】は拳銃を受け取って、【凪】と共に【ちとせ】のその後を追った。
声は上階に行くほどに近づき、その音は灯台だけではなく、その静かで暗い夜にまで響いているようだった。早く止めなければ、他の参加者がやってきてしまうのは間違いない。
先に発生源についた【ちとせ】は、音に耳をふさぎながら叫んだ。
「やめなさい、【凜】! 誰かがこっちに来てしまうわ!」
灯台の最も上階で、窓を開けた部屋の中、【日暮里 凜】は歌っていた。
「……もう、あたしの練習を邪魔しないでよね。もうすぐ本番なんだから……」
「【凜】、あんた何を……!」
「私は【Rin】! アイドルの【Rin】なんだから! みんなにもあたしの歌を聴いてもらうんだ!」
そういうと、【凜】は再び発声練習を始めた。【ちとせ】は唖然として、言葉を失った。そこに【たんたん】と【凪】も追いつく。
「これ、どうなってるんだ?」
「とにかく今は、どうにかして【凜】を止めないと。……これでっ!」
【ちとせ】は、側に置いてあったパイプイスを持ち上げ、大音量を発している拡声器のスピーカーめがけて投げた。すぐ側にいた【凜】の横をかろうじてすり抜け、イスは見事にスピーカーに直撃し、その大部分を破壊する。
すぐに音は消え、【凜】は訝しげな表情を浮かべた。
「あー! なんてことしてくれるのよ!」
「なんてこと、じゃないでしょっ! なに考えてるのよ、あんた!」
「うるさいうるさい! あたしはもうすぐ舞台なの! 【凪】っ!」
最終更新:2014年01月26日 12:56