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【凜】が声をあげると同時、【ちとせ】は背後の気配に気づいた。
しかし、すでに遅かった。【凪】は【ちとせ】と同じように、パイプイスを持ち上げ、背後から思い切り振り下ろした。避ける間もなかった【ちとせ】は、その直撃を食らって、地面へと倒れ込む。意識は無かった。
「ごめんなさい……」
「【神田】さん、【日暮里】さん! どうしてこんなことを!」
「【たんたん】! あんたは、あたしの舞台の手伝いをしてもらうから」
なにを、と言い返そうとした【たんたん】を、【凪】は制した。
「【凪】はきちんとわかってるからね、えらーい」
「どういうこと?」
「もしどこか逃げようとしたら、あなたもゲームオーバーだから」
そういうと、【凜】はポケットから手のひらに収まるぐらいの、レバーのようなものを取り出した。その先には、何かのスイッチがついていた。
「このスイッチ押しちゃうと、あたしの周りにいるみんな、ゲームオーバーになっちゃうの」
「なんだって?」
「結構範囲が広いみたいだから、逃げてもたぶん、駄目。……あたし、みんなを殺したくないの。あたしも死にたくないの。だからね、おとなしくあたしの言うこと聞いて?」
【たんたん】はどうしようもできず、【凪】に連れられるままに動くしかなかった。
連れて行かれたのは、少し下の階に下がったところにある、小さな窓のみが存在する、これまた小さな部屋だった。外からは鍵が掛かるようになっているらしく、倉庫のような扱いの場所らしい。
【凪】は優しく、【たんたん】をその場へと入れた。
「【神田】さん……」
「今はどうしようもできません、ごめんなさい……。あの通り、【凜】は危ないものを持っているので」
「本当に、あれはあんな機能が?」
「たぶん……。説明書があったので」
だとしたら、【凪】すらも【凜】の言いなりになっているということか。ここにきた時点で、【たんたん】も、【ちとせ】も。
【凪】はしばらく扉を開けたまま、何をするわけでもなく、その場に立っていた。
【たんたん】の脳裏によぎる、「逃げられるんだ」という考え。しかし、それでは【凪】は……。【凜】はおそらく、【凪】が裏切ったと考えるだろう。きっと彼女が拳銃を所持していたことも知っているはずだ。間違いなく、逃がしたと思われるに違いない。
【たんたん】には……そんなことは出来なかった。
「……優しいんですね」
「違う、意気地ないだけだよ……」
ふっと【凪】は微笑むと、ゆっくりとドアが閉じられ、鍵がかかる音がした。
暗い闇の中、【たんたん】はどうしようもなく虚しい気持ちになって、顔を伏せた。その手に、受け取った拳銃の冷たさを感じながら、暗く狭い部屋の中で、夜が更けていくのをじっと待った。
PDAに何の反応もない以上、まだ【ちとせ】が生きているのは間違いはなく、またこの灯台の中にいることも確かだった。なら、まだ何らかの方法はあるはず……。
方法ってなんだ? 【日暮里】さんを殺すことか? 【神田】さんを殺すことか? 全員殺してしまえばいいのか? 俺はそれでいいのか? それで俺が生き残って、いいのか――?
最終更新:2014年01月26日 12:57